1940年7月30日付の朝鮮日報に驚くべき記事が掲載された。1446年(世宗28年)刊行と伝えられてはいたが、それまでその実在が確認されていなかった『訓民正音解例本』が494年ぶりに発見されたというものだった。記事の見出しは「原本訓民正音の発見」。この記事が掲載された翌日から、朝鮮日報はこの解例本の内容を現代語に訳し、8月4日までの5回にわたって連載した。連載記事を執筆したのは当時朝鮮日報社の記者を務め、後に国語学者としても知られるようになった方鍾鉉(パン・ジョンヒョン)氏=1905-52=。彼は当時の朝鮮日報社学芸部長だった洪起文(ホン・ギムン)氏=1903-92=と共同でハングルへの翻訳作業を行い、その事実を明かした上で「誰の名前になっていても共同の労作だ」と記した。解例本翻訳の連載を終えてから数日後の8月10日、朝鮮日報は日本によって強制的に廃刊となった。
国宝第70号の『訓民正音解例本』はユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界記録遺産にも指定されているが、今回これをそのまま復元した復刊本が今月9日の「ハングルの日」を前に発行された。解例本を所蔵する澗松文化財団が企画し、教保文庫が制作を担当した。新たに発行されるこの復刊本は澗松文化財団所蔵の「澗松本」と同じく韓紙に印刷され、四つの穴に糸を通す「四針安定法」によって製本されるなど、できるだけ原本に近い形で復刊された。訓民正音研究で知られるワシントン・グローバル大学のキム・スルオン教授による解説書『ハングルの誕生と歴史-訓民正音解例本』も同時に発行される。
『訓民正音解例本』は1446年の陰暦9月、世宗大王(朝鮮王朝第4代王、在位1418-50)が訓民正音をまとめた事実を知らせるとともに、鄭麟趾(チョン・インジ)、申叔舟(シン・スクチュ)、成三問(ソン・サンムン)など集賢殿(学問研究のための官庁)の学者らと共に、世宗がハングル創製の目的と文字の原理などについて説明した漢文の解説書だ。解例本の表紙には「訓民正音」としか書かれていないが、目次には「訓民正音解例」と記載され、また本文には文字の原理や使用法などについての説明がある。この本が「解例本」と呼ばれているのは『訓民正音諺解本』と区別するためだ。「国之語音、異乎中国」で知られる「諺解本」は、解例本の前の部分の「御製」と「例義篇」だけをハングルに訳し、世祖(世宗の次男、在位1455-68)の時代に発行されたもので、複数の版本が残っている。