富士山を望む土地に住んでいる。長くアメリカに住み、ハリウッドで活躍していたが、10年前、拠点を日本に移し、女優のかたわら、農業を始めた。そのご自宅にうかがった。
「若い頃から自給自足に憧れていました。さらに健康を壊しかけ、食べ物で自分の体を立て直したという経験から、農業へと自然に足を踏み入れたのです」
米、芋類、根菜、夏野菜……、農家のような広い土地で多彩な作物を作っている。収穫した「無肥料無農薬野菜を使った」料理を出すカフェも併設。毎年、近くの蔵元の杜氏の協力で日本酒も造っているとか。
「農作業の多くは私がしてますが、時々、夫と、もう一人、手伝ってくれる人がいます。でもこの1週間、女優の仕事が忙しく、無視してます(笑)。畑を見るとやめられなくなるので。手をかけないとそれだけの収穫しか見込めないし、自給率は下がりますね」
それにしても、女優と農業、どんな関係なのか。答えは意外なほど率直なものだった。
「私の年齢で女優だけやっていると、時折、詰まってしまうこともあります。芝居や映画の仕事はすごく好きで特別なこととしてとっておきたいのに、流されたり、守りに入って苦渋の選択を迫られたりするのは嫌なんです。常に新しいことに挑戦していたいし、それが自分を悄気させない、凹ませないために大切なこと。ライフワークとして真剣に農業をやることで、女優の仕事もさらに大事にできる。前輪が女優なら、後輪が農業なんです」
確かに、常に挑戦しつづけてきた人生だ。10代でデビューし、相米慎二監督の「台風クラブ」などに主演、注目されたが、ハリウッドに興味を持ち、17歳でジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」に出演、以降、ハリウッドを拠点に活躍してきた。
「アカデミー女優でもオーディションを受けるという実力社会に惹かれました。でも実際は、結構、大変でした。全体の5%のアジア人の役をすべてのアジア人で争う、食うや食わずの時もありましたけど、でも女優は本当に恵まれた仕事。この仕事につけたことはラッキーなことで、本当に感謝しています」
そんな工藤さんが「参加できて幸せ」と語る作品が、8月8日から公開の映画「この国の空」だ。芥川賞作家高井有一さんの谷崎潤一郎賞受賞作が原作。戦争末期、空襲下の東京・杉並の住宅地。19歳の娘と妻子を疎開させた隣家の男との「恋」を描く。工藤さんは、二階堂ふみさん演じる娘の母親・蔦枝役を演じた。
「戦争中に若い娘をもつ母親の葛藤、愛情、自分もまだ女であるという執着、娘への羨望。そんな感情が端的に見える河原のシーンが私にとって最も重要でしたが、赤裸々な感情も丁寧に描いた独特な映画、本当に素敵な作品」
美しく静謐な映像の一方、極限の閉塞感の中での人間のリアルな想い、行動、切なさが迫る、余韻が残る作品だ。若い頃は自分のキャラクターで判断したが、いまは作品の質で選ぶようになったという工藤さんが「後々になっても嬉しく見られる映画」と語る。
ベランダからは富士山が望めた。「夕日にあたる富士を見ながら、今日はいい一日だったなあと思えるひとときが一番好き」と話す。
この人は、華奢な体で、周りが驚くほど大胆な挑戦をし続け、いい一生だったと思えるよう、人生を切り拓き続けているのだなと思えた。
撮影:森川 昇/文:追分日出子
ヘア・メイク:森野友香子
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くどう・ゆうき(女優)
1971年東京生まれ。84年「逆噴射家族」で映画デビュー、「台風クラブ」で注目されるが、海外へ活躍の場を広げ、「ミステリー・トレイン」「ヒマラヤ杉に降る雪」などの米映画に出演。近年では映画「座頭市 THE LAST」「カラカラ」などに出演。2005年から富士宮に住み、女優業と並行し農業を始める。10年、元公務員で武道家の男性と結婚。8月8日公開映画「この国の空」(荒井晴彦脚本・監督)に出演。
■この記事は、2015年8月6日付朝日新聞朝刊「ボンマルシェ」特集のコーナーの転載です。
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