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【産経抄】
検定廃止の蛮勇 10月14日
韓国で唯一のノーベル賞(平和賞)受賞者である故金大中元大統領は、何かと話題の多い指導者だった。その政治的遺産の一つに、教科書の検定制度がある。ところが韓国政府は、2017年度から、中学高校で使う韓国史の教科書について、検定を廃止すると発表した。政府主導で執筆する、国定教科書に戻すというのだ。
▼韓国の教育界、特に中高校の教師は、左派系学者の強い影響下にある。彼らが支持する歴史教科書では、北朝鮮を美化する記述が目立ち、日本統治下時代については、「抑圧と搾取」ばかりが強調されている。
▼教育相は会見で、国定教科書を導入する理由として、「事実をゆがめて、国論を分裂させている」、一部の教科書の存在を挙げていた。新たな教科書は、「正しい歴史教科書」と呼ばれる。
▼朴槿恵大統領の父親、朴正煕元大統領は、左派の歴史観では、民主化を弾圧した独裁者である。朴大統領の「正しい歴史」では、日本から資金を導入して、現在の韓国の繁栄を築いた名大統領として描き直されるはずだ。慰安婦問題については、ますます日本批判の度合いが強まるだろう。
▼実は、左翼偏向の歴史教科書の「自虐史観」に対抗して、保守系の学者らはすでに新しい教科書を作っている。左派系学者や野党陣営は、検定取り消しを政府に求め、不採択運動を繰り広げるなど、圧力をかけてきた。なんのことはない。日本の「教科書騒動」の再現である。今も育鵬社の教科書に対して、一部の市民団体が執拗(しつよう)なバッシングを続けている。かつて韓国は、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書の排除を日本政府に強く迫った。
▼検定廃止の蛮勇に踏み切る前に、非常識な外交について、反省してほしかった。