【丸ごとスワローズ】
努力と勇気-。少年漫画かと笑われそうだが、7月2日のタイガース戦で2勝目を挙げた山中浩史のピッチングには、確かにこの2つを感じた。
好調の波に乗りつつあった虎が、完全にタイミングを崩されていた。120キロ台の直球を我慢して打ち返したのは二塁打2本のゴメスぐらい。鳥谷敬が待って待って打ったスライダーに詰まらされて併殺打に倒れる。野村克也氏によれば「遅い球の攻略法は、狙うか捨てるかの二者択一」-。阪神の打者は狙えず、捨てられず、翻弄された。
高津臣吾投手コーチは「遅い球を勇気を持って投げていた」と満足げに話した。昨秋から二人三脚で取り組んできたフォームの改善の成果を実感したのだろう。
「時計の針でいえば、いままでは『6時』の位置で投げていたのを、いまは『12時』で投げる感覚なんです」
山中はこう説明した。打者の手元でスッと落ちる軌道のシュートや、抜き球のシンカー。さらに手元でフッと浮き上がるようなカーブ。これらアンダースロー特有の変化球に加え、伸び上がるように切れのあるストレート。アンダースローらしい投球スタイルを確立するのに重要なのは「手首を立てられるかどうか」だという。
昨秋のキャンプから、高津コーチと手首を立てる練習に取り組んだ。昨年7月のトレードは山中にとって、単なる転機ではなく、同じアンダースローの大投手との「巡り合い」という点で、実は大きな意味を持っていたのである。6月12日の西武戦で、牧田和久とのサブマリン対決を制してプロ初勝利。練習を始めてから9カ月、出番を待ち望んでから2カ月、努力は実を結び始めた。
「野球の技術って、右肩上がりに上達するものじゃないんです。ずーっとできなくて、ある日ポンっとできる。グラフにするとね、練習に比例する直線じゃなくて、階段みたいに上がっていくようなイメージ」
桑田真澄氏に、こう説かれたことがある。自転車を乗ろうとする子供は、何度も何度も転び、努力して努力して、ある日ポンと乗れるようになる。誰にも経験はあるはずだ。そして、野村氏はこう言う。
「努力には即効性がない。多くの者が、努力したって結果が出ないじゃないか、と諦めてしまう。不器用な者ほど、諦めずに努力できる。だから『不器用な人間が最後には勝つ』」。(加藤俊一郎)
(「月刊丸ごとスワローズ」第19号から抜粋)
「月刊丸ごとスワローズ」第19号
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