彼がいつ頃からそのアパートにいるのかは知らない。
あの人、怖い。
近所の人達の話題の的になっていたのは、誰が名付けたか知らないが
生活保護くん。
彼の出で立ちが、とにかく異様だった。
黒いベースボールキャップを被り、顔の半分を覆う位のサングラス。さらにマスクで鼻から下を覆い、顔は全く分からない。
両手をお腹の前で、前ならえの固定ポーズで、ぴょんぴょん跳ねる様に歩いている。
田舎の小さい町だから、その彼は異様に浮く存在だった。
彼は、うちの近所の人が大家の二階建てのアパートに住んでいた。
生活保護なんだって。
病気らしいよ。
異様な出で立ちとあいまって、噂は瞬く間に広がったが、誰も彼の生活に踏み込む人は無く、毎日買出し?の為にどこかへ向かう彼を空気の様に扱っていた。
たま~にスーツ着た人が、アパートに車を停めてしばらく滞在してたようだが、それ以外に来客はいないみたいで、次第に噂する人もいなくなり、小さい町はいつもの静寂を取り戻す事になる。
最近、生活保護くん見ないね。
そんな話題が持ち上がってしばらくの事。
オレが仕事から戻ると、アパートの前にハイエース2台と2tダンプが1台。
(引越しか?)
そう思いながらも、特に気にするでも無く、夕飯時を迎えた。
こんばんわ~
近所のおばちゃんが、オカンを訪ねて来た。
しょっちゅう来るので、オレは飯を早めに平らげ、自室に戻ろうとした時
生活保護くん死んでたらしいよ。
と、おばちゃんが声を引くして顔をしかめ、話してきた。
死んでたって、自殺?
違うみたい、餓死みたい。
オレは知らなかったが、生活保護くんは町内会長の家にいきなりきて
2万円貸して下さい
って言った事があったそうだ。
結局貸さなかったらしいが、生活保護貰ってるなら餓死は無いだろうと思った。
服装は派手ではなかったし、交通手段は徒歩。近所のパチンコ好きのおっちゃん達もパチンコ屋で見たなんて事はなかった。
じゃあ何に金使ってたんだろ?
誰もその疑問に答えられる人はいなく、あの3台の車に積み込まれた家財道具も質素だったという。
後日、彼の父親の代理だという人が退去と弁償の手続きをしに来たらしい。
彼の父親もまた、体が悪いらしく、病床の身だったみたいだ。
アパートからは畳が運び出され、大工が数人来て、小規模なリフォームがされた。
腐乱してたらしく、清掃程度では復旧は困難だったみたいだ。
小さな街で起こった衝撃的な出来事。
生活保護を不正に貰う人もいるんでしょ?
ギャンブルに使ったり、内緒で車買ったり。
なんだかな~
必要な人の為のお金を騙し取るバカも、バカに金渡す行政も、その事実を把握しながらなあなあにしてる国も、
なんだかな~。