「それはなぜ」
「だって、人間に生まれるってことはいろんな知識や経験を得ることができるじゃないか」
「なるほど、そうですかね」
「それにくらべると、人間に生まれたことによる苦しみなんて多分微々たるもんさ。一生不自由な体でとか、そんなことがない限り」
「当たり前じゃないか。南極のペンギンに生まれて人間のように書物を読むことができるかい? 世界を旅することができるのかい?」
「つまり南極のペンギンで体験できるペンギンの一生は人間に劣るというのだね」
「ああそうとも。どうして人間の一生が南極のペンギンに負けなきゃあならないのだい」
「南極のペンギンの一生は、子供を産んだらすぐ凍りつく風から身を守らせるために父の足元で暖を取らせ、口元に餌を運んでくるのは母の役割だ。男女が入れ違っていて人間では体験できない夫婦生活を実感できるし、過酷な環境下で迷子になると他のペンギンに小突き回されたりもする。誰も他人の子供を守りはしない。苛酷さも人間以上だよ」
「君は少々大げさすぎるようだ。僕は人生でほろ苦い思い出があっても、それよりも深い経験ができる人生を送りたいと望んでいるのだよ」
「深い人生?」
「そう、深い人生さ。それにはたくさんのことを知らなきゃいけない」
「ペンギンの人生は浅い人生で、人間の人生が深い人生? その理由はなんだい」
「だめだね、きみのそういうところが実にいけないよ。深い人生と言ったら深みある人間性のことに決まってるじゃないか」
「あるさ。自信があって、沢山の苦難を経験して、言葉は影響力を持ち、財産の有無に問わず無形の価値を知っているのさ」
「ふうん。ともかく、発言力以外はペンギンでも知ってそうだね」
「知らないさ」
「どうして」
「そんなことは見ればわかるだろう」
「何を見たらわかるの」
「君は小言が多い」
――海