日経ビジネス2015年9月14日号特集「あなたに迫る 老後ミゼラブル」では、「3大ミゼラブル」として、孤独死・認知症・犯罪を取り上げた。この3大問題の根底にあるのが、高齢者の貧困問題。一般的な民間企業で定年まで勤め上げた「中流層」は、定年を機に貧困に転落する可能性が極めて高い。『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』の著者、藤田孝典氏に話を聞いた。
(聞き手は林英樹)
日本の中流層である、平均給与414万円でも定年後は貧困化してしまうと訴えています。
藤田:ええ。今の40代前半に当たる団塊ジュニアは4割程度が非正規社員・従業員です。平均年収は200万~400万円が中心帯ですが、この水準だと、定年後の年金受給額は月額8万~10万円。生活保護を受給すべき最低ラインに掛かります。
とは言っても危機感は薄い。
藤田:老後には、病気や介護、認知症、子供が独立せずに家に居つくなど、現役時代には想像できないような“落とし穴”があります。なかなか実感として受け止めにくいので、危機意識が低いのではないでしょうか。
現在、私は埼玉を中心に生活困窮者の相談に乗っていますが、半分は高齢者です。そのうち、現役時代の年収が800万~1000万円だった人も含まれています。以前は正規の仕事に就く子供がおり、手元には、貯金や持ち家があった。地域コミュニティーも支えてくれた。年金はあくまでプラスアルファの収入で、依存度はそれほど高くなかった。
それが変わってきたと。
藤田:今は違います。社会構造が変わる中で、年金依存度は飛躍的に高まっています。そうであるのにも関わらず、私たちが手掛けた独自調査で定年後もずっと中流意識を持っている人は多いことが分かりました。意識と実態のギャップから貧困化に陥るケースが増えています。
現役時代は企業の部長さんで、毎週末にゴルフをするのが当たり前。車はクラウンじゃないとダメという人なんかも相談に来る。なかなか生活の質を下げられないようですね。
意識を変えられないことが問題なのでしょうか。
藤田:それもありますが、一番の問題は家庭と雇用形態の変化に、制度が対応し切れていない点です。家庭内で支えてくれる人がいない以上、国が社会保障として支援の枠組みを考えないといけません。それが抜け落ちています。