この本を読んだのは、たしか小学5年生くらいのとき。
三田村信行さん・・・今は、子供たちに大人気の『キャベたま探偵シリーズ』など、みんなに愛される児童書を多く書かれていますが
この本は違います。
この本は、下記の5つの短編が収録されているんだけど
☆ゆめであいましょう
☆どこへもゆけない道
☆ぼくは5階で
☆おとうさんがいっぱい
☆かべは知っていた
どれもこれも
めっちゃ怖いです。
それも、おばけが~とか、血が~とか、犯人が~とか、そういういわゆる「怖い話」じゃなく、読んだ後、目に見えるすべての世界が嘘くさく、作り物に思えて、その思いは自分の存在そのものにも向けられ、自分なんか本当はいないんじゃないか?という感覚におちいる怖さです。
小学5年生が。
この本が学校の図書室に置いてあったこと自体、得体のしれない陰謀に思えます。
アマゾンのレビューには、自分の子供にも読ませたいとか書いてる人いたけど、私は、長男がこの本を手に取ったとき
読むのをとめました。
情緒不安定になって、外出できないとか、学校行けないとか、寝れないとかになったら困るので。
それくらい
危険な本です。
私自身は、図書室で借りて読んだ強烈な記憶が忘れられず、大人になって、買いました。当時は『同じ作者の別の作品を読んでみる』という発想ができなかったので、三田村さんの他の本は読まなかったんですが、
読まなくてよかったと、心から思います。
大人になってから読んだ他の作品も、児童書とはとても思えない闇の深さに震えました。でも、さりげなさでいったら、この作品がやっぱりピカイチかも。後で知ったんですが、この作品を含め、三田村さんの著書の何冊かは『トラウマ児童文学』として名高いんですね。
この本に収録されている5作品は、どれも甲乙つけがたい恐ろしさですが、子供のころ、特に印象に残ったのは
☆どこへもゆけない道
☆ぼくは5階で
☆かべは知っていた
この3作です。この中からさらに1つを選べといわれると、もう本当に迷いますが、むりやり選ぶとしたら
☆ぼくは5階で
でしょうか。『どこへもいけない道』とともに、家に帰れなくなる恐怖を描いていますが、家に帰れなくなるというよりは、自分がいなくなるというか、いや自分はいるんだけど、認知されなくなるというか、子供時代に誰でもきっと感じたことがあるであろう『自分って何なんだろう?』という漠然とした不安を増幅させられ、読後は、淵のない不安感に取り込まれてしまいます。
これを子供に読ませるなんて、なんて恐ろしい。
私が今でも、時々、自分の存在を不確かなものに感じる瞬間があるのは、まさに
この本のトラウマかもしれません。
お子さんが読んでしまったら、かなりの高確率で、しばらくの間、1人でお留守番や外出ができなくなるので要注意です。
そういう意味では、あまりオススメはできないけれど、そういう怖いものみたさとか、もやもやとした読後感が好きな方にとっては、これ以上の本を、私は知りません。児童書だし、短編集だし、読書が苦手な方でも簡単に読めます。
ただし、読んだことを一生後悔するかもしれないけれど。
忘れられない1冊になるのは確かです。