起業家こそ「サラリーマン精神」を持ったほうがいい
by 吉田浩一郎(起業家)
私自身、さまざまな紆余曲折を経て、今のクラウドワークスの誕生にたどり着きました。それもあってか、起業に関する相談を受けることがあります。正直なところ、私なんかがアドバイスしていいものかどうか迷いますが、相談を受けたからには、ちゃんとお答えしています。
私がアドバイスする側になってみて気づいたのは、起業に関する相談をしにやってきた人のほとんどが「わかりました!実行します!!」と、アドバイスをすんなりと受け取ってくれないということでした。
起業家=自分がオーナー、というイメージがあります。そのため、「自分が全て決めるのだ」と思っている人も多いのですね。「相談したいです!」と言いつつ、すでに自分の中で答えが出ている人がほとんどというわけです。まさに、わかります。最初に起業したばかりのころの私もそうでしたから。
しかし、それでは先輩起業家たちの貴重なアドバイスを聞く機会を失うだけでなく、成功率を上げるチャンスも掴み損ねてしまいます。
先輩起業家たちのアドバイスに従うべき理由
起業は登山にたとえられます。登ってきた道を振り返ってみると「ああ、ここまできたのか」と確認できますが、行く先にはまだ道らしい道がなく、そこで何が起こるのかは全くわかりません。私自身、クラウドワークスを上場してから、さらに「ここから先の成功イメージをどう掴んでいくか」について悩んでいます。
先輩起業家たちは、後輩である私たちよりもずっと先を進んでいます。決して同じ道ではないにしろ、「この先に何が待ち受けているのか」「ここで起こりがちな失敗」などを経験済みです。少なくとも、後輩である私たちよりも、成功率を高める方法を知っているわけです。
かくいう私も過去に一度だけ、クラウドワークス創業当時に、お世話になっていたエンジェル投資家の小澤隆生さん(現ヤフー株式会社、執行役員)のアドバイスを無視してしまったことがあります。結局のところ、自分の思うとおりにいかず、その半年後に小澤さんのアドバイスを実行しました。後日、小澤さんに「この機能開発について、小澤さんの言うとおりでした」と謝罪すると、「ばかやろう!」と叱られてしまいました。
当時の小澤さんに言わせると「経験値が少ないお前より、知見のある俺のアドバイスのほうが成功率が高い。時間を割いてまで会い、アドバイスしたことが不満だったら、そもそも投資なんて受けるんじゃない」と。
そこでようやく、目が覚めました。「すべて自分で!」と考えていましたが、これからは小澤さんのような、自分が信頼する先輩起業家やメンターに言われたことを100%聞こう、そして実行しようと決めました。そして小澤さんのアドバイスを聞き、実行し続けた結果、その翌年には3億円の資金調達ができました。
「起業家サラリーマン理論」とは
起業家は、ワンマンだからこそ成功できる、というイメージもあります。あながち間違いではないかもしれませんが、事実として、起業家一人だけの能力では限界があります。自分に足りない部分を、先輩起業家やメンターのアドバイスで補うほうが、成功率は高まります。
実は起業家こそ、成功した先輩起業家やメンターに対して、時にはサラリーマンの「上司」のように、言い分を100%聞き入れることが必要なのです。サラリーマンのような感覚でいるくらいのほうが、うまくいきます。名づけて、「起業家サラリーマン理論」です。
「起業家サラリーマン理論」を実行するときに重要なポイントは2つ。
- 自分より成功した起業家、もしくはメンターからのアドバイスを100%聞く
- 言われたことは最速で実行する
アドバイスされたことは、とにかく聞く、実行する。そして、その成果をアドバイスしてくれた先輩起業家やメンターにフィードバックします。アドバイスした側としても、自分の言ったことを100%聞いてくれているんだ、と感じられたら「またアドバイスしよう」と思うものです。言われたことを最速で実行すれば、運気の回りもよくなる気がします。
メンターを探す前に、考えたいこと
若手起業家から「メンターを探す方法」「メンターになってもらう方法」についてもよく聞かれますが、こればっかりは運によるところも大きいので、なんとも言えません。
私の場合、創業期は小澤さん、2013年に11億円の資金調達をしてからはサイバーエージェントの藤田晋さんにメンターをしていただいています。
藤田さんのところへ行こうと思った理由は、わりと明確なものでした。
当時、クラウドワークスは3億円の資金調達後で、事業としても10~20%と伸びているときでした。しかし、10~20%の伸びでは、ソフトバンクや楽天のようにはなれない。この差はなんなんだろうと悩み、たまたま手にとった『132億円集めたビジネスプラン』という、ライフネット生命の岩瀬大輔さんが書いた本を読みました。「132億円あったら変わるのかな」と思い、友人に頼みこんでその本に書かれていたキーマンである谷家衛さんに会いに行きました。
谷家さんに30分ほどヒアリングしていただき「うーん、君は岩瀬さんとは明らかに違うから、別のメンターを探したほうがいいよ」と言われてしまいました。今から考えると誰から見ても岩瀬さんと全く違うのは明らかなんですが(苦笑)、お会いして30分であっさり否定されてしまい少し感情的になって「では、私は誰を目指せばいいのですか?」と返したところ、「吉田さんは人間力で組織を作っていくほうがいい。たとえば、サイバーエージェントの藤田さんがいいと思うよ」とアドバイスを受けました。
「なるほど!」と思い、そのままの勢いで藤田さんに会いに行き、ご飯に連れていっていただきました。そしていろいろ話す中で会食の最後に、藤田さんから「勝負するなら大きく勝負したほうがいい。10億くらい投資するから挑戦したらどうか」と言っていただき、メンターになってもらったのです。
先輩起業家もメンターも、一人の人間です。アドバイスのために、貴重な時間を消費しているわけなので、その人にとってなんらかの形で良かったと思ってもらえなければ、メンターとしての立場も長続きしません。
他人に尽くす、他人の役に立つことをする、というのは、ビジネスにおける大前提です。少なくとも、メンターになってほしい人の役に立たないと、その人からアドバイスをもらうことはできません。
「自分に合ったメンターを探すには」と考える際は、まずは「どうすれば自分がその人の役に立てるのか」を考えてみてはどうでしょうか。たとえば、言われたアドバイスを誰よりも早く実行することができたら…アドバイスをした人もやりがいを感じるはずです。そして、次のアドバイスがもらえる可能性が高まります。そうした積み重ねの中でメンターが見つかるのではないかと考えています。
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