1.チョウさんさようなら ヤンクドゥラー・チェク 絵本
リーヂンカという名の少女と、少女が捕まえたフローリアンという名前の蝶とのお話。リージンカは蝶がすきになり、蝶が望むように網から蝶を自由にして泣く。でも蝶は戻ってきて、羽ばたく蝶と走るフリージンカはいっしょにどこまでもかけていく。字が読めるようになる前に買ってもらった本。おくづけにひらがなで名前を書いてあるが、一部鏡文字になっている。
3.九月姫とうぐいす
女ばかりの九番目に生まれた末娘の九月姫。大事にしていた鸚鵡が死んだ夜に泣いていると窓から鶯が入ってきて、その日から二人は大の仲良しに。ところが嫉妬した姉たちの入れ知恵で九月姫は鶯を鳥籠にとじこめ弱らせてしまう。九月姫は間違いに気づいて鶯を自由にする。
「お姫さまは、わっとなきだしました。じぶんのしあわせよりも、じぶんのすきなひとのしあわせを、だいいちににかんがえるのは、とても、むずかしいことだからです。」
というくだりを大人になって叶わない恋をしたとき何度も読み返した。*1
3.元気なポケット人形
人形の家にぴったりだと買われて来た人形は冒険好きで勇敢だったが、人形を自分のものにした歴代の少女たちはそれに気づかない。人形は自分を初代の少女に名づけられた名でジェインだと思っている。何代もの少女の手に譲り渡されたある日のこと、少女の従弟の少年ギデオンがやってきて、人形をポケットにいれて外に持ち出す。ジェインはギデオンと冒険の日々に繰り出し、毎日を大いに楽しむが、ギデオンが自分を盗んだことで自責の念に駆られていることに気づき、誰よりもそばにいたいギデオンに自分を人形の家に返すように願う。
ルーマー・ゴッデンは「ねずみ女房」もリストにいれるかどうか迷ったところ。20冊なら間違いなく入れた。愛する人のために自分の信じる正しさを貫き、犠牲をはらう勇気を教えてくれた本。どこまでがジェインでどこまでが自分かわからないくらい血と肉になっている。
6.おばあさんの知恵袋
手元にあるのは暮らしの手帳から出された1976年版で、画像は2008年の復刻版。昭和天皇と同じ年に生まれた一人の女性が戦前の暮らしを語る私小説。*2
自分の知らない昔の日常が面白く、また家事や料理の始末の工夫が子供の頃からすきですきで、こんなに何でもきちんとできる立派な主婦になりたいなあと憧れた。
4.自分をまもる本
フランスのいじめ対策本。なんだけど、何よりの武器は健全な自尊心、自己愛だということがやさしいことばで繰り返し書かれている。自分の行動に責任を持つこと、役割の力を自分の力と混同しないこと、選択の余地がない状況で起きたことを自分の責任だと考えることのおかしさなどさまざまなことを教えてくれる。こんなに薄い本で!
とくに友達を作るとはどういうことか、友情とは何かが書かれているくだりは折に触れて読み返している。
5.身体が「ノー」というとき
難病奇病と精神的な抑圧の関連性をターミナルケアに関わる医師が指摘した本。いわゆる「なぜがん患者にいい人が多いか」といった議論を追求した話。「ネガティブ」とされる感情を抑圧、否認することは全体性を失わせ、自分を見失わせることにつながるという指摘と、健全な怒りは破壊的なものではないという指摘が衝撃的だった。
わたしは図書館の医療のコーナーで手にしたけど、書店だとスピリチュアルコーナーにあるのよね。確かに精神性について書いた本だけど、日本のスピリチュアルコーナーってほとんどオカルト図書だから、この本にとっても書架を訪れる人にとっても困った事態なのではと思う。
7.僕の美しい人だから
図書館で文庫の払い下げをもらった本。映画化で原作のよさが損なわれた例だと思う。
広告代理店に勤めるユダヤ人の青年マックスは誰からも羨まれた妻ジェイニーを事故で亡くして以来、誰とも個人的な関係を結ばなかった。彼は結婚を控えた友人の独身最期の大騒ぎにつきあった夜、自分よりずっと年上の低学歴、低所得な痩せぎすのノーラと知り合い、巻き込まれていく。
恋愛小説なんだけどねえ。「蜘蛛女のキス」って思想家とゲイが社会的に弾圧されながらギリギリのところで互いを認める話でしょう。これもそんな風に読んだ。大人同士で出会って愛し合う上で、職業、経済力、年齢や学歴、生育歴といった社会的背景を超えられるのか、超えることが幸せなのかとか、「あなたのためを思って」ってなんだろう、とかね。片岡義男の解説もいい。
8.アガサクリスティー自伝
推理小説家アガサ・クリスティーの自伝。辛酸も舐め、二つの戦争をくぐり、なおどこまでも明るくユーモラを忘れない。無理やりポジティブじゃなく、芯から前向きでほがらかな人柄に読み返すたび力づけられる。人をばっさり身も蓋もない言葉で描写しているけれど、意地の悪いいやらしさがなくて笑える。もちろん名言も多い。彼女の小説が好きな人なら書かれた背景や裏話も楽しめると思う。わたしは予備知識ほとんどなしで読んで、このあと彼女の本をたくさん読ませてもらった。だいすき。
9.ピーターラビットのおはなし
イギリス人のシュールなユーモアとげっ歯類を中心とした動物たちの正確な描写がすばらしい。ポターはレディで農婦で細密画のプロだった。
10歳ごろから雑誌「MOE」の前身である「絵本とおはなし」を通してポターの絵にふれ、熱烈なファンになった。小遣いを貯めて一冊ずつそろえようと思ったが、当時の小遣いからするとそれは見果てぬ夢のようなものだった。ある日父にその夢を語っていたら、父がポンと店にあるだけの絵本を買ってきてくれた。誕生日とクリスマス以外におねだりはダメ、というルールがあったので、本当に思いがけなかった。父がしてくれたことで特別に感謝していることのひとつ。
10.マリアンヌの夢
10歳の誕生日に難病にかかり、寝たきり生活を余儀なくされたマリアンヌは母親の裁縫箱から奇妙な鉛筆を見つける。その鉛筆で書いたものは夢の中で現実化され、マリアンヌは夢の中でマークと名乗る少年に出会う。しかしマークはマリアンヌの家庭教師が教える難病の教え子のひとりでもあった。夢と現実が交錯するなか、マークとの喧嘩でかんしゃくを起こしたマリアンヌが書き込んだあるものがきっかけで、二人は夢の中でも命を脅かされはじめる。
中学生のときに図書館で借りて、そのあと妹に買ってやって、自分で読み返して、自分が寝たきりになったときにあらためて買って何度も何度も読みかえした。宮崎駿がげんきだったら映画化してほしかったねえ。でも宮崎駿がやらないならジブリにはぜったいに手を出してほしくない本。
こうして並べてみると大人になってから読んだ本は4冊で、人生のだいじなことはだいたい中学生くらいまでに決まっている気がする。大人になってから読んだ本はたくさんあるけれど、それらの本はさきに読んだ本で出来た土台を補強したり、改修したりするもので、根底から覆すものにはなっていないみたいだ。
親にとても感謝しているのは家の中にいい本が山ほどあって、自由に読ませてもらえたこと。そして字が読めるようになるまで母が毎晩本を読んでくれたこと。恵まれていた。そのことだけでも親をだいじにしんといかんと思う。本を読むのがすきじゃなかったら今頃どうなっていたかわからない。大袈裟な話ではなく、わたしはどんな仕事にも就けなかったと思う。
10冊で自分を表現する、というより、10冊で人生をふりかえる感じだった。