2015-11-07
■[経済]日本の“リベラルと左派”が理解してない金融政策(リフレ)と生活賃金、最低賃金引き上げなどとの関係

欧州の左派的な政党も組合も、日本でいうところのリフレ政策(いまの日本銀行の異次元緩和的なもの、金融政策の景気対策への割り当てとその効果)を積極的に評価している。この金融政策への積極的評価を背景にして、反緊縮的な財政政策のスタンスやまた「生活賃金」的主張、最低賃金引き上げの主張も行われている。ここの理解が、おそらく日本のマスコミや政策当局者、政治家、運動家、市民には欠如しているか、むしろ誤って理解されていると思う。端的に日本共産党などは反リフレであるし、また多くのリベラル的な論者も反リフレであることが象徴している。
さてこのエントリーで紹介したが、簡単にいうとケインズ自身が、「将来的な貨幣供給の増加が、将来的な名目賃金(貨幣賃金)の増加をもたらす、そして将来的な名目賃金の増加が不況脱却につながる」と書いている。この点は宇沢弘文も「ケインズ主義」として評している。さらに置塩信雄らがこのケインズの主張を理論的に整理し、それを松尾匡さんが現代的な政策に適用している。
置塩ー松尾のケインズ主義は、要約すると「将来的な貨幣賃金の上昇が、設備投資の増加をもたらす。なぜなら将来の労働のコストが増加することが見込まれるので、それを節約するため現時点での設備投資を企業側は増やそうとするだろう。このとき必要条件としては、中央銀行が将来にわたって貨幣供給を増加することにコミットしていなければならない」というものである。
中央銀行(日本銀行)が将来的な名目所得全体の拡大に失敗してしまうと、名目賃金の継続的な増加は担保されなくなる、つまり「生活賃金」も最低賃金の継続的引き上げも困難になる。
そして経済学的にはまったく下策であり、さらには現実にも何度も失敗してきた(事実上の緊縮の中での)社会保障の拡充などという幻想に突き進むことになる。日本の左派とリベラル(だけでなくもちろん右派や保守の大半も)この理解にまったく乏しい。繰り返すが、この認識がないかぎり、現実にも何度も何度もこれから失敗するだろう。
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■[経済]“左派のサッチャー”と生活賃金(Living Wage)、リフレ政策との関連

松尾匡さんの学会でのコメント関連。僕のtwitterのタイムラインでも一時期非常に話題になったイギリス、スコットランドの左派政党(SNAP スコットランド国民党)の党首スタージョンの「リフレ」政策への注目。
SNAPの経済政策については以下に整理されている
女性の雇用増加、減税、失業率の達成、持続的な経済成長などが主目的。特にその内実をみると生活賃金(Living Wage)の実現が核になっている。
生活賃金は、法的な規制のある最低賃金や、ベーシックインカムとも異なる概念であるようだ。英語版のwikipediaはかなり詳細に解説している(日本版はない)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Living_wage
定義としては以下のものがわかりやすい。
A living wage is defined as the wage that can meet the basic needs to maintain a safe, decent standard of living within the community.
Gertner, Jon (January 15, 2006). "What Is a Living Wage?". The New York Times. Retrieved March 19, 2012
http://www.nytimes.com/2006/01/15/magazine/15wage.html?pagewanted=all
以下の資料も生活賃金の理解に役立つ
http://www.jlgc.org.uk/jp/wp-content/uploads/2014/07/uk_may_2014_01.pdf
日本語の解説やイギリスでの生活賃金の話題を紹介したのは記事としてはまず以下。
ただしこの記事は吉川洋氏の『デフレーション』という僕からみると誤ったリフレ批判が展開されている本をもとにしていること、生活賃金の理論的支柱を誤解していること(実質賃金上昇に傾斜して焦点をあてている、吉川氏らの主張の影響だろうか?)などを割り引いて読む必要がある。生活賃金の理論的背景としては、別エントリーで紹介したが、ケインズ主義(置塩信雄のケインズ解釈とそれの松尾匡さんの応用、または宇沢弘文)的発想が欧州左派やイギリスでの議論のベースとして理解しやすい。吉川氏らは中央銀行の金融緩和政策(量的緩和など)を批判しているが、欧州左派の「生活賃金」主張はむしろ量的緩和などの金融緩和政策と親和的である(理論的にも実際にも金融政策による実質貨幣供給の増加を前提にしている)。そこを注意しないといけない。
注意書きが長くなったが、その点に留意されて以下を読まれたい。
安倍首相も生活賃金の導入を 英国は5年後に時給1665円 デフレ脱出の切り札に(木村正人)
http://blogos.com/article/121473/
少し古くなるが(2012年12月)、イギリスでの生活賃金導入の動きを解説したもの
「生活賃金」3%以上の引き上げ率―労働者全体の平均賃上げ率を上回る
http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2012_12/england_01.html
また松尾さん自身の論説は別エントリーでも紹介しているのでそれを参照のこと。
■[経済]欧州労働組合連合についてのメモ(反緊縮、リフレ関連)

今日の経済学史学会関東部会で松尾匡さんのコメントをいろいろ聞いて勉強になったもので特に欧州の労組や左派政党に関するものを、帰宅してからいろいろググったので以下にメモ。
欧州の労働組合や左派政党のリフレ政策(財政・金融政策の緩和への支持、特に日本との対比では大規模な金融政策への支持、そして反緊縮の姿勢など)については、松尾さん自身が以下に整理している。
闘う欧州労連は量的緩和を歓迎する
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__150520.html
このエントリーのあとに書かれた『週刊エコノミスト』の記事は以下
松尾匡「欧州:金融緩和を歓迎する欧州左翼」 2015年6月16日特大号
http://www.weekly-economist.com/2015/06/16/
欧州労働組合連合(European Trade Union Confederation ETUC)のホームページ
http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio270.pdf
反緊縮にもリフレにも関係ないが関連する論説
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2013/11/pdf/055-062.pdf
小川有美 労働運動のヨーロッパ化