僕が住んでいたアパートは、一般的なアパートというよりは3階建てのビルで、1階と2階がオーナーの浅野さんの印刷会社、3階の5つの部屋が賃貸になっていました。
浅野さんは、日曜日以外ほぼ毎日印刷会社で働いていたので、僕は毎週数回、アパートへの出入りの時に顔を合わせていました。
年は40代後半、背が高くて痩せている、いつも明るいおじさんといった感じでした。
浅野さんは埼玉県出身なのですが、熱狂的な阪神ファンで、よく野球の話で盛り上がりしました。
また、初めて一人暮らしをする僕に、美味しいお弁当屋さんや、イトーヨーカ堂に自転車の空気入れが置いてあることを教えてくれたり、アルバイトや人間関係の悩みなどを聞いて貰ったりしました。
そういえば、入居した日から数日間ガスが使えなかったとき、銭湯代を頂いたこともありました。
優しくて懐の深い浅野さんは、仕事が終わってから一時間以上僕と話をしてくれることも度々あって、いつも僕に的確なアドバイスをくれるので、僕は浅野さんが大好きでした。
浅野さんの言葉で特に印象に残っているのは、
若いうちはどこに行っても(どんな仕事をしていても)叩かれる。今は腹が立つだろうけど、年を取ったとき、その時の有り難みが分かるんだ。
実は、この言葉を聞いたのは僕が実家に帰ることを浅野さんに伝えた後で、地元で新たなスタートをする僕に対して、厳しくも暖かい、浅野さんの親心が伝わる言葉だな、と僕は思いました。
2年契約のアパートを5ヶ月弱で引き上げてしまったので、そういう意味でも本当に浅野さんには申し訳ない気持ちがありますし、芸人を辞めてから1日でも早く実家に帰りたかったので、浅野さんが教えてくれたパワースポットの川越氷川神社にも結局僕は行かず仕舞いでした。
浅野さんへ
短い間でしたが、東京では色々とお世話になりました。
東京での思い出は辛かったことが多かったですが、家に帰って印刷会社の仕事場で浅野さんと話をするのが楽しみでした。
僕は今、地元の造園会社で浅野さんの言葉を噛みしめながら働いています。
来年には今の仕事にも、もう少し慣れて、落ち着いてくると思うので、その時は東京に遊びに行きます。
浅野さん夫婦の好きな、僕の地元の「どら焼き」も持って行きますので、また僕の話を聞いてやって下さい。
って、こんなところに書いてないで、手紙でも送れよって感じですね(笑)
とりあえず今日はこの辺で終わります。