人材が先、事業は後
サイバーエージェントはなぜ終身雇用にこだわるのか
地に足のついた会社を目指す。
だから終身雇用を標榜する
お話をお聞きしていると、サイバーエージェントの経営は極めて日本的であるという印象を受けます。終身雇用や新卒一括採用を続けられていることも、その一因です。多くの企業がそこから脱却しようとする中、なぜ終身雇用をやられているのですか。
サイバーエージェントの企業風土というより、日本の風土を重視しているからです。長年培われてきた日本人の価値観は、すぐには変わらないと判断したのです。私が大学を卒業して社会に出た1990年代後半は「終身雇用は崩壊する」「人材はもっと流動化すべきだ」という意見が活発化した頃でした。ところが、大学生が就職活動で大企業の内定を得ようと懸命になったり、優秀な人材が一つの企業を辞めなかったり、自分の会社が買収されたら敗北だと思ったりするものです。長く日本に染み込んだ土壌は変えようとしても変わらないものです。給料や報酬より、自分の所属する会社が好きだという考え方は極めて日本的ですが、日本人には合っていると思いますし、若い人だってそう感じていると思います。堀江貴文さんはその風土を変えてやると宣言されていますが、私はむしろ、風土を変えるのではなく、アレンジすべきだと考えているのです。
10年以上前のことですが、上場直後は外部から大量に人材をかき集めていた時期だったため人の出入りが激しく、社員が不安を覚えていました。サイバーエージェントとして終身雇用を打ち出したのは、社員を落ち着かせようとしたからです。会社はみんなを大事に思っているから、みんなも会社を大事に思ってほしい。そういうシンプルなメッセージです。当初は、実力主義で成果主義の会社のほうが若者に受け入れられると思っていましたが、それは誤解でした。自分の会社が好きで会社に所属することに誇りを持ち、一丸となって仲間とともに頑張る。若い人たちも、それがモチベーションになっていることに気づいたのです。
確かに、この仕組みがどこまで継続させられるかどうかはわかりません。新卒の入社説明会でも、必ずその点は聞かれます。しかし、それはその時点の経営者が考えればいいことです。10年前の時点では、インターネット産業は向こう30年間成長すると予想できました。インターネットを使う世代が10代から30代に偏っていたので、それが全世代に広がるとともに、使えるデバイスも増えるだろうと予測したからです。30年後は成熟し、停滞し、場合によっては廃れるかもしれませんが、少なくとも30年は大丈夫だから、長い目で見てこの30年を頑張ってほしいという社内へ向けたメッセージでもありました。
終身雇用は、過去に日本の基幹企業がことごとく失敗しています。そこでサイバーエージェントでは、終身雇用でも年功序列は採用しないというアレンジを加えました。そこが決定的な違いです。役員に20代がいるぐらいですから、入社して50歳ぐらいになったらせいぜい課長にはなれるという保証はありません。サイバーエージェントの社員に、そうした感覚はまったくないと思います。昇格に関しても、経験や実績の蓄積ではなく人格だと言ってあるので、リーダーとしての格を備えた人材しか上に立てません。
それを評価するのは非常に難しい作業になります。役員会でふさわしい人物を見極めることになりますが、人として安っぽかったり軽かったりするのは対象外、いくら仕事ができて高い成果を上げている人材でも、モラルが低ければ上げることはありません。チームで仕事をすることが多いので、会社に対するロイヤルティが低い人材も却下します。周囲に悪影響を与えるリスクがあるからです。
いくつか条件を並べてみましたが、結局のところ言葉にできない感覚が大切なのかもしれません。どんな人が見ても「あの人はそうだよね」と納得できる人格の持ち主です。そのようにして昇格させようとした人材に対して、役員会で「俺はそうは思わない」と意見が割れることはほぼありません。
自由度が高い会社なので、その自由度を高めるためにも、入り口を厳しくし、相応の規律を設けているのです。この時代に、わざわざ終身雇用を標榜する会社はそれほどありません。サイバーエージェントは地に足がついている。それをアピールする意味でも、続けていきたい制度だと考えています。
◆人材を抜擢する際の基準は何か、経営者として社員にどのようなメッセージを発信すべきか等が語られるインタビュー全文は、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年12月号に掲載されています。
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