それを飲むだけで生きていけるという未来のスーパー流動食、Soylent(ソイレント)。その概要と第一印象をお伝えした前編に引き続き、今回はこれを一週間飲み続けた編集部員Tによるレポートをお届けします。
●前編はこちら
はじめに
まずは簡単にルールの説明を。今回注文した1週間分7パックのうち、1パックは編集部内の試飲に使ってしまいました。なので、のこり6パックを1週間かけて飲み、足りない分は適宜ふつうの食事やおやつなどで補いながら生活することに。ソイレントだけを飲み続けるエクストリームな先人たちの記録はすでに数多く残されているので、geaered ではあえてハードルをちょっと下げて、ふだんの食生活の7割ぐらいをソイレントに置き換えたらどうなるかを試してみました。
ちなみに被験者である不肖わたくし編集部員Tのスペックは、身長173cm・体重58kg前後のほんのりやせ型。ソイレント生活開始前日の計測では、57.5kgでした。東京都内でひとり暮らしをしながら、在宅で編集・執筆をやったり、小さいIT企業で不定期のアルバイトをしたりしているため、バイオリズムはけっこう不規則。正直なところソイレントにはさほど魅力を感じない……いや、むしろ炭水化物と肉と魚をこよなく愛する自分にとっては、唾棄すべき存在といっても過言ではないです。そんな懐疑派によるややゆるい実験であることを念頭においた上でご笑覧ください。
1日目:とりあえずソイレントだけで暮らしてみる
ひとまず実験開始後数日はソイレントだけの生活に挑戦。起床後、昨晩のうちに専用ピッチャーで作っておいたソイレントを冷蔵庫から取り出し、コップになみなみと注いで朝食がわりにいただきました。最初の一口を飲んだ段階でこそ、未知の食品への好奇心ゆえにテンションが上がり、「これだったら余裕かも」と思ったのですが……。
とにかくピッチャーに入った泥状の液体がいっこうに減らない!!!!!
これが一週間とおして最大のストレスでした。一日分2,000kcalを摂取するために必要なソイレントの量は約2L。つまり、一日三食とるとすると、一食につき600〜700mlを飲まなければなりません。四食に分けたとしても一食500mlちょうど。どんなにお気に入りのジュースでも、朝目を覚ました直後にペットボトル一本分を飲み干せといわれたら、けっこうつらいはず。ましてやソイレントは味がイマイチな上に粘度が高く、飲み干すのはなかなかの苦行ですし、そのぶん時間もかかります。
なので、わが人生一杯目のソイレントをなんとか飲み干したころには、早くも「これだったらトーストでも焼いたほうがすぐ済むのでは?」という疑問を持ちました。この日はこれをくり返すこと四回。すでに肉と白米が食べたい。
2日目:おなかの中身がすっかりソイレントに
気分を変えるため湯のみに入れてみたりもしましたが、ソイレントはソイレントでした。
引き続きソイレントだけで生活しながら自宅作業。好物を食べたときの多幸感が足りていないせいか、やや気分は落ちているものの、体調に関する異常はほとんどなし。栄養はしっかり摂取できているようです。買い出しや調理の必要がないのもありがたい。その反面、「これが終わったらおいしいものを食べよう!」という動機で仕事にドライブをかけたり、しっかり休憩をとったりできないのはややつらい。
そしてこの日、ソイレント生活者が必ず一度は放つといわれる、とてもくさいオナラが出ました。これが想像以上の悪臭! しかもただくさいのではなく、ソイレントの粉末そのものが放つにおいが濃縮されたような……。パッケージを開けたときの第一印象で「牧場っぽいにおいがするな」と思ったのですが、その牧場臭にほんのり含まれていた動物のフン成分だけがクローズアップされたかんじです。オナラ後のお通じは好調なのですが、排泄物からも同様の悪臭がします。
ひょっとしたら、飲み始めた直後は体内の器官がソイレントに慣れていないがゆえに、オナラや排泄物にうまく消化吸収できなかったソイレントの現成分が含まれてしまうのかもしれません。これがけっこうキツく、一度この悪臭を経験してしまうと、今度はソイレント自体の臭いもフンっぽさばかりが気になり、飲みほすときの抵抗がさらに高まります。ちなみに、このにおいは日を重ねるごとにだんだん薄くなりました。消化器官が慣れたのか、自分の鼻が麻痺したのか、あるいはその両方なのかは不明。
3日目:ひさしぶりの食事でハイになる
日中ひたすらソイレントを飲み、夜は先約があった飲み会に参加しました。およそ60時間ぶりにごくふつうの食ベものやお酒を口にした瞬間、感動のあまり脳内に火花が散るような高揚感が。料理自体はごく普通の居酒屋クオリティだったので、ソイレントがストッパーになってせき止められていた、おいしさを感じる脳内麻薬が一気に放出されたのかもしれません。惰性で食べている無気力な食事をソイレントに置き換えるのは、ここぞというときに食べるもののごちそう感をブーストしてくれるので、悪くない選択肢かも。
4日目:ソイレントミックスを試す
ゆうべの食事ですっかり舌が肥えてしまい、ふつうのソイレントを飲む気力が失せところで、果物や調味料とあわせてミキサーにかけるソイレントミックスを解禁。ミックスは公式マニュアルでも推奨されています。まずは冷凍バナナを使ったシェイク風のものを試すことに。
結果、ジュース感覚で気軽に飲める味になりました。調理の一手間こそかかってしまうものの、プレーンのものよりおいしく短時間で飲み干せます。その他にもソイレントが進むミックスを実験期間中にいろいろと試作。果物はキウイやパイナップルなどの酸味の強いさっぱりしたものより、バナナのようなまったりとした甘味のあるもののほうが合うように感じました。
いちばんのヒット作は、信玄餅よろしく黒蜜ときな粉を混ぜたもの。両者の風味がソイレント独特のくさみを相殺してくれるのか、ただただおいしいジュースとして飲めて最高でした。日本の甘いものは偉大です。気がどうにかしていた終盤でキンミヤ焼酎割りを試したりもしましたが、結果はご想像にお任せします。
5日目:ソイレントと出かける
昼どきに打ち合わせで外出する用事があったので、ソイレントをお弁当のように持ちだしてみます。準備はいたって簡単、付属する専用の計量カップで摂取したいカロリー分の粉末を測り、適当な容器にいれて持ち運んで、飲むときに水で溶くだけ。今回はシェイカーも兼ねた密閉容器に入れてみました。もっとコンパクトにしたければ、ジップロックなどを使うのもありでしょう。粉末タイプの Soylent 1.5 は、水に溶いたあとは要冷蔵なので、あらかじめ液体にして持ち出すには保冷が必須です。
ここで、「フィールドでも使えそう……」と考えている方のために、重さなどにもふれておきます。粉末タイプだと2,000kcal分の粉末が460g、さらにこれを溶かす水が約1.5L強必要です。粉末はインスタントラーメン4食分より重いですが、ビタミンなどの栄養素がすべて摂取できるので、ソイレントには大きなアドバンテージがあります。水の問題は食品のタイプに関わらず必ずついてまわるものですし、すべての水を担ぐ必要のない沢沿いや水場がある山小屋などを通過する行程なら、ソイレントは非常に有利なアウトドア食になります。
さらに、今秋に発売予定の最新版 Soylent 2.0 は、常温保存ができるボトル入りの液体タイプです。こちらは粉末タイプより一食分あたりの重量はやや重くなりますが、デイハイクやトレイルランニングに1〜2本持って出かけるのは選択肢として悪くないでしょう。作る手間も省けます。ちなみに粉末タイプのものより味も飲みやすさも向上しているとか。
6日目:ソイレントはごちそうにならない
大事な原稿の締切日だったため家にカンヅメ。ときどきミックスを試しつつひたすら飲み続けます。執筆に難儀したのも大きいですが、やはりソイレントは気分転換にまったく適しておらず、一度ダウナーな状態になると食事抜きで作業を続けるのはけっこう危険だと思いました。深夜の送稿後、ソイレントでおつかれの一杯……という気分にはならず、最寄りの牛丼チェーンにかけこみました。とてもおいしい。
7日目:ソイレントの原点を再確認
いよいよ迎えた実験最終日は、気を取り直して再びプレーンなソイレントのみで過ごします。この日はフルタイム+残業つきのハードなオフィス勤務だったので、ピッチャーと一日分の粉末を職場にもっていって仕事の合間に飲みながら過ごしました。geared とは何ら関係のないこちらの勤務先では、ソイレント実験のことをまったくお知らせしていなかったため、ピッチャーいっぱいの液体をひたすら飲み続ける自分を奇異な目で見る同僚にコンセプトや何やらをいちから説明したところ、もれなくあわれみのお言葉を頂戴しました。お昼どきに隣の席から漂ってくるお弁当のかおりが胃を直撃します。
激務に苦しむカリフォルニアのスタートアップ企業によって開発されたソイレントは、在宅ワークにしろオフィスワークにしろ、仕事中の食事にかかるコストを減らすことを本義としています。そもそも激務が諸悪の根源であることはいうまでもないので置いておくとして、ソイレントが生まれたアメリカとは違い、少なくとも東京都内で働くぶんにはコンビニやチェーン系飲食店の選択肢が徒歩圏内にそこそこあり、安価でそれなりにおいしいものが手軽に食べられる環境にあります。なので、現状それほど食事の効率に困ることもないです。
もちろん、こうしたジャンクな食事は栄養バランスではソイレントに劣ります。それでもジャンクフードにすら食事本来のリフレッシュ効果はあるので、手間を切りつめることに特化したソイレントと天秤にかけて、トータルでの効率向上につながるのはどちらなのかと考えると、今はまだソイレントが圧倒的に不利だろうと……というのが一週間飲み続けて考えたひとまずの結論です。
おわりに
とはいえ、ソイレントの改良が進めば、状況も変わるかもしれません。今回試したバージョンの最大の問題は、とにかく摂取量が多いところで、食が進まないときには一食分を飲み切るのに数十分を要する本末転倒な事態におちいることもしばしばでした。でも、これが一食あたりコップ一杯分で済むようになり、水のように違和感なく飲めるようになれば、いよいよ革命が起こるでしょう。実際に、先述したドリンクタイプに進化した最新版 Soylent 2.0 では味とのどごしが改善されているとのこと。粉末タイプの飲みにくさに苦しめられただけに、とても気になります。
栄養面では現状のものでも問題なく、気分が上下することはあっても体調は崩れませんでした。その証拠に、ソイレント生活終了後に体重を計測したところ、一週間前には57.5kgだった体重が、58.6kgにまで増えていました。摂取量を適宜調整すればダイエット効果もありそうですし、身体のハード的な面をシンプルな計量と摂取で維持調整できる利便性には舌を巻きます。
そして何と言っても、継続したソイレント摂取は、通常の食事のよろこびを逆説的に高めてくれます。近い将来のうちに、飲みやすくなったソイレントをマイペースに生活にとりいれれば、忙しいときにはソイレントで時間やお金を節約し、食べるときにはおいしいものを目一杯ゆっくり食べるスタイルが、最も幸福な食文化の未来として実現するのかも……と未来に思いを馳せました。
最終日、職場にて夜半に完飲。ごちそうさまでした。
- 製品名
- Soylent Powder 1.5
- ブランド
- Soylent
- 価格
- $85(一日分460g×7パック)