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「スタンドの代わりにデータで戦え」Wantedlyの“ジョジョジニア”育成に見る、強い開発チームの作り方

タグ : ウォンテッドリー, 開発体制 公開

 
(写真左から)ウォンテッドリーCEOの仲暁子さんと、CTOの川崎禎紀氏

(写真左から)ウォンテッドリーCEOの仲暁子さんと、CTOの川崎禎紀氏

企画立案から実装までのリードタイムを極限まで削り、検証・改善のサイクルを高速に回転させプロダクトに磨きをかける――。これは、イノベーティブなプロダクトを提供するスタートアップによく見られる開発スタイルだ。

しかし組織が成長段階に入った途端、こうした開発スタイルが機能不全に陥ってしまうことが往々にしてある。スキルや経験、考え方が異なる人間がチームに加わることで、創業以来続けてきたやり方が必ずしも効率的ではなくなってしまうためだ。

今年11月、ビジネスSNS『Wantedly』のOpen APIをリリースし、その前の9月には新たなプロジェクト用グループチャット『Sync(シンク)』ベータ版もリリースするなど攻めの姿勢を続けているウォンテッドリーは、2月に開発体制を大きく改めていたという。その理由は、まさに独自の開発カルチャーを維持、発展させながら、さらなるサービス拡大に取り組むためだった。

今回、同社CEOの仲暁子さんとCTOの川崎禎紀氏に、開発体制を見直した理由と創業以来どうやって開発チームを強化してきたのかを直撃したところ、出てきたのは“ジョジョジニア”の尊重と育成という聞き慣れないキーワードだった。

個を尊重するカルチャーの中で育まれた“ジョジョジニア”とは?

謎のキーワード”ジョジョジニア”について真相を明かす2人

謎のキーワード”ジョジョジニア”について、そう名付けた真相を明かす2人

「創業以来、サービス開発で大事にしてきた理念の一つに『Code wins Arguments』(コードは議論に勝る)がある」と話すのは仲さんだ。

「つまり上司にお伺いを立てたり、時間を掛けて議論をしてから機能開発をするのではなく、エンジニア自らが自分で判断してどんどん開発していってね、ということ。ウォンテッドリーは、創業からずっとこれを徹底することで、強いエンジニアリングチームを作ってきました」(仲さん)

彼らが議論より実際のサービスで仮説を検証し、改善につなげることを好むのは、その方がサービスの品質を確実かつ素早く高めることができるからだ。

「すべてGitHub上で行っている機能開発では、権限も極力現場に渡します。それもあって、ウォンテッドリーにはビジネスサイドと開発現場を取り持つディレクターがいないんです。サービス全体の方向性や戦略は役員会が責任を持って決めますが、戦術についてはエンジニアチームやエンジニア個人の判断に任せるようにしています」(仲さん)

こうした「個」を重視するカルチャーは、サービスが一定規模に成長し、絡み合うタスクを並行してこなすようなシチュエーションでも機能するのか?チームが空中分解してしまうリスクはないのか?

そう尋ねたところ出てきたのが、仲さん自身がお気に入りだという人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』になぞらえた“ジョジョジニア”というキーワードだ。

「現状に対する見解や採るべき打ち手について意見が衝突したらどうするか。ジョジョの登場人物たちが『スタンド』で戦うように、(ユーザーの利用結果としての)『データ』を駆使して相手に戦いを挑むんです。だからうちのエンジニアは“ジョジョジニア”(笑)。どちらの判断が正しいかはデータを見れば一目瞭然ですし、結果が明白に出るだけに対立しても感情的なわだかまりを残すこともありません」(仲さん)

こうしたカルチャーだからこそ、システムを支えるインフラのアーキテクチャーも柔軟な仕様にしているとCTOの川崎氏は続ける。

「新機能をすぐにリリースできるよう、サーバのインスタンスが簡単に作成できるのはもちろん、誰でも簡単にデプロイできる仕組みや、品質を保つためのテスト自動化もかなり進めています。また、Wantedlyの各サービスが載るアプリケーションサーバを、ユーザーに提供する価値ごとに分割しているのも、万が一システムに問題が生じた場合に全体に影響を及ぼさずに対処するため。インフラと開発カルチャーは、不可分な関係にあるのです」(川崎氏)

組織再編は、コミットすべき責任を明らかにするため

現在は『Sync』の開発をリードするCTOの川崎氏

現在は『Sync』の開発をリードしているCTOの川崎氏

こうした“ジョジョジニア”中心のカルチャーを保つのは、組織が小さいうちは比較的たやすいだろう。気心の知れた者同士であれば、たいていの問題は阿吽の呼吸で対処できるからだ。

ただし、組織規模が大きくなると、そうもいっていられなくなるのは冒頭で記した通り。そこで必要だったのが、チーム体制そのものの見直しだった。ウォンテッドリーの場合、それまでOS別(≒エンジニアの職能別)に組織していたエンジニアリングチームを、「ユーザーに提供する価値」をベースとした体制に再編したと川崎氏は説明する。

内訳は、

■個人と企業のマッチングやユーザーグロースに責任を負う【ユーザーグロースチーム】
■法人顧客の満足度を上げる【クライアントグロースチーム】
■グループチャット開発を手掛ける【Syncチーム】
■開発環境のオープン化や開発基盤の生産性向上を担う【インフラチーム】

という4チームだ。

この再編により、エンジニアが負うべき責任がより明確になったと川崎氏は強調する。

「iOS開発者、Android開発者がそれぞれ1人しかいないような状況であれば、職能でチーム分けする方が自然です。しかし人数が増える過程で、それまで起こらなかった課題が見えるようになってきました。サービス全体を良くする意識よりも、自分の担当する仕事を上手く回す意識の方が勝ってしまうという課題です」(川崎氏)

同社の開発チームは、2015年11月時点でインターンを含め約30名規模になっているという。組織が拡大していく過程で、全体最適より部分最適が横行しかねない予兆を見つけた彼らは、早期に手を打った。

「エンジニアの仕事って、特定の技術領域を極めることではないじゃないですか。法人顧客、個人ユーザーのどちらに対しても、等しく『価値を提供する』ことが仕事なんです。ただ、以前の組織体制ではそれが不明確だった。だから、自分の仕事がどの価値につながっているのか、今回の再編で改めて明確にしたのです」(仲さん)

週イチで行う1on1や「読み書きGitHub」で文化を継続発展させる

iOS、Android、Web、データ解析など、専門とするテクノロジー領域が機能別チームに分割・吸収されたことで、以前よりも組織を超えた知識共有に取り組むようになり、チーム間のつながりは強固なものになったと2人は振り返る。

事実、同社が社内の技術勉強会として行っている「速習会」は、インターンも含めさまざまな立場のエンジニアがテーマを掲げるようになり、今は週イチペースで継続されている。

「速習会」の開催内容はconnpassにも公開されている

「速習会」の開催内容はconnpassで公開されている

しかし、ウォンテッドリーの開発チームが創業時のような結束力を維持できているのは、組織再編や速習会だけが理由ではないようだ。

「自らの判断で開発を前に進めるためには、全員の意識を一つにまとめる必要があります。そのためにずっと取り組んできたのが、毎週必ず行っている1on1面談です」(川崎氏)

「1度に話す時間は15分~30分程度ですが、今後の方向性や事業戦略について話すほか、仕事の進捗、メンバーが課題に感じていることなどについても、ざっくばらんに話すようにしています。そうすることで意識のブレを最小限に抑えているんです」(仲さん)

メンバーとの1対1の面談は半期に1度、四半期に1度という会社が多い中、週に1度という高頻度で面談を行っているのは、全員に「自分が携わっているサービスにオーナーシップを持ってほしいから」と仲さんは話す。

「“ジョジョジニア”に活躍してもらうための土台づくりとも言えるのが、この1on1で行っている理念や戦略の共有です。人数が増えてくれば、さすがに負担に感じることもあります(笑)。でも、こうした取り組みがウォンテッドリー社内に『次のリーダー』を育てることにつながると信じているので、時間が惜しいとは思っていません」(仲さん)

さらに、“ジョジョジニア”たちがサービス開発をリードしていくカルチャーを維持していく意味合いも含め、全社を挙げて行っているのが、仲さんが「読み書きGitHub」と呼ぶ取り組みである。

「もともとコードを書く人間しかいない会社だったこともあって、今もエンジニア・非エンジニアを問わず、GitHubやSlackなどエンジニアが普段使い慣れているツールで日々の業務を回しているんです」(仲氏)

稟議書の提出やエンジニアへのサポート要請にもGitHubがフル活用されているため、ウォンテッドリーで働く全スタッフに必要なスキルは「読み書きそろばん」ではなく「読み書きGitHub」なのだ。

「メンバーはそれぞれ役割が違うだけで、同じ目標を目指している仲間。周辺でどんなことが行われているか理解し合うことは、しっかりしたサービスを作り、育てていく上でとても重要なことです。だから、手を変え品を変えしながら、知識や経験を共有する場を作っていきたいんです」(仲さん)

同社の行ってきた一連の取り組みは、開発カルチャーの醸成やチームビルディングに苦悩するスタートアップ関係者にとって有益な事例となるだろう。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴


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