<新iPhone>1年買い替えでスマホビジネスが変わる?
毎日新聞 9月20日(日)9時45分配信
米アップル社のiPhone6s発表を受けて、国内大手通信事業者が新たな料金プランを導入する動きが活発だ。一方、スマホの購入・契約や料金を巡る新たな議論も起こっている。ケータイ・スマホ事情に詳しいジャーナリストの石川温(つつむ)さんに、今後の通信業界の動向を聞いた。
◇大胆値下げも通信事業者の経営には大きく影響しない
−−今月9日(現地時間)に米アップル社がiPhone6sを発表した後、KDDIが1000円値下げした国内通話かけ放題プラン「スーパーカケホ」(月額1700円)を投入すると発表しました。
石川温さん KDDIに追随してソフトバンクとNTTドコモも同価格のプランを発表しています。25日のiPhone6s発売日を前に、例年通り、各社横並びになりました。
−−かけ放題の1000円値下げは、大胆に見えます。
石川さん 昨年、NTTドコモが発表した月額2700円のかけ放題プランも大胆に感じましたが、さらに1000円下げるインパクトは大きいですね。
ただ、携帯電話やスマホで通話する人は次第に減っています。通信事業者はデータ通信プランでもうけるビジネスになってきているので、経営に与える影響は少ないでしょう。
例えば、KDDIでは、スーパーカケホを契約する場合、最低3ギガバイト(GB)のデータ通信プランを選択しなければなりません。最小のプランは2GBです。月々の支払いは6000円以上かかります。ソフトバンクは最低5GBのプランを契約しなければならず、こちらも月々7000円ほどかかります。
1000円値下げは大きく見えますが、実際に契約すると、支払いはそう安くなってはおらず、うまくできているなと思います。各社間で競争しているように見えて、事業者は損をしないようなプランになっている。
−−安倍晋三首相が携帯料金の値下げを促すよう総務省に指示しました。
石川さん 大手3社には、値下げしても耐え得る余力があります。ただ、業界全体はいま、非常に難しい状況になっています。格安スマホを扱うMVNO(モバイル・バーチャル・ネットワーク・オペレーター)が盛り上がっており、選択肢が増えたのはすばらしいことです。
スマホを安く使いたい人は、格安スマホを使えばいいのですが、安倍首相や総務省が本気になって大手3社に値下げさせたら、格安スマホはなくなってしまうでしょう。結局、既存の3社しか残らないという状況になる。このバランスは難しいのだろうと思います。
もともと国内には大手通信事業者が4社ありました。その状況が続いていれば、いまのような3社寡占の横並びが続くことを避けられたかもしれません。総務省が買収できないような仕組みを作っていれば、ソフトバンクのイーモバイル買収もなかったでしょう。振り返ってみれば、総務省の失策とも言えます。いまさら総務省があれこれ言える立場にはないと、個人的には思います。
一方、消費者とそれを後押しするマスコミにも問題があります。以前、音声通話プランには、SからLLまでといったように5段階くらいに細かく分かれていました。選択肢がたくさんあると、消費者はどれを選んでいいかわからないと言ってしまう。
わからないならシンプルにしようと、料金体系を二つほどにすると、逆に選択肢が少ないという声が上がるんです。そうしたことを繰り返しています。ただ、請求書をしっかり見ると、無駄なお金の払い方をしていることがわかるでしょう。事業者に悪い面もあるのですが、不要なオプションがついていたりします。
毎月、いくら分の通話をして、どれくらいのデータ通信をしているのかを把握すれば、使用状況に見合った料金プランを選ぶことができます。家から少し離れたスーパーでトイレットペーパーを安売りしていれば買いに行く人もいますよね。細かい努力が通信料にも必要です。
請求書がわかりにくいという面もありますが、そこは通信事業者がわかりやすくして、いくら消費者が支払っているのかを実感できる見せ方をする必要もあります。一概に「日本の携帯料金は高すぎる」という議論は間違っていると思います。
◇「1年で新型」アップグレードプログラム
−−今年2月、auとソフトバンクが、18カ月で端末を買い替えられるアップグレードプログラムを導入しました。今回発表されたiPhone6sも対象に含まれます。また、アップルは、1年ごとに新製品に買い替えられる月額32ドルからのアップグレードプログラムを米国で導入しました。
石川さん スマホはもう進化しないから、頻繁に買い替えなくていい、と多くの人が思っているでしょう。何とか買い替えてもらわないことには、アップルとしても苦しい。アップグレードプログラムを導入することで、毎年買い替えてもらう流れを作りたいのだと感じます。
アップグレードプログラムには、いくつかポイントがあります。一つは、単純にiPhoneが売れるということ。一度契約すると逃げられなくなるので、囲い込みにつながるのもポイントです。さらにアップルは、1年たったら下取りをして、消費者に新しい端末を提供しますが、下取りした端末はきれいにしてデータを消して、新興国の中古市場で売るんです。新興国でのシェア拡大につなげる狙いがあります。
海外では、高価なiPhoneを買えない人がたくさんいます。中古品を流通させることで、ユーザーを増やすという非常に良くできた仕組みです。一方、先進国ではユーザーがずっとiPhoneを使い続ける流れができます。
−−先進国の中にも中古市場ができるのでしょうか。日本ではどうなのでしょう。
石川さん 一部の先進国では中古市場が形成されているので、中古品を買う消費者もいます。日本では、さまざまなキャンペーンがあって、新品の方が安く手軽に買えるので、端末だけを買うことになる中古市場はまだ形成されていませんが、今後、広がる可能性はあると思います。
−−アップグレードプログラムは通信業界にどのような効果をもたらしますか。
石川さん いま、「2年縛りをやめろ」という議論があります。縛りには、「料金プラン」と「端末代金分割払い」の2種類が存在します。アップグレードプログラムは、新しい縛りになります。消費者には、「1年後には新型に買い替えられてハッピーだよね」という見せ方をしますが、結局はずっと縛られることになるのですね。
アップグレードプログラムに対しては、よろしくないという見方もできるでしょうし、競争を阻害しているという見方もできます。ただ、アップルも始めたことによって、「これがグローバルスタンダードなんだ」という言い方もできます。
いままでは、スマートフォンは買うもので、2年間所有してその後どうするかというスタイルでした。アップグレードプログラムによって、所有権というか、借りている感覚に近いような、端末を持つ権利を買うようなスタイルになります。自動車の残価設定ローンのようなものと言えばいいでしょうか。スマホビジネス、通信ビジネスが変わりつつあると言えるかもしれません。
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