■使用者の監督下にあれば立派な労働!?
バスの発着所で運転手が休憩している光景をよく見かける。車内でリラックスをする、もしくは外でタバコを吸い、つかの間の休息をとる、運転手により次のバス運行までの過ごし方は人それぞれであろう。私たちも運転手が休憩している姿を見て、折り返し運転の合間なのだろうと、とりたてて疑問を感じることはなかった。ところがバス運転手の待機時間が労働時間にあたるか否かの裁判が福岡地裁で展開された。裁判は北九州市営バスの運転手ら14人が起こしたものだ。訴訟にまで発展した背景には運転手の雇用形態がある。常勤の運転手なら問題にならなかったが原告の運転手らは嘱託。このため時間制の給与体系となっており、待機中は休憩時間とされ賃金が支払われなかった。
■バス運転手の待機時間は労働時間?
嘱託運転手らはこれを不服として未払い賃金を支払うように求めた。5月20日の福岡地裁では、「労働から解放されておらず、使用者の監督下に置かれていた」「バスの移動や乗客対応をする必要があった」(5月21日 日本経済新聞より)などと指摘し、北九州市の"運転手は待機中、自由に休憩している"という主張を退けた。いくら非常勤の運転手とはいえ乗務時間の待機が労働基準法における労働時間外という理屈には無理がある。判決は極めて常識的な内容と思えるが、北九州市は納得しがたい判決として控訴している。労働基準法第34条では、「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」と規定している。ただ、ここで押さえておく必要があるのは休憩時間=労働時間ではないということだ。
■常勤職員は恵まれている? 非常勤職員の悲哀!
休憩時間なら労働者は使用者の拘束を受けないため、賃金は不要となる。「この使用者からの拘束」という事実行為の有無が大きな争点となっている。バス運転手訴訟では休憩時間も労働にあたると認定され、原告の訴えが支持された。運転手の待機時間は喫煙ができスマホも使える。一方車内清掃、乗客の対応などもしなければならず、待機といえども完全なオフとはならない。当然のことながら待機時間において常勤、非常勤という雇用形態の差別が許されるはずはないだろう。原告の運転手らは裁判後の会見で長時間労働を強いられる運転手は多いと訴える。市営バスの運転手は全国的に高給取りとのイメージが定着しているが、非常勤の運転手になると時給制になるなど待遇は悪化する。控訴審の判断がどのようになるかは分からないが、嘱託運転手という非常勤職員の反乱による興味深い裁判になりつつある。
【関連トピックス】
■【コラム】アナウンサー内定取り消し訴訟は意味があったか!?
http://www.legalnet-ms.jp/topics/2015/002470.html
■【コラム】不当利得と損害賠償!企業法務の選択は......?
http://www.legalnet-ms.jp/topics/2014/002345.html
■三大疾病対策に後れをとる企業法務は大丈夫か!?
http://sharescafe.net/44285452-20150422.html
■【コラム】ブラック企業のレッテルが企業法務を蝕む!
http://www.legalnet-ms.jp/topics/2014/002283.html
■パイロット、ドライバーの高齢化が止まらない。その時企業法務は・・・
http://sharescafe.net/41880084-20141113.html
編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2015年12月16日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。