Aさんの長兄は2004年、連続殺人犯の柳永哲(ユ・ヨンチョル)死刑囚によって殺害された。後に調べたところ、兄は刃物で60回もメッタ刺しにされ、頭部はつぶれ、両手は切断されていた。Aさんの家族は事件のショックでずたずたになった。2番目の兄と末弟は相次いで自殺した。Aさんもまた、うつ病の治療を受けるため病院に行く以外、世間と関わることもなく自宅に引きこもっている。20人を殺害した柳死刑囚は05年、死刑判決が確定したが、いまだ刑務所で過ごしている。
Aさんはマスメディアとのインタビューで絶叫した。「私の家族はこうやって皆死んでいくのに、柳永哲は死刑を執行されず、国民の税金で食べさせている。こんな不条理があるか」。2007年には小学生のイ・ヘジンさんとウ・イェスルさんはチョン・ソンヒョン死刑囚に連れ去られ惨殺された。ヘジンさんの父親は悲しみと怒りに耐え切れず、酒浸りの生活を送るようになり、結局、昨年に自宅で死んでいるのが見つかった。一方、チョン死刑囚も死刑判決を受けながら刑務所で生き長らえている。
ヘジンさんの母親は「あの事件さえなかったら、私たちの家族はつつましく暮らしていたのに、犯人を許すことなどできるか。夫も子どもも死んだのに、あいつは生きているだなんて」と涙ながらに語った。韓国では金泳三(キム・ヨンサム)政権末期の1997年12月30日、23人の死刑囚に死刑を執行した後、1件も執行がない状態が続いている。死刑制度が反人権的だという人権団体の声が高まる中、歴代政権は死刑の執行をためらった。その間、死刑判決が確定した死刑囚は増え続け、現在57人に達している。
日本では今月25日、会社員の女性を殺害した犯人3人のうち、主犯格の44歳の男に対する死刑が執行された。この男は2009年に死刑が確定したが、これまで執行されていなかった。これまで日本の司法当局では、複数の人を殺害した犯人だけに死刑を適用するのが暗黙の了解になっていた。それにもかかわらず、今回死刑を執行された男が死刑台に上ったのは、被害者の母親の訴えが功を奏した。母親は「法がなぜ加害者を保護するのか。被害者の視点に立ってさばいてほしい」と主張し、死刑適用を求める署名運動を繰り広げた。33万人もの署名が集まったことで、当局もこれを軽視することはできなかった。
死刑制度に反対する理由は数多く挙げられている。誤判によって無実の人が死刑になり、新たな犠牲者となりかねない上、犯罪を予防する効果も立証されていないという。罪を償って真人間に生まれ変わる機会を奪っているという指摘、終身刑に代えても十分だという主張もある。どれも一理ある主張だ。だが、被害者の遺族のつらい心情にどう向き合っていくかというのは、そう簡単な問題ではない。死刑制度の背景にある根本的な考えは「目には目を、歯には歯を」という報復感情だ。人間社会からこのような感情がなくならない限り、死刑制度は永久に論議を呼び続けることになるだろう。