岡本太郎と信楽焼の秘話に光 大作「黒い太陽」生み出す
あまり知られていない信楽焼と近代産業との関わりや、その延長線上にあった芸術家・岡本太郎との交流を、滋賀県教育委員会の畑中英二さん(47)がまとめ、このほど「岡本太郎、信楽へ」の表題で出版した。畑中さんは「日本の代表的な陶器である信楽焼の実像を知ってほしい」と話している。
■生命の赤へのこだわり、タイル技術が実現
畑中さんは考古学が専門の文化財技師で、窯跡の発掘調査をきっかけに、窯の再現や地元の聞き取り調査を行うなど幅広く信楽焼に関わってきた。
前半では信楽焼の歴史を紹介し、製糸場の繰糸機(そうしき)に用いた糸取鍋(いととりなべ)や工業用の耐酸陶器、戦時中の金属製品の代用品など、時代の求めに応じた多様な製品の変遷をたどる。
タヌキの置物や器のイメージが強い信楽焼だが、現在、生産額が最も多いのはタイルなどの建材で、産業との関係は歴史的に深い。そうした背景を踏まえ、畑中さんは「建築用のタイルが信楽焼と岡本太郎を結びつけた」と指摘する。
岡本太郎は、1950年前後から陶器を用いた作品に取り組むが、「生命の情感」としてこだわった赤色は当時の製陶技術では表現できなかった。そんな中、タイルに進出し技術を蓄えた信楽焼の企業が釉薬(ゆうやく)で赤色を表現し、信楽と岡本の関係が始まる。
信楽は国立代々木競技場の陶板レリーフや、「太陽の塔」背面の「黒い太陽」などの大作が生まれる舞台となった。地元関係者が語る貴重なエピソードを通して、信楽に与えた影響や制作現場での熱い交流を後半で描いている。
畑中さんは「東京中心だった岡本太郎論に、信楽での新たな一面を加えることができたのではないか」としている。1500円。問い合わせは信楽焼振興協議会TEL0748(83)1755。
県立陶芸の森(甲賀市信楽町)で関連した企画展「信楽焼の近代とその遺産」が開催中。本書に登場する数々の産業用の製品や、岡本と信楽焼の出会いが生んだ名作「坐(すわ)ることを拒否する椅子」などを間近に見ることができる。30日まで。無料。
【 2015年09月12日 09時00分 】