「日本のECサイトはグローバル化し、日本を支える産業になる」次世代ECサイトパッケージ開発|スターフィールド
訪日外国人の増加やグローバル企業の国内進出など、私たちの生活に海外製の製品やサービスは欠かすことができません。一方で、日本には中小企業が全企業数の99.7%(※1)を占めていますが、まだまだ海外でその力を充分に発揮することができていないように感じられます。
そんな歯がゆい状況の中で『Launch Cart』という、次世代のECサイト運用パッケージを運営するスターフィールド株式会社の代表取締役を務める星野翔太氏は「これから日本のECサイトはどんどんグローバル化し、日本を支える産業になる」と語ります。では、星野氏はどのように日本のECとグローバルビジネスを見据えているのでしょうか。今後の展望とともにお話を伺いました。
(※1):FAQ「中小企業白書について」
「高田馬場の雑居ビル群で、ピンポンを押しまくった」自分では制作できない案件も受注していた飛び込み営業時代
大学在学中にスターフィールドを起業したという星野氏。起業前には学生としての生活を送りながら、とある大手企業にプログラマーとして働いていた経験があるそうです。
もうガチガチのインフラ系です。C、C+、.NETとかの制御システムをつくっていました。なぜお堅い会社に入社したのかというと、ビジネスモデルを考えたり実行したりするのは、ある程度自信があったんです。
そうなると、やっぱり自分に強みがないといけないと思い立って、プログラミングを学びたくて入社しました。
そして、企業でプログラミングを学びながら、大学では“ベンチャー起業家養成基礎講座”というビジネスプランコンテストに参加します。
早稲田大学内の授業で行われる、ベンチャー起業家養成基礎講座というビジネスコンテストがあります。その授業は半期で(通常の2倍の)4単位ももらえるので、かなり人気がありました。授業にはゲスト講師としていろんな人が来るんですよね。当時だったら、DeNAを創業した南場さんとか。
夏休みに入ると2泊3日の合宿をして、そこで自分のビジネスアイデアをプレゼンします。最終的には軽井沢でビジネスプランコンテストが開催されて。コンテストに優勝すると、実際にビジネスを起こすための事務所を提供してもらえるんです。
もともと起業しようと思っていたし、単位も一気に取れるので、この講義はいいきっかけだと思って受講しました。
当時の星野氏が提案したビジネスアイデアは、C to Cのマーケットプレイス(取引市場)をテーマにしたものだったそうです。
今でこそFacebookなどの実名制サービスがたくさんありますが、当時のインターネットは匿名性が強かった。これがどんどんオープン化していくとなると、市場もC to Cになっていくだろうと思っていたんですけど、今ようやくその流れが来ていますね。
結局、その2006年のビジネスプランコンテストの最優秀賞は、実業家の与沢翼さんだったんですけど。事務所は彼がもらったので使えなかったんですよ。
このような経験を通して、大きな組織の縦社会の構造など「社会の一端を見れたのが学び」と振り返る星野氏。そして、大学在学中の2007年に起業を決意します。
最初の1、2年は猫の手も借りたいくらい忙しくて、身体的にきつかったですね。在学中に起業したんですけど、本当に忙しくて大学を中退しました。
例えば、当時は飛び込み営業もしていて。事務所のある高田馬場の雑居ビル群で、ピンポンを押しまくっていたり。社員は自分しかいないですから、受託開発の仕事を取ってくるのも自分、制作するのも自分です。2年目には手伝ってくれる人が増えてきたんですけど、やっぱり最終的な制作は自分でやらなきゃいけませんでした。
めまぐるしく毎日がすぎる環境の中、最も印象的だった案件についてお聞きすると「航空券を予約するようなシステムの開発」と星野氏は答えます。
今考えると、とても小さな体験だなと思うんですけど、1ヶ月から2ヶ月くらいかけて予約システムを全部つくりました。それが会社を設立して、たった数ヶ月後の出来事だったんです。依頼してくれた会社からは、「お金を払うから、当時流行っていたFlash制作をやりたい」と言われたんですけど、僕にはFlash制作ができない。それなのに「できます」と言って受注したんです。そこで、なんとかしてFlash制作できる人を探しだして、開発をお願いしました。
当時は若かったのでリスクを想像できていなかっただけだと思いますが、今思うとメンタルが本当に強くないと、絶対こんなふうに仕事はできない。頭がおかしくなるだろうなって思います。
「クールジャパンじゃない、本当の強みは“伝統”」中小企業がやるグローバルビジネスは日本のためになる
創業1、2年目を振り返り「お金がなかった。どんだけお金がなかったんだろう」と振り返る星野氏。たった1人で壁を乗り越え、3年後の2010年には最初の仲間となる社員を迎えることができました。
EC事業に軸を置きはじめたのは2011年ごろだったかな。やっぱりビジネスとして安定的に成長できて、バブルにならずにしっかりとノウハウを構築してインフラとなるものを生みたくなったんです。よくIT系の会社さんって、今までにないものをつくろうとします。それが「間違っている」とは言わないんですけど、危険なことだとは思います。開発したサービスが一般の人々に受け入れられて根付くのかというと、決してそうではありませんから。
逆に一番手堅いのは衣・食・住だったりとか、人間の生活の中で必ず必要になってくるもの。それに対してサービスを提供することが、企業としては一番安定しますよね。
新しいサービスを生み出そうとするIT業界の風潮をふまえて、星野氏はあえてEC事業という道を選択したそうです。
人間の生活に不可欠なものであり、レッドオーシャンになっていない、それで今後も伸びしろがあるものを考えた結果「ECサイトが一番いい」と思えました。さらに言うと、ものの売り買いが個人単位になっていって、国境すらなくなってくるだろうと。それにTPPやFTAを見越して、グローバルにビジネスやったほうが楽しいし、日本のためにもなります。
そもそも今の日本の経済成長率がマイナスになっている理由は、輸出できる産業が少なくなっているからですよね。輸出して外貨を稼がなければ、日本は資源がないので食っていけないし、生活できなくなります。
このような現状から活路を見いだせるのは、政府が推進する「クールジャパンではなく、日本の伝統的なものだ」と星野氏は語ります。
創業して100年を超えている会社って、アメリカだと1社しかありません。世界最大のコングロマリットのGE(ゼネラル・エレクトリック)です。でも日本だとそれが数千社もあって、なかには1000年以上の歴史ある会社もあるんですよ。
しかもそのうちの99.7%を占める中小企業が切磋琢磨して、技術に磨きをかけている。やっぱり日本の会社の強みは、”それぞれの会社に特徴があること”だと思います。そういったところをもっと研ぎ澄まして、海外にアピールしたり売ったりするために中小企業が個別にグローバル化していくべきです。そこでITの力を借りたほうが効率的になるのではないでしょうか。
日本の企業の価値を海外にアピールしていくためのツールが「ECである」と考え、「EC事業に特化し、一本化していきたい」と話す星野氏。
「受託やってよ」と、お願いされても「うちはEC事業しかやらないんで」と言えるようになりたいです。現段階で自社ECサイトをグローバル展開している企業って、ほとんどありませんからその力になりたい。
これから企業は自社の公式サイトからでも、海外への販売ができるような見通しをもってグローバル化に対応していくべきです。テンプレートで似通ったECサイトをどこかのプラットフォームに出すのではなく、独自のECサイトで日本版と海外版で切り替えられるような設計にして販売してみるような。
そして「新しいECサービスをつくる必要がある」と考えた星野氏は、自社でLaunch CartというECサイトの運用パッケージを開発します。
うちの製品の強みはWordPressぐらい便利なCMSを内蔵しているところです。よくECサイト構築で利用されるパッケージは拡張性があまり高くないし、CMSを重視していないですよね。例えば、ECサイトでブログを始めたいと思ったら、WordPressを導入しなきゃならない。それは面倒くさいです。
これからはECサイトと親和性の高いオウンドメディアの運用や、コンテンツマーケティングを実践するにあたって、ますます効率性の高いCMSが求められると思っています。
※CMS:Webコンテンツを構成するテキストや画像、レイアウト情報などを一元的に保存・管理し、サイトを構築したり編集したりするソフトウェアのこと。
引用元:CMS 【 Contents Management System 】 コンテンツマネジメントシステム
「国際事情で企業が進出できないなんて、もったいない」民間企業が担うEC×グローバルの未踏領域
EC事業及びグローバル化に焦点を当てていく同社が求めているのは「ビジネスの本質を一緒に考えられる人」と星野氏。
アプリやゲームなどの流行りを追うミーハーな人より、グローバル化やEC事業のビジョンに共感してくれる人と仕事がしたいですね。時流に乗っているから、イケてるから、儲かるからじゃない。
うちはそんなに規模そのものは大きくないので、儲かることや流行だけを追いかけている人とは、ちょっと合わないかもしれません。結果的にはウェブ業界に興味をもって、いろいろなことをやってみたいと考えて来てくれる人が多いですね。
日本の企業がもつ価値を海外へと発信していく。その重要性を語っていただいた星野氏に、今後の事業の展開についてお聞きしました。
「あそこはEC事業の企業だ」ともっと認知度を高めていきたいです。そして日本のお客さんにうちのECシステムを使ってもらいたい。だからこそ日本での土台づくりを早くしないといけません。間近の1年か2年で、流通総額100億円にはしたいですね。その上で、ユーザーの海外展開を支援していきたいです。
海外展開の波は、必ず、急に来るはずですよ。
とはいっても焦らずに、一つひとつの国ごとに攻略していく必要があると思います。まずはやっぱり中国ですよね。「中国に進出するなら、スターフィールドのECシステム使えば間違いない」と評価されるのを目指します。一国ずつ成功していって、対応できるエリアを広げていきたいです。
しかしながら企業の海外進出には「困難な課題が多い」と話しながらも決意を表す星野氏。
例えば中国だと海外進出のためには結構お金がかかるし、法制度や規則の複雑さなどの不透明な部分が多くて、日本政府も「そこは、わかりません」と明確に言うんです。税関を通るときがあれば、通らないときもあります。日本の税関は中国と連携していないんですよ。そうなると僕らも調べようがないから、それこそ知り合いに賄賂を渡すような不透明な手段を選ばないとビジネスができなかったりします。
政府の政治事情や国際事情で企業が海外進出できないなんて、もったいないですよね。民間企業が補えるかどうかなんてわからないですけど、企業の海外進出時に一括して税金などの手続きをきちんとやってあげるとか。
前例はありませんが、そういう壁があり、今後市場から求められるものだと覚悟して、EC事業を進めていきます。
「EC×グローバル」という未踏領域で、果敢に挑戦するスターフィールド。大局観をもち、時流に惑わされることなく歩む同社が「日本を支える産業」を形成する一躍を担い、多くの中小企業が世界で活躍する未来が楽しみです。
インタビュアー:小田直美 / カメラマン:大塚麻祐子 / 編集者:小松崎拓郎
星野 翔太氏
1985年生まれ。2006年ベンチャー起業家養成基礎講座にて優秀賞を受賞。早稲田大学在学中に当社を設立。日本に限らず、世界に挑むベンチャー企業を目指している。