清水大輔、吉浜織恵 岡田慶子、滝沢卓
2015年9月23日11時57分
月々数百円を支払えば、いつでも、どこでも、好きな作品を楽しめる定額配信サービスが今年、続々と誕生している。スマホやタブレット端末の普及に伴い、音楽、動画、出版の各分野に広がった。背景には、消費者の変化があるという。
京都市に住む立命館大准教授の木村修平さん(38)は、9月から国内サービスが始まった世界最大手の動画配信サービス「ネットフリックス」を利用する。インターネットで配信される映画やドラマ、ドキュメンタリーなどが見放題。パソコンやタブレット端末で、見たいときに、見たいものを見る。20年前からテレビを持たない。「場所や時間にしばられるのはつらい」
音楽はアップルミュージックの聴き放題サービスで楽しむ。ヘッドホンで聴き続け、好みの曲が流れるとお気に入りのボタンを押す。書籍もデジタル版を購入することが多い。壁一面の本棚を埋め尽くしたCDや書籍は、数年かけてほぼ処分した。「モノに愛着はありません。すぐに最新のものに触れることができ、すぐに捨てられるのが魅力」。広くなった部屋に満足している。
都内の会社員沢木一真さん(28)もアップルミュージックを利用する。お気に入りのバンドの曲を聴くため、国内サービスから乗り換えた。昔懐かしの曲から最近のものまで豊富なラインアップに驚く。「手軽にさくさく検索できるのが魅力。聴きたい曲がない場合もあるが、(定額配信を)手放すのは考えられない」
音楽の楽しみ方はレコード盤からCD、音源のダウンロードへと移り変わってきた。アナログからデジタルに変わったが、曲やアルバムごとに購入、所有する点は変わらない。
一方、定額配信は、ネット上にある膨大な曲に好きな時にアクセスする方式が主流。所有しないが、好きな時に好きな作品をライブ感覚で楽しめるのが利点だ。定額配信の登場には、所有にこだわらない消費者の変化がある。
「所有からサービス重視へ。情報技術が進化し、現実が消費者のニーズに追いついてきた」。日本ナレッジ・マネジメント学会専務理事の山崎秀夫さんはこう読み解く。
成熟した社会では、豊富な選択肢から自由に選べるサービスが消費者に好まれるようになるといい、今後は消費にとどまらず「働き方」にも波及する可能性があると山崎さんは指摘する。定額制が当たり前の米国では、若い世代は会社勤務よりも働き方を選択できるフリーランスを好む。「定額制の浸透は、単なる新サービスではなく、社会の大変革の始まりだと思う」
また、若い世代ほど価格に敏感だ。
スマホで音楽を楽しむのが日課の東京都内の女性会社員(23)は今春、定額の音楽配信サービスに加入したが、無料のお試し期間が終わって解約した。CDを買った記憶もない。「音楽にお金を払うという感覚がわからない。読んだ実感が得られる小説は、今も購入するんですけどねぇ」
ソーシャルメディアに詳しい社会学者の濱野智史さんによると、10~30代の若い世代ほど「音楽は無料」「携帯で聴くもの」という意識が強いという。物心がついたころからネットに親しみ、違法配信も含めて動画共有サイトなどで無料で曲を聴いてきたからだ。「日本は海外に比べて定額配信の普及が遅れてきたが、『モノからサービス』への流れは止められない。若者がお金を払うような魅力的な作品をそろえられるかが課題だ」(清水大輔、吉浜織恵)
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