【書評】世界はシステムで動く(ドネラ・H・メドウズ)

たまにコンビニで買い物をすると、ん?と首をかしげたくなる店員さんに出会うことがあります。

商品の取り扱いが雑だったり、レジ操作を覚えていなかったり、無愛想を通り越していっそ不機嫌な顔をしていたり……。

そういう店員さんに遭遇しても、私はその当人にどうこう思うことはありません。なぜならば、その人でない別の人がそのポジションにいても、結局似たような状況になっている可能性が高いからです。

たいてい本当の問題は、スタッフの教育を担当している店長や、あるいはきちんと人的コストに投資しようとしないオーナーにこそあるのです。

もっと言えば、そういう店長を雇うしかない状況、十分に人的コストを捻出できない環境に原因があるのかもしれません。引いては、オーナーが搾取されまくっているコンビニ業界という構造に……とより大きな問題に踏む込むこともできそうです。

この思考スタイルでは、「出来事」ではなく「構造」に注目しています。つまりは、「システム思考」です。

世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方 ドネラ・H・メドウズ Donella H. Meadows 小田理一郎

英治出版 2015-01-24
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お風呂で考える

「システム思考」とは何でしょうか。専門的な定義はあるのでしょうが、本書の一文は端的にそのイメージを伝えてくれています。

つまり、システム思考家は、世の中を「フィードバック・プロセス」の集合体として見ているのです。

お風呂を想像してみてください。蛇口があり、バスタブがあり、排水栓があります。もしこの排水栓が壊れていて、常に一定量水が流れていってしまう状態で、バスタブのちょうど真ん中ぐらいの水位を保ちたければどうするでしょうか。

まずはうんと蛇口をひねり、盛大に水を流します。排水される量よりも多くの水を流し込めばバスタブの水位は徐々に上がっていくでしょう。そうして、真ん中まできたら蛇口を少しだけ締めます。あまりきつく締めると排水量よりも下回ってしまいますので注意が必要ですが、排水量を計算する必要はありません。水位をじっと見つめながら蛇口を開けたり閉めたりして調整していけばよいのです。

こうした一連の行為にはフィードバックが働いています。ストック(バスタブの水位)に応じてインフロー(蛇口からの水)が変化しているのです。そして、これが__最も単純な形であるにせよ__システムというものです。

変化に適応できないコンビニ

たとえば、人通りが多い駅前のコンビニがあったとしましょう。他に売店が一切なければ、そのコンビニにはお客さんが流れ込んできます。たとえ程度の低い接客をしていてもそうなのです。これは、接客の良し悪しと売り上げの関係にフィードバックが働いていない、ということになります。

もしその近くに別のコンビニができたらどうでしょうか。そして、利用するお客さんが「ちょっとでも愛想の良いお店を利用しよう」と考えていたら__ちなみに、それぞれのお客さんも個別のシステムであり、何かしらのフィードバックに晒されています__、どうなるでしょうか。

新しくできたお店がレベルの高い接客を提供するならば、もともとあったお店は徐々に客数を減らしていくでしょう。きっと、そのお店のオーナーさんは首をかしげるかもしれません。「うちのお店の方が品揃えは良いのに、なぜなんだ」と。

これまではお店が一軒しかなかったので、品物がたっぷりあれば売り上げもあがり、少なければ売り上げが下がるという構造だったのですが、新しいお店の登場はそのフィードバック・プロセスに変化を与えてしまいました。

もしその変化に気がつかなければ、いずれお店は閉店への道のりを歩むことになるでしょう。最後の最後まで品揃えにこだわり、その代わりに接客レベルが低位のままというお店を続けながら。

さいごに

世の中は、バスタブよりも複雑なシステムが大量に存在し、しかもそれらがつながって稼働している。そんな風に考えるのが「システム思考」であり「システム思考家」です。

本書では、「システムとは何か」という基本的な要素から、いくつかのシステムのパターン、それにシステムへのレバレッジ・ポイントが解説されています。基本的な話ではありますが、実務的な話でもあります。

多くの場合、「成果」はアウトフローによってもたらされます。つまり、「成果」だけに注目してしまうとシステムの全体像を見失ってしまうのです。インフローやストック、そしてそのつながりかたや機能(水位を真ん中に保ちなさい)を見据えないことには、適切な理解へとはたどり着けません。

ここでいう「適切な理解」とは、どこにどんな変化を与えれば、どのような影響が出るのか、というファンクション的な理解のことです。単に世の中を知るだけなら、どのような理解であっても構わないのですが、もしシステムの挙動を変えたいと願うならば、その実際を掴まえておくことは必須と言えるでしょう。

最後に蛇足ではありますが、2015年の上半期で何か一冊をすすめるならば、たぶん本書になりそうです。

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ジャックポットのタイムラグ

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