機械彫刻用標準書体をデジタルフォント化しました。

機械彫刻用標準書体とは

機械彫刻用標準書体は、工業的な彫刻によって文字を作製するときの標準として日本工業規格(JIS)に定められた書体です。工業彫刻における技術的制約から、独特な機能美を持っています。

彫刻文字の例1彫刻文字の例1 彫刻文字の例1:アクリル板の表面への彫刻。(マウスオンで接写を表示。)
彫刻文字の例2彫刻文字の例2 彫刻文字の例2:透明アクリル板の裏面への彫刻。(マウスオンで断面接写を表示。)

機械彫刻用標準書体を定めた JIS の規格番号は次の表のとおりです。

常用漢字JIS Z 8903(1984年改正)
カタカナJIS Z 8904(1976年制定)
英数字JIS Z 8905(1976年制定)
ひらがなJIS Z 8906(1977年制定)

彫刻文字は、彫刻機でアクリル板や金属板などを彫り込むことで作製されます。機械彫刻文字は、回転する刃によって軌跡を描くように彫刻されるため、全ての字画が一定の線幅をもち、その先端は半円形になります。一般の書体では、画数の少ない字は太く、画数の多い字は細くすることで、視覚的に均一に見えるようになっていますが、機械彫刻文字ではそれができません。上のページタイトルでも、片仮名が漢字に比べて細く見えると思います。

彫刻可能な形と不可能な形
全ての字画が等線幅で、先端は半円形。(JIS Z 8903 解説から引用。)

機械彫刻用標準書体は手動式彫刻機を前提に設計されているため、以上の制約に加え、原版※1の損傷しにくさや彫刻の作業能率なども考慮され、特有の字形を持っています。すなわち、原版が損傷しにくいよう、線の集中を避け、交わる角度を直角に近づけ、角は曲線とされています。また、刃の上げ下ろし回数を減らして作業能率を向上させるため、筆押さえやハネなどを省き、なるべく線を連続させてあります。

交わる線の密集の状態
交わる線の角度及び線の折り曲げ方
線の集中を避け、交わる角度を直角に近づけ、角は曲線とする。(JIS Z 8903 解説から引用。)
突出部をなくす例
筆押さえやハネなどを省き、なるべく線を連続させる。(JIS Z 8903 解説から引用。)

以上のような技術的制約やそれを考慮した設計のため、機械彫刻用標準書体には独特な機能美を持った書体となっています。

フォント設計

JIS 規格票では、字画の中心線である「原版用書体」が「基準枠」という正方形(英数字においては長方形。)の中に規定されています。彫刻機が原版用書体をなぞってできる仕上がりの形が「標準書体」です。標準書体の線幅「文字の太さ」は、基準枠の高さである「文字の大きさ」の 8% が標準とされています。本フォントにおいてもこの線幅を採用しました。

仮想ボディ、基準枠、文字の太さ等の関係仮想ボディ、基準枠、文字の太さ等の関係 仮想ボディ、基準枠、文字の太さ等の関係。(マウスオンで拡大。)

原版用書体が基準枠いっぱいにデザインされている箇所では、標準書体は基準枠をはみ出します。そのため、基準枠をそのままデジタルフォントの仮想ボディとすることはできません。本フォントでは、基準枠を仮想ボディの9割としました。したがって、仮想ボディに対する字画の線幅は 1000 分の 72 となっています。

簡易字体

漢字を規定した JIS Z 8903 には、通常の常用漢字体を掲げた「附属書1」※2に加え、簡易字体を掲げた「附属書2」があります。附属書2の簡易字体については、「文字の大きさ」が 5 mm 以下で、注文者の指定のない場合に用いるとされています。これらの簡易字体は「現在社会一般に書き文字として慣用されている簡易な字体」とされていますが、21世紀の現代においてはほとんど目しないものもあります。

スタイルセットによる濁音字の切替えスタイルセットによる濁音字の切替え 簡易字体の例。(マウスオンで拡大。)

本フォントでは、OpenType フォントのスタイルセット機能を用い、附属書2の簡易字体にも切り替えられるようにしました。さらに、附属書2に規定されている以外の略字も一部収録しました。スタイルセット01が附属書2の簡易字体、スタイルセット02以降が独自に追加した簡易字体です。

濁点・半濁点

JIS では濁音及び半濁音の仮名(以下、濁音字という。濁点及び半濁点については単に濁点という。)について、本体の字形は清音のものと同一とし、干渉する濁点が基準枠からはみ出すように規定されています。しかし、それを正方形の仮想ボディを持つデジタルフォントに採用すると、濁点が隣の字と接触する、あるいは接触しなくとも隣の字に属する記号に見えるなどの不都合が生じます。

JIS 規格票に規定された濁音字
濁点付きの仮名は清音と同一字形で、干渉する濁点が基準枠をはみ出すように規定されている。(JIS Z 8906 規格票から引用。)

本フォントでは、濁点を正方形の仮想ボディに収めたものを通常の濁音字として収録しました。濁点を仮想ボディに収めたことで干渉するものにおいては、本体の仮名の字形を若干変化させてあります。そして、JIS に規定されたとおりの字形も収録し、OpenType フォントのスタイルセット機能で切り替えられるようにしました。仮想ボディが正方形で濁点がはみ出すタイプをスタイルセット11、仮想ボディの幅を拡大して濁点を収めたタイプをスタイルセット12としました。

スタイルセットによる濁音字の切替えスタイルセットによる濁音字の切替え スタイルセットによる濁音字の切替え。(マウスオンで拡大。)

スタイルセットのまとめ

以上で説明したとおり、本フォントは OpenType フォントのスタイルセット機能により字体の切替えができるようになっています。スタイルセット番号とその内容を次の表に示します。

スタイルセット内容収録字種
01附属書2の簡易字体事器機監電
02独自に追加した簡易字体事電
03
11JIS どおりの濁点・半濁点(仮想ボディ正方形)濁音・半濁音の仮名
12JIS どおりの濁点・半濁点(仮想ボディ拡大)

ダウンロード

本フォントは無償で使用できます。使用条件の詳細は同梱のテキストファイルに記載してあります。

本フォントは現在ベータ版であり、収録字種が限られています。

バージョン0.100
公開日2015年7月27日
フォント名機械彫刻用標準書体 M (日本語環境)
JIS Z 8903 Medium (その他の言語環境)
収録字種半角数字 10グリフ
全角数字 10グリフ
半角英字 54グリフ
全角英字 52グリフ
漢字 548グリフ
ひらがな 134グリフ
カタカナ 142グリフ
約物・記号ほか 9グリフ

テスト入力欄

スタイルセットの切り替えは、Chrome 33 以上、Firefox 4 以上又は Opera 15 以上で動作します。ただし、それらのブラウザであっても、スタイルセット12は正しく表示されないようです。


連絡先

注釈

※1 手動式彫刻機において繰り返し使用する字母。字画の中心線が細く彫り込まれていて、それを彫刻機の針がなぞることで回転刃がその軌跡を描き、被彫刻物に字形が再現されます。JIS 規格では原版の形で書体が規定されています。

※2 JIS 規格票において、個々の字形を掲げているページは「附属書」とされています。