いつもは体でエネルギーを作っている「ミトコンドリア」が、卵を作り出すために働いていると新たに判明している。
「おおもと」となる幹細胞
米国NYUランゴーン・メディカルセンターのルース・レーマン氏らの研究グループが、有力生物学誌ネイチャー・セル・バイオロジー誌で2015年4月27日に報告している。
幹細胞は、分裂して自分を増やす能力と、別の種類の細胞に変化する能力をもつ細胞である。これからどのような細胞にもなり得る、いわば「素材」の状態だ。iPS細胞や、ES細胞などは、人工的に作り出された幹細胞である。
成長の過程で、この幹細胞から機能を持つ細胞へ変化することを「分化」と呼ぶ。
卵を作るプロセスで意外な役割
幹細胞からの分化は、厳密にコントロールされていて、決まった時に決まった場所で分化するようにプログラムされている。どの細胞がいつ、どのくらい作り出されるかは生物の体を作り保つ上で非常に重要となる。メカニズムの大部分は分かっていない。
今回、基礎研究で世界的に使われているキイロショウジョウバエの研究から、この幹細胞から卵細胞を生み出すプロセスで、意外にもミトコンドリアが関係すると分かった。細胞の中で働く細胞小器官だ。
ミトコンドリアは、活動のために必須のエネルギーであるアデノシン三リン酸塩(ATP)を作り出す、細胞のエネルギー生産工場として重要な機能を持つ。しかし、それ以外の機能を持つとは知られていなかった。
いつもはエネルギーを作り出しているが
研究グループはキイロショウジョウバエの生殖細胞の成長に関連し、幹細胞を卵細胞へと運命づける可能性のある8000以上の遺伝子を調べた。
その結果、重要な遺伝子として、ミトコンドリアで働くATP合成酵素の遺伝子を発見した。この働きを止めると、幹細胞から卵細胞への成長が止まってしまうと分かった。
それならば幹細胞から卵細胞への分化には新たなATPの生産が必要なのかと考えられた。ATP生産を行うのに必要だと知られる他の酵素を止めても幹細胞から卵細胞への成長には何のダメージも与えなかった。ほかの仕組みが関わると見られる。
13のタンパク質も発見
ATP合成酵素は、「ATPを作る」という、知られていた以外の機能を持っていたということになる。研究グループは、幹細胞から分裂する細胞の中で、ミトコンドリアの「クリステ」と呼ばれる内膜を作っていると想定している。
さらに研究グループは、このATP合成酵素がブロックされたときに卵細胞への分化が停止した現象と結びつく、13の重要なタンパク質を新たに発見した。
ミトコンドリアのATP合成酵素やエネルギーの生産は、多くの生物で共通のシステムである。この初期のミトコンドリアの発生における役割は、人を含めて共通であると考えられる。
生殖医療に新しい診断や治療の手掛かりをもたらすかもしれない。
文献情報
More Power to the Mitochondria: Cells’ Energy Plant Also Plays Key Role in Stem Cell Development.
http://nyulangone.org/press-releases/more-power-to-the-mitochondria-cells-energy-plant-also-plays-key-role-in-stem-cell-development
Teixeira FK et al. ATP synthase promotes germ cell differentiation independent of oxidative phosphorylation.Nat Cell Biol. 2015 May;17(5):689-96. Epub 2015 Apr 27.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25915123
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