チャンピオンベルトを巻いて凱旋したヒーローの記者会見なら、まだわかる。しかし、世界に挑戦しようとする若者の第一歩となる会見で、地元のメディアから2度も拍手が巻き起こるというのは普通ではない。
武藤嘉紀のマインツ入団会見は、ドイツ人のハートをわしづかみにした。武藤が現地のメディアから熱狂的な支持を受けたのは何故なのか。そして、その背後にはどんな思いがあったのだろうか。
7月9日の13時すぎ、広報部長のトビアス・シュパーバッサーとドイツ語の通訳とともに武藤は会見場に登壇した。数分にわたって無数のシャッターが切られたあと、広報部長のシュパーバッサーがこう切り出した。
「武藤選手がこのような正装でやってきてくれたことを、クラブ一同、とても嬉しく思っています」
彼がそう話したのは、武藤が濃紺のスーツに身を包んで会見場にやってきたからだ。左胸のポケットからは丁寧にアイロンのかけられた白いチーフが顔をのぞかせていた。
メモには頼らず、ドイツ語でスピーチを話しきった。
そして、広報にうながされた武藤は、少し身をかがめてマイクの方によってからドイツ語でこう切り出した。
Hallo, mein Name ist Yoshinori Muto.
Nennen Sie mich bitte Yotschi.
Ich freue mich sehr, dass ich in so einem grossartigen Verein spielen darf.
Ich werde fur “05” alles geben.(05というのはマインツの愛称)
Deutsch ist zwar eine schwierige Sprache, aber ich werde das lernen.
Vielen Dank!
途中、つまった箇所があったが、少し考えてから、大きく息を吸い込んですべてのドイツ語を話しきった。メモなどには一切目を通さずに。武藤はこれだけの量のドイツ語を暗記していたのだ。
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