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2015-10-13

[]坂井豊貴『多数決を疑う――社会的選択理論とは何か』

多人数の意見を集約するルールとして、多数決があるが、それ以外にも方法があって、どの方法がいいのかをどういう基準で考えるか、というのが社会的選択理論である、という本。

多数決以外にどういう方法があるかというと、例えば、1位に3点、2位に2点、1位に1点と点数をつけて投票し、点数の多かったものをとるという方法があったりする。

「点数の一番多かったものを選ぶ」という意味で、多数決じゃんと思うかもしれないが、「複数の選択肢の中から一つを選んで投票する」方法と、「複数の選択肢に順に点数をつけて投票する」方法とだと、結果が変わるのである。


また、単に数理的な証明の解説本というのでなく、

よりよい民主主義を行うためにはどうすればいいか

ということをテーマに書かれている。

もちろん、本の内容の多くは、社会選択理論における各説の紹介なのだけれど、序文なんかを読むと「結構熱い」と思ったりした。

この研究によって社会をよりよくできるんだ、という熱さというか。


議員選挙の投票方法、改憲基準行政に対する住民参加のあり方などについて、社会的選択理論に基づいて提案がなされており、実際に即した話もあって読みやすいし、面白いと思う。


巻末に、読書案内と参考文献一覧がそれぞれ用意されている。

第1章 多数決からの脱却

1 多数決を見つめ直す

2 ボルダルール

3 実用

4 是認投票


第2章 代替案を絞り込む

1 コンドルセの挑戦

2 データの統計的処理

3 さまざまな集約ルール


第3章 正しい判断は可能か

1 真実の判定

2 『社会契約論』における投票

3 代表民主制


第4章 可能性の境界

1 中位投票者定理

2 アローの不可能性定理

3 実証政治理論

4 最適な改憲ハードルの計算


第5章 民主的ルートの強化

1 立法と執行、主権者と政府

2 小平市都道328号線問題

3 公共財供給メカニズムの設計

はじめに

民主政っていうのは、自分たちのことは自分たちで決めるということ

治者と被治者の一致ってやつですなー

「自分たち」で決めるということは、多数の意見を1つに集約しないといけない

民主的でない投票はあるが、投票のない民主制はない。投票でどの方式を用いるかは、民主制の出来具合を左右する重大要素である。

多数決は、投票方式の1つというわけ。

多数決はどういう場合に使えるのか、それ以外の方式の方が優れているのか、多数決やそれ以外の投票方式について「家電製品のように説明書きが要るのではなかろうか。」そして、建築工法が例えば耐震基準によって判断されるように、いろいろな投票方式についても何らかの基準をもってそのよしあしを判断すべきではないか。

自分たちのことを自分たちで決めたいならば、自分たちでそれが可能となる社会制度を作り上げねばならない。(引用者注:前段で、作る=設計ということで共産主義を感じる人がいるかもしれないが、ということを述べていた上で)これは単なる論理的必然であり、民主制も共産制もへったくれもない。

人々はそうした作業のなかで、自由や人権や平等などの近代的諸価値を発明し、それらを尊重する仕組みを少しずつ社会制度に採り入れてきた。むろんそのプロジェクトは今なお進行中で、ときに退行し、拒否を請け、ひどく不十分ではあるものの。/この本は微力ながらそのプロジェクトの一部を引き継ぐことを意図している。(中略)二五〇年前とは人類史においてはつい先ほどのことだ。(中略)私たちは依然として、ポスト近代を語れるほどの近代には達していないのだ。

このあたりが、「お、この本、意外と熱いなあと思ったところ」w

自分たちのことを自分たちで決めるためには、どうすればよいのか。これは思想的な問題であると同時に、技術的な問題である。

この、技術的な問題として扱うということによって、「熱い」のが決して「暑苦しく」はならない


第1章 多数決からの脱却

多数決の欠点として「票の割れ」がある。

例として、ゴアvsブッシュアメリカ大統領選挙がある。この時、ネーダーが立候補したことにより、ゴア支持の票が割れ、ブッシュが勝利した。

ブッシュ支持が最多の得票を得たわけだが、一方で、ブッシュを支持しない票(つまり、ゴアまたはネーダーを支持する票の合計)は支持を上回る。ただ、ブッシュ不支持が、ゴアとネーダーに割れてしまったから、ブッシュが勝ったのだとすれば、多数決はあまりよくないやり方なのではないか、という疑念が生じる。

ここで、ボルダルール

アンシャンレジーム期のパリ王立科学アカデミーで、ボルダが考えたルールである。

1位に3点、2位に2点、3位に1点と決めて投票するのである。

このボルダルールは、ペア敗者基準を満たす

ペア敗者基準とは、「ペア敗者を選ばない」という基準である。

ペア敗者とは、1対1の多数決での敗者である。例えば、ネーダーが出馬しなかった場合のゴアとブッシュの1対1であれば、ブッシュはペア敗者である。また、仮にゴアが出馬しなかった場合、ゴアの支持者はネーダー支持に回ると考えると、やはりブッシュはペア敗者となる。


順位ごとに点数を付けるルールのことを、スコアリングルールと呼ぶ

例えば、1位5点、2位2点、3位1点と偏りをつけるスコアリングもありうる。順位ごとの点数を等差で刻む、スコアリングルールの中の特殊ケースがボルダルールである。

スコアリングルールの中で、ボルダルールだけが、ペア敗者基準を満たす。

また、点数を固定せず、それぞれ何点を割り当てるか投票者の自由にするルールもありうるが、これは持ち点を全部1位に入れるという選択が有利になり、事実上、多数決と同じになってしまう。


スコアリングルールやボルダルールを実際の国政選挙に使っている例は、存在している(スロヴェニアナウルキリバス)。

実用例については、それぞれの欠点についてもあわせて紹介されている。

キリバスの、議会でボルダルール→国民投票で多数決方式だと、クローン問題というのが出てくるとか。同じ党が同じような候補を複数立てておくと、上位を独占できちゃう問題。

是認投票は、○×をつけて○の多いものを選ぶ。これもクローン問題があるけど、クローン問題の影響が少ない場合はよい方法、と。


第2章 代替案を絞り込む

ボルダのライバル、コンドルセ

コンドルセパラドックスで有名。多数決は、順序が循環している場合があるよ、と。普通の教科書だと、こういうこともあって大変ね、くらいの紹介だけど、コンドルセは実はこれを起点に、どう解決するかまで考えていた、と。

コンドルセが考えた方法について、実は、彼が何を言わんとしていたのか20世紀になるまでよくわかってなかった。

1970年に、ヤングが、コンドルセは最尤法を用いていたのではないかという研究を発表した

最尤法!

こんなところにも出てくるとは!


いくつかの基準で、集約ルールをそれぞれ検討する。

ペア勝者基準、ペア勝者弱基準、ペア敗者基準、棄権防止性、中立

ペア勝者基準はペア勝者が1位になる

ペア勝者弱基準はペア勝者が最下位にならない

集約方法によっては、棄権すると自分に有利な結果を誘導できるという、棄権のパラドックスが生じることが知られており、これに陥らないのが棄権防止性

実は、ペア勝者基準を満たすものは、棄権防止性を満たさない

ペア勝者弱基準を満たすのは非常に少ないのだが、その中でコンドルセの最尤法とボルダルールはこれを満たす。

直観的なわかりやすさなども含めて考えれば、やっぱ、ボルダルールいいんじゃない、と筆者は評価している。


第3章 正しい判断は可能か

ここで面白いのが出てくる。陪審定理。

有罪か無罪かの2択の時、正しい選択はどうやったら出来るか。

まず、コイントスで決める方法。これで、有罪(無罪)の人を正しく有罪(無罪)と判定できる確率は50%である。

人間による判断は、コイントスよりは多少はマシだと考える。例えば60%。

3人で多数決をとるとする。この場合3人全員が正しいか、少なくとも2人が正しい判定をすれば、正しい判定を下せることになる。これを計算すると、1人で正しい判断ができる確率60%より少し高くなる。

人数を増やすと、この確率はどんどん高くなっていく。無限人になると、100%正しい判定を下せるようになる!

みんなの意見は案外正しい!w


民主政における正しい判断とは何か、というところから、ルソー一般意志や主権の話

立憲主義とか二院制とか社会契約とか

間接民主制と直接民主制のあいだにあるオストロゴルスキーのパラドックスなど


第4章 可能性の境界

最近は「熟議」が大事だという話をよく聞くけれど、どうして大事なのかということが分かる。

多数決は最後の手段であって、話し合いをするのが大事なのだ、というのも同様。

熟議は「単峰性」を形成するから、民主政にとって大事

単峰性とは何か

選択肢の選好に峰が一つしかないということ

どういうことか

例えば発電方式を選ぶ時に、風力、天然ガス、火力があったとする。で、風力は高いけど環境によい、火力は安いけど環境に悪い、天然ガスは値段も環境へのよさもそこそこだとする。そうすると、この3つの選択肢は、コストと環境とのあいだでトレードオフの関係にある。コスト←→環境の軸を作ると、左から火力、天然ガス、風力の順番に並べることができる。

コストを重視する人は、火力→天然ガス→風力の順番で優先度をつけるし(先ほどの軸上にプロットすると\こんな感じ)、環境の人はその逆になる(/こんな感じ)。バランス型の人は、天然ガス→風力(火力)→火力(風力)になる(/\こんな感じ)。そうすると、一番高いところが一箇所になる=単峰性。

例えば、火力→風力→天然ガスみたいな順序をつける人がいたとすると、\/こんな感じになる。これは、単峰性成り立ってない。

単峰性が成り立っているとき、中位ルールという集約方法をとると、「票の割れ」「戦略性」という2つの多数決の欠点にたいして頑健性をもつ

「戦略性」とは、自分の一番ではない別のところへ投票することである(死に票になるのを恐れたりする投票行為)。戦略性に対して頑健とは、自分に正直に投票するのが最適な行為だということ。

この時は、コンドルセの最尤法が使える。


アローの不可能性定理については、その含意を強くとりすぎないことが大切、と。

これ、民主的な条件を満たそうとすると、独裁制しかなくなるということを証明

したものとされるんだけど

この本では、アローの不可能性定理は、二項独立性と満場一致性を満たすのは

独裁制しかない、というものだけど、二項独立性って民主制にとってそんな

に大事? と

ちなみに自分は、高橋昌一郎『理性の限界』 - logical cypher scape不可能性定理のことを知ったんだけど、こっちだと5つくらいの条件を満たすのは独裁制だけって書いてあった。自分のメモにその条件の内実が書いてないのでなんて書いてあったかもう忘れてしまっ

たけど。

まあ、アローの不可能性定理はそんなに怖くない、と


争点が一次元の時、単峰性は成り立つ。

争点が二次元以上だと、成り立たなくて、選択肢間のサイクルが生じる。

憲法改正などの重要な案件では、単峰性は成り立たないが、サイクルが生じてしまうと多数決の正当性が失われる。

満場一致が望ましいが、これは厳しすぎる。

何割で可決すると、サイクルが生じないか。

これを計算した研究があって、63.5%だという。そこから、整数値にして64%ルールというのがでてくる。

3分の2による多数で決定っていうルールは、64%ルールと近似

憲法改正って3分の2だから、これって結構妥当だった?

というと、いやそうじゃないと筆者はいう

憲法改正は、国会で3分の2→国民投票で過半数と進む。で、今の国会はご存知の通り小選挙区制がある。これは、少ない得票数でも多くの議席数が取れてしまうことが知られている。国民の過半数の得票で3分の2の議席を取ることも可能。だとすると、実質的には3分の2じゃない。

だから、国民投票を3分の2にすべし、と。

96条について、緩和か維持の議論みたことあるけど、より厳しくしろってのは初めて見たし、その理由としても、硬性がどうのとかいう話にはほぼふれず、3分の2が意見集約として妥当だから、というまさに「技術的」な話として提案しているのも面白い


第5章 民主的ルートの強化

こちらは、行政への住民参加などの話あるいはメカニズムデザインの話

執行(行政)が何故民主的かといえば、政府とは民主的な方法で立法された法律を執行している機関だから、ということになるが、実際には執行側の裁量権というのは大きくて、形式的に民主的だからといって、実質的に民主的(自分たちのことは自分たちで決める)になっているかどうかという点で問題がある、と。

ここで例として出されるのが、小平都道328号線問題

本書でも、國分功一郎の名前が言及されているが、自分としてはこの問題、國分功一郎がなんか関わってる奴程度の認識だった。

都道を建設するにあたり、そもそも代替となる道がすでにある、建設によって環境破壊が起こるという点から、住民の反対運動があり、住民投票することになった。が、投票率が50%を越えないと開票しないという条件が付けられ、結局開票されなかった、と。ちなみに、小平市長は投票率37%だかで選ばれたみたいなことが付言されていてちょっと可笑しいw

そもそも開票すらしないということがおかしい、というのがまず一点なのだが、次に、この問題において投票率って重要なのか、ということも問う。というのも、この道路は小平市の一部を通るにすぎず、利害関係があるのは小平市民の中でも一部なのだ。

例えば、道路建設予定地周辺の住民を対象とすれば投票率はもっとあがるし、逆に、東京都民を対象とすれば投票率はもっと下がる。こういう問題をどう決めればいいか

メカニズムデザインという研究が紹介される。

クラークメカニズムやVCGメカニズムである。フリーライドの問題を解消し、耐戦略性を満たす。

いくつかのプランを示し、そのプランについて支払ってもよいという金額、あるいはそのプランによって生じる不利益が生じると考えるならばマイナスの金額を投票するというもの。

公共財を供給するオークションのような方法である。

電波という公共財については、既にオークション形式が諸外国では一般化している、という話も


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