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殺人の理由は、大抵くだらない

社会 日常

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anond.hatelabo.jp

「馬鹿ね、そんなくだらない理由で人を殺したの」
母は呆れたようにテレビに向かってそう言った。
ちょうどお昼のニュースの時間帯の話だ。
テレビには、21歳の大学生の男が護送車で運ばれていく姿が映し出されていた。
無機質な白い文字が画面を淡々と流れていく。

女子高生が殺傷されたこと。
人を殺せば刑務所に入って人生をリセット出来ると思ったこと。
小学生から大学生の今まで、自分は何をやっても駄目だと感じていたこと。
そのことを考えると夜も眠れず苦しかったこと。

私は母のように笑うことが出来なかった。
そうだね、くだらないね。
(中略)
自分を責め続けることほどシンドいことはない。
だから、どうか、『くだらない』の一言で片付けるのだけは止めてほしいと思う。
くだらないかどうかは、あなたじゃなくて、今苦しくてたまらない本人だけに決定権がある。




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自己投影

anond.hatelabo.jp

私が最もこの記事で言いたかったのは、
「取り返しの付かない過ちを犯してしまう前に誰も救いの手を述べなかった」
ということです。

母親のいう

「馬鹿ね、そんなくだらない理由で人を殺したの」

という言葉が自分に刺さるように感じるこの増田(書き手)は、犯人に自己を投影してしまうからこそその言葉が自分に返ってくるように感じてしまう。

b.hatena.ne.jp
コメントが賛否になるのは当然でどれに感情移入(主体として)するかによって風景が変わる。
コメントする人間は、自分がいちばん近い距離感に対し感情移入する。


でも「殺人の理由」なんてのは大概くだらない。

母親の言ってることは、間違ってるわけじゃあない。
「借金があり」「痴情のもつれで」「人生をリセットしたい」「教祖のために」
どれもこれも理由はたいていくだらない。
これは、

・どんな理由であれ殺人に至るほどのものじゃない=くだらない

であって、本人がこじらせている状態を「くだらない」と言ってるわけじゃない。
しかし、それを区別できないくらい深く投影した。

立派な殺人の理由というと
「この殺人で帝都の安寧が1,000年約束されるのだ!!」
なんて大層なものだろうが、まずない。
お解りだろうか。
そんなことを語るのは、ムー読者である。
  
 

錯誤

「『消えてしまいたい』と強く思った気持ちは、この人と私のものはとても似ていると思う。
ただその暴力性が自分という内へと向くか、他人という外に向くかの差があるだけで。
私だって、もしかしたらこの人と同じことをしてしまったかもしれない。
きっと他人に刃が向かないだけで、自分を殺した人はもっとたくさんいると思うよ」
 
母は何も言わなかった。

「似ていると思う」
「もしかしたら」
「かもしれない」
「きっと」

増田は、推測で投影し、勝手に錯誤したのが文章に現れてる。

そりゃあ増田と母親の事件に対する距離感は違う。
母親からすれば、まさか犯人の心情に感情移入するとは思ってなかった。
だから母親は何も言えなかった。

「共感」という感情はなかなか厄介なもの。
母親と増田の関係性と事件は別の話。
「同じ」と思い込むのは勝手だが、同じじゃない。

だから、どうか、『くだらない』の一言で片付けるのだけは止めてほしいと思う。
くだらないかどうかは、あなたじゃなくて、今苦しくてたまらない本人だけに決定権がある。

増田は、ここで完全に
「母親が犯人へ向けた言葉=母親が自分へ向けた言葉」
にすり変わってる。
 

共感と葛藤

現実に起こしたことは消えません。まして、かけがえのない命を奪うことは大罪です。
誰もいなくなった人の代わりにはなれません。どんな理由も免罪符にはならないんです。
同じ人は二度と還ってきてはくれないのですから。
続:「馬鹿ね、そんなくだらない理由で人を殺したの」

犯人の心情に共感したい、しかし殺人自体は否定したい。
増田の文章から葛藤が見える。

今この時の、家族の、学校の、大げさに言えば社会のセーフティーネットが機能していない深刻さ。
それを改善していく必要があるんではないかと強く思ったがゆえに投稿した記事でした。
続:「馬鹿ね、そんなくだらない理由で人を殺したの」

ここに集約されてる。

これは、増田に必要なもの、増田が欲しかった、欲しいもの。
犯人と自分を結びつけ一般化し「これが必要なのだ」と言いたいんだろうけど。
これは自分語りだから。
「社会のセーフティネット」って漠然といい感じの言葉だけど、問題のある家庭まで補正できるセーフティネットって具体的になんだろう。

  
本人にとってはすごいことだって誰かにとってはくだらない。
犯人と同一化できる部分は、最後の最後だけなのに感情移入してしまった。
自己肯定感が弱いから他人の評価でぐらつく、気にする。
似ているものを都合よく自分に結びつけてしまう。

「きっと、この人は何度も何度も周りから『お前は駄目だ』ってレッテルを貼られ続けて、
自分でも『俺は駄目だ』ってずっと言い続けてきたんだと思う」
(中略)
この人の側にたった一言、「そのままでいいんだよ」と言ってくれる人が一人でもいたら。
結末は違っていたのかもしれないと。

こうでなければ感情移入できない。
そうでなければならない。
これは「きっとこうなんだ!」と勝手に増田が決めたこと。

ニュースの少ない情報から「同類だ」と勝手に思い込み、
劣等感が「リセット」というキーワードと結びついて妄想が膨らんだ。
結び付いたらそれを「くだらない」といった母親の言葉が自分に向ってきた。

ニュースによれば、実は知っている関係だったとか、ストーカー云々なんて話も出てきてるが。
果たして、それでも増田は犯人と「一緒だ」と思えるんだろうか。
違う理由や境遇が出てくればそれはスルーし、一致する部分だけを見る。
人間は、見たいものしか見ない。


「理由」とは、誰かを納得させるために必要なもの。
あとで付けることもある。
犯人が違う理由を言いだしても増田は投影し続けられるんだろうか。
 
 

ろくでなし

ロッキン・ホース・バレリーナ (角川文庫)

きっとロックは、自分は何てダメ人間なんだろうと、はいつくばって生きている連中にとって、最高の救済手段なのだ
ロッキン・ホース・バレリーナ (角川文庫)

増田に対しうすら寒い正論の説教なんてするつもりもない。
記事を書いてスッキリしたらしい。

母親だって思うことはあるだろう。
家庭の事情は家庭で話すこと。
匿名の他人の家庭の事情なんざ知らん。


ただ自分と事件とを同一視しない方がいい。
他人は他人でしかない、と割り切るのはとても大事なこと。


母親を意識しすぎるなら、家族を離れるのが手っ取り早い。

今すぐトマトの有料サロンに入るとか?
自己肯定感の塊パヤト。
「炎上?何それ美味しいの?」
のスキルは自己肯定最強アイテム。


こういう増田ってネットなんかの啓発にコロッと引っ掛かる。
どんな親身なアドバイスだって所詮は他人なのに。
失敗したって誰も責任を取ってくれない。

教祖も占い師もノマドもセミナー講師も、言いっぱなしパワーボム。
「信じる者は救われる」「就職しない新しい生き方だ!」「あなたの運命の相手に出会いますよ」
いろいろいいことばかり言うひとは、失敗しても誰一人責任を取らない。

「失敗を恐れるな!」というひとは、失敗の責任を取らないから言える。


自分の人生の責任も、運命を変えるのも、残念ながら自分でしかない。
 
もちろんこの記事だって誰の責任も取らない。
悩んでも楽しんでも、いずれ死ぬ。
自分が生きることで精一杯。


増田には「ろくでなし」を送ろう。


勝手に生きろ! (河出文庫)