有名エンジニアを輩出する、はてなのインターンはなぜ、そしてどこがすごいのか【TechLIONレポ】
2015/08/13公開
2年ぶりに東京を飛び出し、京都スワロウテイルで開催された『TechLION vol.22』
有名エンジニアらによるトークライブイベント『TechLION』。22回目となる今回は8月7日、京都を舞台に開催された。同イベントが東京以外で開催されたのは2年ぶりのことになる。
ゲストの顔ぶれ、トークテーマも京都ならではのラインナップ。
人材輩出サークル『京大マイコンクラブ』(以下、KMC)の出身で、セキュリティの大家として知られる立命館大学情報処理工学部教授の上原哲太郎氏(@tetsutalow)をはじめ、KMCの現役部員であるPasta-K氏(@pastak)、関西圏を中心に多くのイベントを企画している川合和史氏(@korowan)らが登壇した。
ここではその中から、京都に本社を構えるWebサービス企業はてなのサービス開発本部長・大西康裕氏(@yasuhiro_onishi)による、「はてなのインターン」と題した講演内容をレポートしたい。
はてなでは、多くのWeb系企業に先駆けて2008年から毎年8月にインターンを開催しており、Oiitaを開発するIncrementsのCEO海野弘成氏ら“卒業生”には後の有名エンジニアが多く名を連ねる。KMCに負けず劣らず優秀な人材を輩出していることで知られている。
はてなのインターンはなぜ、そしてどこがすごいのか。
株式会社はてな 執行役員 サービス開発本部長
大西康裕氏(@yasuhiro_onishi)
2001年に創業メンバーの1人として有限会社はてな(当時)に入社。主にエンジニアリングを担当し、チーフエンジニアとして全サービスの開発や技術部の指導・育成に携わる。「はてなブログ」の立ち上げや事業化を指揮し、2014年8月より執行役員サービス開発本部長に就任
社員に交じって実際のサービス開発に従事。濃密な20日間
2014年のインターンの模様をレポートしたはてなの特設ページ
2001年に京都で創業したはてなは、その後1度拠点を東京へ移し、08年に再び京都中心の体制へと戻した。インターンを始めたのはこのタイミングになる。
はてな創業メンバーの1人でもある大西氏は、「再度京都に腰を据えてやっていく上で、地元の優秀な学生をターゲットにした採用活動とブランディングが必要でした」とインターン立ち上げの経緯を振り返る。
今日まで続くはてなのインターンの特徴としては、4週間20日と比較的長期であること、社員に交ざって実際のWebサービス開発に携われることが挙げられる。
参加者数も毎年10人前後で一定しているが、ちょうど10人を受け入れた初年度、社員エンジニアの数は10人に満たなかったという。この一事だけとってみても、はてながインターンをどれだけ重視し、多くのリソースを割いてきたかがよく分かる。
20日間のインターン期間は、前半7日間の講義パートと、後半の実践パートとに分けられる。大西氏が講演の中で公開していた、2015年の講義パートのカリキュラムは以下の通りだ。
1日目 開発風景紹介・事前課題フォローアップ
2日目 言語の基礎(PerlまたはScalaのコースを選べる)
3日目 SQL、DB
4日目 HTTP、WAF
5日目 JavaScript
6日目 自由課題
7日目 インフラ、発表会
8日目 Swift(後述するiOSアプリ開発実践コースのみ)
Webサービスを作るために必要な技術を、必要な順番に覚えられる内容になっている。今年は新たに、サーバ管理・監視ツール『Mackerel』を開発するのにも使われているScalaを学ぶコースも設けられた。
朝10時半に出社後、午前中いっぱいかけて講義を受講、午後は午前で学んだことが身に付いているかを確認する課題に取り組む。「参加者の多くはこの課題をクリアするのに苦戦を強いられるため、19時の終業時刻を超えて“残業”する人も少なくない」という。
こうした濃密な講義パートが1週間続いた後、いよいよ各サービスの現場に配属されて、社員と交ざってのWebサービス開発に携わることになる。11日から始まっている今年のインターンでは、応募時の希望に基づき、以下の6つのコースのいずれかに配属されることになっている。
・はてなブログコース
・Webマンガ投稿・公開サービスコース
・アドテクノロジーコース
・iOSアプリ開発実践コース
・クラウドサーバ管理システムコース
・大規模システムコース
3月から10月まで。1年の大半を掛け、全社一丸で臨むプロジェクト
インターン参加者によるブログ記事が評判を呼び、参加希望者は年々増え続けている
「2008年の開始当初は参加者を集めるのに非常に苦労した」と振り返る大西氏。当時はイベントや大学の講義の場で直接声を掛けて参加者を募っていたという。
回数を重ねるごとに知名度は上がり、選考倍率は年々上がっている。毎年インターン終了後に運営側で作成しているレポートページや、参加者が自主的に書いたブログ記事などによっても参加希望者は増え続けている。
参加希望者が増えればその分、選考の労力は増す。今年はPerlとScalaの2コースに分けたため、必要な講師の数も倍増した。
プロデューサーや実行委員長に始まり、各講義の講師やチームごとのメンター、それ以外の社員もバックアップしていることを考えると、投入しているリソースの大きさは計り知れない。
例年3月に立ち上がるプロジェクトは、実際のインターン実施期間を経て、10月に終了後のレポートページを公開するまで続く。ほっとひと息つくと、すぐにまた次の年のプロジェクトが立ち上がる季節になる。
ここまでリソースを投入してインターンを実施することの意義を、はてなはどう見ているのだろうか。
参加者目線の意義という点では、「やはりホンモノの開発現場に触れる経験は大きい」と大西氏は言う。
「Webサービスを学ぶ環境、反映先などが充実し、学ぶための敷居はどんどん下がっている印象ですが、それでもなお実際の企業の研修を受け、大きなプロジェクトに参加してユーザーに届く開発をすることの意義は、依然として大きいのではないかと思っています」
一方、はてな側にとっても単に採用やブランディングにつながる以外にも、
・講義資料から社内の研修につなげることができる
・教えることで講師・メンターの技術力が向上する
・本気でぶつかってくる学生から刺激をもらう
といったメリットがあるという。4週間の過密度な体験で「最高の夏」を得られるのは、何も参加者だけではないというわけだ。
インターネットで学んだものは、インターネットに返す

インターンの講義資料は終了後にGitHub上で公開している
もちろん、多大なリソースを注ぐからには、全社的な取り組みとして号令をかけて、各自のモチベーションを上げることは不可欠。また、開発と同様に適切に見積もりし、タスクを分割し、準備を行い、KPTを実施して改善し、ノウハウを伝承する……といったことも徹底して行っているという。
「こうした取り組みの根底にはCSRの考え方がある」と大西氏は言う。
「僕らはインターネットを通じて学ばせてもらってきた。それをインターネットへ返す役目があると思っています。だから彼らにも、このインターンで学んだ技術を活かして、インターネットや世の中に貢献してもらいたいと思っているんです」
通算80人に上る“卒業生”は、必ずしもそのままはてなに入社したわけではないが、別の会社で、あるいは自ら起業して、さまざまな形でインターネットに寄与してもらえれば良いというのが、はてなのスタンスのようだ。
インターンのために作成した講義資料も、終了後にはGitHub上で公開している。2015年のものも、終わり次第、公開する予定という。
「日本語でScalaを体系立って説明した資料はまだあまりないですし、Swiftの言語仕様なども、そのまま本にできるレベルと自負しています。多くの方に参考にしてもらえるのではないでしょうか」
企業によっては、インターンを学生の囲い込みとしてのみ利用しているところも少なくないと聞く。はてなのインターンの取り組みから学ぶべきことは、単なるノウハウを超えたところにあるのではないだろうか。
取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)
■関連の外部リンク