ザハ事務所ステートメント日本語訳

haザハ事務所からの新しいステートメント。
プロセスのなかでいかに貢献しようとしてきたか、そしてそれが拒まれてきたか、という経緯が書かれている。
あたりまえだけどちゃんと仕事しようとしてきた。
これまでの作業の成果を公開しようと考えているとも。


原文Zaha Hadid Architects 翻訳freudig

日本及びUKにおける我々のチームは,クライアントの設計要件及び予算に従って設計が行われてきた日本の新国立競技場のザハ・ハディド事務所(以下ZHA)の設計について,きちんと記録を残しておくことが重要と感じています.

報告にあったコストアップの理由,及び,2020年東京オリンピックの開会まで丁度5年となった今,設計及び着工の遅れが齎すリスクについて,日本国民の皆様が明確に理解されることが何より大切です.

2012年,2019年のラグビーワールドカップ及び2020年東京オリンピックを誘致すべく行われた国際コンペにおいて,ZHAは46のエントリーの中から建築家及び他の専門家によって選ばれました.

我々は,この2つの大きな大会だけでなく今後50年から100年に渡って国内,国外或いは地域やコミュニティーのスポーツ,及び文化イベントを開こうという高いフレキシビリティを持った国立競技場という日本のビジョンを面白いと思ったのです.

設計は,ZHAのデザイン監修の下,日建設計を始めとする日本の第一線の設計事務所とのジョイントベンチャーによって進められました.設計チームはクライアントであるところのJSCの設計要件や要求,予算を満足すべく,膨大な時間を費やしました.

設計が行われた2年以上の間,全ての段階において,設計及び予算はJSCに承認されてきました.ZHAは一貫して積極的にコスト削減に努めてまいりました.

日本での公共建築物としては初めて,見積りを出す前に施工業者を任命する,という2段階入札の方式が採用されました.ZHAはこのやり方に対して多くの経験があり,

JSCに,完成時期は動かせないこと,東京に於ける工事価格は跳躍的に上昇している背景,国際的な競争が出来ないことを考え合わせると,早い段階で施工業者を選定することは,コストの上での競争が起こりづらくなるだろうとアドバイス致しました..

加熱した建設市場に於いて,十分な競争もなく,早過ぎる段階で施工者を選定することが,建設コストをかなり高く見積もることになるだろうという我々の忠告は,聞き入れられませんでした.

次にZHAはJSCに対し,このように競争が十分でない場合には,クライアントの設計要件,建築のスペック及び施工者にかかる費用を減らしていくことが,建設コストを下げることに繋がるだろうとも提案致しました.

予算と設計は,7月7日に政府によって承認され,その際には一切コストの下げるようにという要求はありませんでした.

施工者からの見積りが高かったので,ZHAと全ての設計チームはJSCと一緒になって,進行中の設計はクライアントの設計要綱に沿ってなされたものであり,設計変更を含めた様々なコストダウンの可能性があるということを保証する為に奔走しました.

我々は競技場を建設するのに必要な,標準マテリアルや施工技術の見本まで配布致しました.我々の経験によれば,高品質で経済的にも効率的な建築を作る為には,設計者が施工者及びクライアントと一丸となって,一つの目的に向かって協働するのが一番の近道です.

しかし,我々は施工者と協働することを禁じられ,更に見積りが不必要に高くなり完成が遅れる危険性を高めることとなりました.

7月7日,JSCの有識者委員会へのレポートに於いて,施工者から提出された数字を用いて,建設費が上がった理由の大部分は設計の所為であると不当に非難を受けました.ZHAは事前にそのことを知らされておらず,早急にこの不当な非難についての反論を致しました.

レポートのコメントは,設計の中でも特に鉄骨アーチの部分に焦点が当てられていました.これらのアーチは複雑なものではなく,通常の橋梁技術で建設できます.

全ての観客席を覆う軽量かつ強靭なポリマー膜の屋根,及び将来にわたって多くの国際的な行事を開く為の,高機能な照明や設備が,このアーチによって支えられています.

アーチ状の屋根は,日本の他の主要なスタジアムと効率は変わりません.逆にアーチ構造にすることによって,観客席と同時に施工することが可能となり,観客席部分によって屋根を支える構造の場合,観客席部分を作った後に屋根を施工する必要があるのに比較して,極めて大切な点である建設工期を短縮することが可能です.

日本の意匠及び技術者の設計チームは,屋根を支えるアーチは費用は230億円(承認された予算の10%未満です)と算出致しました.

SCのレポートにあった見積り金額の上昇の原因は,東京に於ける工事価格の上昇,制限のかかった非競争的な施工者の選定,及び設計チームと施工者が協働することができなかったことにあるのであって,設計そのものにはありません.

新国立競技場のコンペが行われ,東京にオリンピックとパラリンピックが誘致された2012/2013年以来,東京に於ける建設ブームによる建設需要の高まりと労働者不足,急激な円安による輸入建材の価格の高騰,これらが東京の建設価格を劇的に上昇させています.

2013年7月から2015年7月の間に,東京に於ける建設価格は平均して25%上昇し,さらに同様の割合で今後4年間上昇するだろうと予想されています.

設計のプロセスをもう一度やり直すことは,国立競技場のコストアップの原因を何一つ解決することにはならず,寧ろ着工が相当程度遅れることによって,問題はより大きくなるだけです.5年後に迫った東京オリンピックの開会式という動かせない完成時期に向かって,建設費用は上がり続けるのです.

設計と施工の費用の上昇以外にも問題はあります.東京の建設費用の増加や更なる遅延,施工会社により設計プロセスを突貫で行わなければならないことにより,国立競技場の質を下げ,将来的に限定された用途でしか使えなくなる可能性があります.

世界の他の例を見ても,質の低いスタジアムを建造すると,2020年以降も長期に渡って使用するために大幅に投資することが必要となり,その頃にはさらに設計費用は上がっているのです.

一般の方々,政府そして設計チームは,より競争的な選定プロセスや施工会社からの協力的な歩み寄りを通せば,現在政府が提示している予算以内で,2019年のラグビーワールドカップに間に合わせることができる設計のために邁進してきました.

今までも,そしてこれからも,我々の専門知識や今までのJSCとの仕事で蓄積されてきた知識を使って,要求性能を変更して更に低予算の設計をする用意はあります.

正式な承認を受け取った10日後,ZHAは報道によって,承認された国立競技場の設計を続けること,そして2019年ラグビーワールドカップに間に合わせるという公約が白紙に戻ったことを知りました.その後,我々は東京新国立競技場の設計契約の破棄の簡単な通知をJSCから受け取ったのです.

ZHAは,今もなお,2019年のラグビーワールドカップを誘致し,幾世代にも渡って日本におけるスポーツの新しい拠点となるような,多用途で経済的な新国立競技場がよいと考えています.

日本の方々,政府,そして日本及びUKの設計チームは,政府が新国立競技場に対して設定した要綱に見合う設計のために,既に膨大な時間と労力を費やしています.

コストがさらに上昇する,2020年東京オリンピックに間に合わない,又はスタジアムの質が低下するといったリスクを減らすため,首相の見解発表はこれまで詳細に検討されてきた設計を基にして行われるべきですし,これらの専門家集団と一緒に働いていける施工者の必要性という点に絞られるべきです.

我々は首相に対し,現在の設計チームとともにプロジェクトの見直しを手伝うことを申し出る書簡を送りました.

また,ZHAはこれまでに行われた膨大な詳細に到る設計をどのように利用するかが,今後50~100年に渡って日本のみなさんにとって最もよい国立競技場を創り出すのに最も経済的な解決法だと考えています.

これから数週間の間に,国立競技場のために何年もかけて達成された多くの創造的な設計的成果を,日本及び国際的な設計コミュニティーにおいて公開しようと考えております.



share
このエントリーをはてなブックマークに追加