小坂明子は、もしも家を建てたなら、小さな家に大きな窓と小さなドアーと、古い暖炉、真っ赤なバラと白いパンジーがほしいと歌ったけれど、私がいつか家を建てたときには、友人と囲める木のテーブルと、そのテーブルにこの本『世界なぞなぞ大事典』。『世界なぞなぞ大事典』が欲しいのである。
『世界なぞなぞ大事典』。言語学者である柴田武や、誰もが知っている詩人、谷川俊太郎、作家であり翻訳家である矢川澄子など大家が編集に携わり、世界中のなぞなぞを国ごとにまとめた本書。贅沢で良質ななぞなぞの事典である。なぞなぞとその答えだけでなく、そのなぞなぞの解説も丁寧にされている。なぞなぞ独得の、なにかを隠し含めたような、日本語訳が美しく、ところどころにお洒落なイラストも描かれているので、見ていて楽しい。
なぞなぞという言葉遊びは、その土地の文化、言葉に大きく影響されている。例えば、世界のまんなかに住む生き物、なんだ? というなぞなぞ。この答えは、日本語を知るものしか導き出すことができない。なぜなら、このなぞなぞが、「せかい」という日本語でないと成り立たないなぞなぞだからだ。答えは「蚊」。「せ・か・い」の真中に住む、「か」が答えである。これは英語じゃできない。しかし、似たような、つづりをもとにしてできたなぞなぞは外国にもたくさんある。ぜひ、本書を開いて、探してみてほしい。
また、アラビア語圏内では次のようななぞなぞもある。
密やかにもまた公然とも2人姉妹を妻とする夫。
けれど性交するてだてを持ち合わせない。
片方の妻を相手にする時は同時に他方の妻も。
もしえこひいきでもすれば、使いものにならないことになる。
妻の化粧が落ちようものなら、その注意力と親切心はなみなみならぬものがあり、夫としてこれほど稀有なものはない。
アラビア語には、男性名詞と女性名詞があるのだが、このなぞなぞは、その男性、女性名詞を見事に活用したなぞなぞになっている。そしてなぞなぞなのに漂う色っぽさに、どこかアラビアの香りを感じてしまう。
所変わってシチリアには、次のようななぞなぞもある。
バラやいろんな花の大きな篭が夜にひらいて、昼まは閉じる。
ロマンチックな、詩のようである。シチリアにあるうんときれいななにかに思いをめぐらせてしまう。この他にも自然の多い国のなぞなぞは、おのずと、自然の姿を題材にしたなぞなぞが多くなるし、衣服、食物、宗教など、そのなぞなぞの背景の文化や空気が立ち上がってくるのが面白い。気分は世界旅行である。
この本一冊がリビングにあれば、暇なときにページをぱらぱら。家族とぱらぱら。酒を友人と飲みながらぱらぱら、できそうな気がするのだ。楽しそうではないか。
ただ、いかんせんこの事典、とにかくでかい、厚い、重い、そして、高価。値段相応の価値はあるとはいえ、高価。古書ならまだ手は届くけれど。だけど、なぞなぞ本を買うならこのシリーズがだんぜんおすすめ。こどもから大人まで、きっと楽しめる、良質ななぞなぞ事典なのだ。この『世界なぞなぞ大事典』から、テーマに合わせてさらに厳選した、「シリーズ世界のなぞなぞ」もある。こちらは、安価だし、ボリュームも大事典に比べて小さいので、まず手にとるには良いかもしれない。本物の言葉遊びの本。この語に尽きる気がする一冊。