緊縮経済政策は自殺者の数を増加させる、欧州で最も自殺率が低い国で検証
過去30年間の月別自殺者数の分析結果

2011年ギリシャでは暴動が起きた。記事と直接の関係はありません。(写真:linmtheu/クリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般)

2011年ギリシャでは暴動が起きた。記事と直接の関係はありません。(写真:linmtheu/クリエイティブ・コモンズ表示 2.0 一般

 緊縮経済政策が自殺者の急増につながり得るようだ。

 もともと欧州でも最も自殺者の少ないとされてきたギリシャの月別自殺者数が分析された。

 米国ペンシルベニア大学とギリシャの研究グループが、国際的医学総合誌BMJのオンライン姉妹誌BMJオープンで2015年2月2日に報告した。

政策と自殺者の急増

 ギリシャは人口およそ1000万人の国である。その国で、1983年〜2012年に1万1505人の自殺者があった。男性9079人、女性は2426人。歴史的には、ギリシャは欧州で最も自殺率が低い国であったが、グローバルな景気後退の悪影響を最も強く受けたと言われてきた。

 研究グループは、経済の動向、特に緊縮財政と自殺者数の推移の関連を、30年間の月別データから分析している。

 2008年の景気後退の始まりとともに、男性の自殺率が上昇を始めた。上昇幅は前月比13%以上となり高い水準が続いた。

 さらに2011年6月の緊縮経済対策の導入が引き金となり、自殺者の数が急増し増加率は持続を続けた。月別の自殺者数が前月比35%以上跳ね上がったのが2011年6月だ。自殺の高まった状態が2012年まで続いた。

 また、2012年4月には、緊縮経済に抗議してアテネの中央部にある広場で年金生活者の男性が公開で自殺するという事件があり、その直後も自殺者数は前月比30%近く急増した。2012年には緊縮財政が行われる中で自殺者の数も最悪となった。

オリンピック開催決定で減少

  逆に良い出来事があると自殺者数は下がっていた。1997年のギリシャで2004オリンピック開催の決定、2007年のEUへの加入、2002年のユーロの導入、2004年のオリンピックの開催などがある。2002年のユーロの導入では、一時的に男性の自殺が前月比27%減少した。

 ギリシャの経済の不安定は、主として男性に影響を与えている。ギリシャでは今でも一家の大黒柱であるからだ。

 女性の自殺者の数は、全体の4分の1と少ないが、2011年5月には月に36%近く上昇し、増加は2012年まで継続した。

 統計局の自殺者数に宗教あるいはその他の理由で自殺と見なされなかったが自殺の可能性の高いものを加えて調整した場合にも、2011年6月に急増し、増加が継続するという傾向は同じだった。

 なお、2013年以降のデータは、研究が行われた時点では未だ利用できなかった。

政治は公衆衛生にも影響

  2008年から2011年の自殺者数の推移に見える傾向は、政府による大規模な緊縮経済政策が国の経済の安定と公衆衛生に重大な影響を及ぼし得ることを示している。今後、緊縮政策が必要になった場合には、精神衛生上の後遺症である自殺者の急増という事態に配慮しなければならないという。

 「発表の方法についても配慮が必要」と、研究グループは警告している。

 

文献情報

Branas CC et al.The impact of economic austerity and prosperity events on suicide in Greece: a 30-year interrupted time-series analysis.BMJ Open. 2015;5:e005619.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25643700

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Medエッジニュース

国内外の医療と健康のニュースをお届けします。

ウェブサイト:https://www.mededge.jp