今年のノーベル医学生理学賞で受賞者を出した日本と中国では、祝賀ムードに包まれている中、受賞者それぞれの人生に注目が集まっている。
「成功した人はあまり失敗したことを言わない。だが、人より2倍も3倍も失敗している。やりたいことやりなさいと言いたい」
一般的にはあまり名前が知られていなかった北里大学の大村智特別栄誉教授(80)が5日夜に語った受賞の感想に日本中が熱狂した。大村氏は海外の製薬会社と協力し、数多くの寄生虫予防薬を開発した。そして、自身が携わった北里研究所に250億円近い特許収入を渡した。日本経済新聞は「大村氏は日本で最も特許収入が多い研究者として知られている」と報じた。
大村氏は山梨県の農村で小学校教諭の息子として生まれ、中学時代はサッカー、高校時代はスキー選手だった。山梨大学卒業後、定時制工業高校で教師を務め、東京理科大学大学院の修士課程を修了した。30代で米国留学中、産学協力により寄生虫薬アベルメクチン(Avermectin)を開発した。企業と協力して新薬を生み出し、製品販売が実現すれば売上高に応じて特許料を受け取るシステムも考案した。私財5億円を投じて故郷に美術館を建設し、同氏が携わった北里研究所には「日本の細菌学の父」北里柴三郎(1853-1931年)の名を冠した。北里柴三郎はドイツ人学者エミール・ベーリング(1854-1917年)とジフテリアに対する血清療法について共同研究したが、ノーベル医学生理学賞はベーリングにだけ贈られた。日本では「大村氏が北里柴三郎の無念を晴らした」ということで、今回の受賞にいっそう熱を上げている。
中国でも、女性薬学者の屠●●(トゥ・ヨウヨウ、●=口へんに幼)氏(84)が同国初のノーベル医学生理学賞受賞者となったことに歓喜している。しかし、同氏が博士号も留学経験も、院士(最高科学者)の称号もない「三無科学者」という理由で冷遇されてきたことについて、「反省しなければならない」という声も上がっている。中国は、屠氏が1700年前の中国の医学書「肘後備急方」の中にマラリアに有効な薬草「黄花蒿(クソニンジン)」を見つけたことを誇りにしている。また、屠氏の業績が文化大革命期に行われたことも高く評価されそうなムードだ。屠氏は1969年、米国と戦争をしていた北ベトナムに提供するマラリア治療薬を開発するよう指示された。研究チームは71年までに薬草サンプル190種の実験をしたが、すべて失敗した。黄花蒿は191番目に発見した100%治療可能な薬草だった。
だが、中国の科学界は2011年に同氏が「ノーベル賞の前段階」と言われるラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞を受賞するまで40年間、その存在に注目していなかった。このため、最高科学者に対する称号「院士」を決める投票で毎回落選していた。中国「人民日報」のニュースサイト「人民網」は「研究ばかりしていて『関係(有力人物とのコネ)』がない科学者は院士になるのが難しい」と報じた。