「10年ほど前、日本人デザイナーが設立したファッション・ブランド『KENZO(ケンゾー)』がセクトンを取り入れていました。このままではセクトンを日本に奪われてしまうと思い、決心しました。『セクトンを現代の韓国人の実生活に取り入れなくては』と」。キム・オクヒョンさんはその後、財布・服・ソファーカバーなどの生活用品にセクトンを使ったアイテムをデザインし始めた。
これに共感して一緒に取り組んだのが次女のヤン・ジナさんだった。だが、ヤン・ジナさんも最初からセクトンに興味があったわけではなかった。
転機になったのは、米カリフォルニア州のファッション・デザイン学校FIDMに入学した後だった。「建国大学大学院で韓服デザインの博士号を取った後に通った学校でした。実用的な服をデザインしましたが、セクトンを使った服は反応が良かった。セクトンの可能性を見いだしたのです」。娘は最近、セクトンでベビー服を製作・販売するかたわら、手作りのセクトンの服やアクセサリーを集めた展示会も開いている。
母娘が博物館をオープンしたのは、セクトンの価値を後世に伝えたいからだ。2人は一日30人ずつ小学生を迎えてセクトンとは何か伝え、巾着のデザインなどの創作教育もしている。娘のヤン・ジナさんは新丘大学で兼任教授として学生を指導している。母娘は11月11日を初の「セクトンの日」と名づけ、セクトンについてPRするキャンペーンも展開する予定だ。11月11日にしたのは、色とりどりの布が1の字に並んだセクトンが「1111」を連想させるからだ。2人は「セクトンは哲学が込められている韓国独自の繊維芸術です。韓国人全員が誇りに思って、もっとたくさん使ってくれればと思います」と語った。