坂口安吾「外套と青空」を読んだ。描かれているのは、低俗な魂を持った女の肉体に抗えない男の本能というアンビバレンスである。
キミ子が夫の生方を「純粋だけの人」と呼んだとき、主人公の落合は憎悪を込めて「そんな人間がいるものか!」と叫ぶ。無論、彼は純粋な人、理性のみの人間に憧れており、そして自分がそうではないことを知っている。だからこそそう叫んだのである。坂口のロマンチシズムである。
外套と青空は、ともに肉欲の記号である。キミ子との性交が、これらを肉欲と結びつける。だがなぜ外套と青空なのか。理由は定かではないけれど、おそらく意外だからではないか。本来関係のないものが、キミ子の肉体によって強烈に接続される。その特異性故に、落合はキミ子から離れられないのだ。思えば、坂口の書く女性は皆、低俗な魂を持ちながら「何か」を持っているのである。