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悲鳴!実質手取り額はこんなに減っている 共働き、片働きなどを年収別に徹底比較〈AERA〉

dot. 9月14日(月)13時28分配信

ぜいたくしていないのに手元に残るお金が年々減っている。そんな実感をもつ人は少なくない。そのカラクリを「見える化」すると――。(編集部・石田かおる)

「最近、家計相談に異変が起きているんです」

 2万世帯以上の家計診断を行ってきたファイナンシャルプランナー(FP)で、家計の見直し相談センター代表の藤川太さん(46)は首をかしげる。

●家計から消えた「聖域」

 異変の一つは、家計に余裕のある人たちが不安にかられて相談に来るようになったことだ。

「預金が1億円たまってもおかしくない家計なのに、不安だと訴える方が立て続けにいらっしゃいました。こうした層の関心事は、もっぱら資産運用だったのですが……」

 二つ目は、家計のムダをすでに削りに削った相談者が増えていること。家計の収支改善は、保険の見直し、住居や車にかかる費用の削減など、固定費から着手するのが王道だが、

「固定費をギリギリまで絞った方が多くなりました。食費などの日々のやりくりに手をつけないといけない。『家計簿を見せてください』と言わざるをえないケースが増えています」

 ライフプラン自体に踏み込む場合もある。たとえば子どもの教育費。リーマン・ショックの2008年ごろまでは「聖域」で、車や自分たちの小遣いを我慢してでも、わが子を私立校に行かせようとする親たちが多かった。しかし、教育費にお金をかける層とそうでない層との二極化が進んだ結果、

「もはや聖域ではなくなった」

 と藤川さんは言う。

 家計を襲う異変の背景には、年々重くなる税や社会保障費の負担がありそうだ。消費税増税に加え、控除・手当の廃止・縮減が繰り返される。賃金はさして上がっていないのに、物価上昇で消費支出が増えているのも痛手だ。

 税と社会保障の一体改革の議論が始まった11年から、消費税増税などの負担増が家計に与える影響を試算してきた大和総研。金融調査部の是枝俊悟研究員は、17年4月の消費税率の10%への引き上げまでを視野に入れ、翌18年までの「実質可処分所得」の変化を算出した。

●家族形態や年収で違い

 税引き前の年収から所得税、住民税、社会保険料を差し引き、児童手当を加えた名目の「可処分所得」に、消費税増税にともなう物価上昇による目減りを反映させた数字。平たく言えば、実質的な手取り額だ。

 その結果、家族形態や年収によって負担増の程度が異なることがわかった。パターン別に見ていこう(グラフ参照)。

【片働きより有利な共働き】

 世帯年収1千万円の共働き世帯(夫婦ともに年収500万円、3歳以上中学生以下の子ども2人)では、11年から15年にかけて実質可処分所得が36.7万円減る。消費税率が通年で10%になる18年には、減少額は約50万円に達する。仮に11年の段階で家計収支がトントンの家庭が同じ生活を続けると、収入が増えない限り7年後には年間約50万円の赤字に転落する計算だ。

 負担の主な内訳を見ると、最も大きいのが消費税率引き上げと厚生年金保険料引き上げ。児童手当の縮減や、住民税の年少扶養控除の廃止も響いている。

 専業主婦など片働き世帯の受ける打撃はもっと大きい。実質可処分所得はすでに11年時点で、共働き世帯より約50万円も下回っている。所得税は世帯年収ではなく個人に累進課税され、年収各500万円の共働きより高い税率が適用されるためだ。

 専業主婦の夫には基礎控除に加えて配偶者控除も適用されるが、共働きには基礎控除が夫婦両方に認められるので、その点ではイーブン。専業主婦世帯が有利とはいえない。

 スタート時点で共働き世帯とこれだけついていた差は、年とともに拡大していく。片働き世帯では、実質可処分所得の減少額が、15年までで47.8万円、18年までで59.9万円と、最終的には共働き世帯を10万円ほど上回る。12年6月から、児童手当に設けられた年収960万円の所得制限が響いている。所得制限は、世帯年収ではなく、夫婦どちらか多いほうの年収が基準。試算の共働き世帯は夫妻とも年収500万円のため、制限には引っかからない。

【高年収には新たな負担】

 片働き世帯の11年から18年までの実質可処分所得の減少額は、年収300万円で24.7万円、500万円で32 .2万円、1500万円では82.7万円となった。年収1500万円の世帯には16年以降、給与所得控除の上限額引き下げによる新たな負担が加わるため、減少額がとりわけ大きい。

 年収が高いほど負担額は大きくなるが、負担率は必ずしもそうではない。11年から18年にかけての実質可処分所得の減少率は、年収300万円世帯が8.8%と最も高い。住民税の年少扶養控除の廃止や児童手当の縮減が、分母の年収が少ないぶん大きく響くようだ。

【減額小さいシングル世帯】

 年収500万円の単身世帯の11年時点の実質可処分所得は394.2万円。同じ年収の片働きの子育て世帯に比べて約40万円少ない。単身世帯には配偶者控除などが適用されないからだ。

 ただし、実質可処分所得の減少額は、11年から18年にかけて18.6万円で、子育て世帯の6割程度にとどまる。単身世帯には児童手当などの給付がもともとないぶん、子育て世帯ほどには制度改正の影響を受けないからだ。

●自治体の給付金も狙え

 程度の差こそあれ、負担増はあらゆる家計を襲うことがわかった。少しでも補う手はないものか。本誌は、地方自治体などが独自に実施する「給付金」に注目した。

 オンライン家計簿のZaimが8月に行った調査では、居住地の自治体からもらえる給付金について「知らない」と答えた人が71.6%を占め、情報収集したことのある人は16.7%にとどまった。その一方で、実際に申請を行った経験のある人の83.4%が「手続きは容易にできた」と回答した。

 同社家計アドバイザーの綿島琴美さんは、こう指摘する。

「給付金制度の課題は、手続きではなく、情報提供にあることが調査から明らかになりました。『情報が探しにくい』『自分が給付の対象になるのかがわかりにくい』といった声が多かったのです」

 こうした実態を踏まえ、同社は全国1718自治体のホームページで給付金情報を調べてデータベース化し、ネットで情報提供を始めた。ユーザー登録をすると、自分が住んでいる地域の自治体から受給できる可能性のある給付金や手当・控除が、自動抽出される。

「給付金は居住地、年齢、家族構成によって大きく変わります。ペットを対象にした給付金を設けている自治体もあります」(綿島さん)

 よこはまウォーキングポイント(横浜市)、新婚さんいらっしゃい事業(香川県琴平町)、野菜ソムリエ育成補助金(愛知県大府市)など、内容はバラエティーに富んでいる。

 いずれにせよ、家計防衛の手段は、出費を減らすか収入を増やすかのどちらか、または両方だ。雇用が流動的なこのご時世、一人でより多く稼ごうとするより、共働きでリスクを分散したほうがいいのは言うまでもない。先に見たように、税制などの面でも共働き家庭のほうが片働きより優遇されているのだ。

 ただ、共働きにも死角はある。

「財布を夫婦で分けている世帯では、お金がたまらないケースが多いのです」

 と警告するのは前出のFP、藤川さんだ。金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(14年)をもとに本誌が計算したところ、年収1千万円以上の世帯の平均貯蓄額は、片働きが4572万円なのに対し共働きは2857万円。貯蓄ゼロの世帯は、片働きがわずか2%なのに対し、共働きは11%もあった。

「二つの財布を一つにするのが理想ですが、難しければ収入と貯蓄の額だけでもお互いに公開すべきです。夫婦が家計の目標を共有すれば、共働きならではのポテンシャルがより発揮されます」(藤川さん)

●家計簿共有で夫婦円満

 家計を共同管理している夫婦ほど、家計への満足度が高いという結果は、Zaimの調査からも出ている。

「家計簿をはさんで向かい合っているより、共有して一緒に前を向いている夫婦のほうが家計への満足度は高い。夫婦が危機感をともにでき、見当違いな出費をめぐる衝突も避けられるからです」(前出・綿島さん)

 最強の家計は、他人に振り回されない独自のライフプランを打ち立てられる家計だ、と藤川さんは語る。

「右肩上がりの時代を生きた親世代の『ふつう』は、もはや『ふつう』ではなくなりました。これからは自分たちの時代に合ったモデルを見つけていかないといけません。地に足の着いたオリジナルのライフプランを実践できる家庭は、どんな環境にあっても強いのです」

※AERA 2015年9月21日号

最終更新:9月15日(火)10時47分

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