「あれ?何を届けるか忘れてしまった」「どこに置いたんだっけ?」
一口の記憶といっても、記憶の内容によって、脳の担当している場所は全く異なるようだ。
アルツハイマー病の謎を理解する助けになるかもしれない。
福島県立医科大学と広島大学の共同研究グループが報告している。
脳の神経細胞を取り除く影響を調べる
福島県立医科大学の小林和人教授、西澤佳代助教、小林とも子研究員と広島大学の坂田省吾教授、岡田佳奈研究員らの共同研究グループが手掛けたもので、8月6日に福島県立医科大学と広島大学が発表している。
人は、一度見た物や見た場所を記憶にとどめて、思い出すことができる。アルツハイマー病の人では初期症状としてこの一度見た物、見た場所の記憶がうまくとどめられなくなる。
ここに関わるのは、「アセチルコリン」と呼ばれる神経伝達物質を放出するタイプの神経細胞と考えられている。
研究グループは動物実験によって、アセチルコリン神経細胞だけを取り除く影響を調べている。
研究グループが注目したのはアセチルコリン神経細胞の存在する場所で、脳の中央部に近い場所にある「内側中隔」と「マイネルト基底核」と呼ばれる場所。それぞれの場所を取り除いた上で、影響を調べている。
「何」が「どこ」は異なる神経細胞が担う
取り除く場所によって記憶への影響は異なっていた。内側中核の神経細胞を除去したネズミは、物がどこにあったのか分からなくなっていた。マイネルト基底核では、新しい物と一度見た物の区別ができなくなっていた。
認知症の薬を与えたところ、記憶障害は回復した。
アルツハイマー病ではアセチルコリン神経細胞の死滅によって記憶の障害が起きてくる。「何を」「どこで」という2つのタイプの記憶障害が組み合わさっていると研究グループは指摘している。
アルツハイマー病の発症メカニズムの解明や薬の探索にもつながる可能性がある。
研究成果は、8月6日にサイエンティフィック・リポーツ誌に掲載された。