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真顔日記

36歳女性の家に居候している男の日記

アルフレッドビーチサンダルの人魚

同居人女性との日々

 最近、アルフレッドビーチサンダルというミュージシャンを知ったんですが、この人が春頃に出したEPがすごく良い。全四曲収録、最初の三曲はオリジナルで、最後にNOKKOのカバーである『人魚』が収録されている。

 まず最初の三曲がどれもかっこいい。それだけでも打ちのめされる感じ。しかし四曲目のNOKKOのカバー、これがさらに良い!

『人魚』という曲は、これまでなんとなくでしか知らなかったんだが、この人のカバーによって、ここまで凄まじい名曲だったのかと知らされた。気に入った曲があると何度も流すのが自分であるから、この土日は人魚ばかり聴いていた。耳が人魚漬け。

 同居人は音楽そのものに興味がないんで、私が「人魚良い、人魚最高」と連呼していても、反応は鈍い。「こいつ、妙な趣味にでも目覚めたんだろうか」という顔をする。男も三十をすぎると下半身が魚の女に興奮するようになるんだろうか、みたいな顔である。

「ほら、NOKKOの人魚って曲をカバーしてんだよ」と教えるが、「NOKKOも下の名前をローマ字で書くような女だしな…」と言われてしまい、即座にaikoと同じ箱に入れられる。とにかく下の名前をローマ字にする女の歌を好意的に聴いてもらうのはむずかしいのである。

 カバーだから歌ってんのはNOKKOじゃなくて男じゃん、と言うが、「下の名前をローマ字にする女の曲をカバーするような男だし…」と言われる。

 こうなると多少、妙な理屈になっている。

 そんなことを言うならば、私は下の名前をローマ字にする女の曲をカバーする男の曲にハマッているような男である。同居人は、下の名前をローマ字にするような女の曲をカバーするような男にハマッているような男を住まわせている女である。知り合いを辿っていけば六人以内で誰にでも到達できるのであり、誰だって下の名前をローマ字にするような女と六人以内でつながっているのだ!

 しかしこの(屁)理屈は今書きながら思いついたのであり、その時の自分は一言、「そうだけど」と言った。

「そうだよ」と三十六歳は言った。

 それでも最後に、名前だけでも覚えてもらおうと思い、「これはアルフレッドビーチサンダルという人が歌っているんだ」と言っておいたが、まあ確実に覚えないだろうな、と思わせるリアクション。というのも、「アルフレッドビーチサンダル」と言われた時の「はあ」という顔が、完全に言葉を覚える気のない顔なんですね。人は新たに言葉を覚えようと思ったら、絶対にあんな顔にはならない。全身の力が抜けてましたからね。虚脱してます。あんな状態で「アルフレッドビーチサンダル」というややこしい名前を覚えられるはずがない。あの状態じゃ三文字の言葉でギリ。子供用便器の名前は「おまる」。それで限界という感じでした。

 

Honeymoon

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