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あざなえるなわのごとし

ネット事件から妄想まで雑食


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EDO SIGUSA ~江戸っ子狩り~(仮)

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ごうごうと燃え盛る家。

その傍、黒い傘を被り抜き身の刀を構えた大きな体躯の男と、こちらも同様の刀を持ったまだ幼さの残る少年が相対している。
パチパチと木のはぜる音。
強烈な熱気が二人をあぶるが、微動だにしない。
張り詰めた空気がその場を支配している。



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男が口を歪める。嗤ったらしかった。
「きさまら江戸っ子は一人も逃すなとの命令だ」
少年は少し眉間にシワを浮かべ
「ふざけるな!オレたちが何をしたってんだ?!」

家がひときわ大きく崩れおちる。梁か何かが燃え崩れたらしい。
火の粉が大きく闇夜に舞う。
「お兄ちゃん!」
その様子を横で見ている少女が叫んだ。
「離れてろ!」
男から目を離さず少年が言う。
こめかみを汗が伝う。
少しでも目を離せば男の手に持つ刃が襲いかかってくるのがわかる。
気の圧力に押され男の巨躯がさらに大きく見える。
「くっ……べらんめぇ」
少年は下唇を噛んだ。

「じゃっ!!!!!」
次の瞬間、男が一気に踏み込んだ。
黒い影と化し二人の間を一瞬で詰め、間合いに入る。
振りかぶった刃がごうっと風を巻き込み、全体重を乗せた一撃がすさまじい勢いで少年の脳天目がけ振り下ろされる。
少年は、咄嗟に手にした刀で男の一撃を受けた……技術ではなく僥倖でしかなかったが。
それほどに二人の技量差は歴然であった。

ぎいんっ!と音を立て刃を受け止めるが、体重の乗った男の一撃は少年の腕だけで止めるには重すぎた。
じりじりと刃が迫る。
「ぐうっ」
「ふふ、無駄なあがきを……」
男が大きく嗤った、

が、次の瞬間表情を歪めその口から血を吐き出す男。
「な、なんだと?!」
見ると先ほど斬り殺したはずの兄妹の母が、燃え盛る柱を男の背中に突き立てている。
深々と刺さった柱の先は男の背から腹へと抜けている。
母の腕は炎に焼けるが構わずに押しこむ。
「逃げてっ!!」

「この死にぞこないがぁっ!!」
男は、一刀を真横に振るい母親の首を刎ねた。
刃にかかる瞬間、母の笑顔が少年の目に映る。

飛び、転がる母親の首。
それを見てひきつる少女。

「あああああああああっ!!!!」
少年は男の猪首から胸までを一気に袈裟懸けに斬りおろした。
しかし男の刀もまた少年の胸を貫く。

「お兄ちゃん!!!!」
「……いくんだ……お前だけでも……江戸しぐさを……残さなきゃ」
「兄ちゃん……」
少女の腕の中で息絶える少年。

江戸の空は赤々と燃えていた。


「……そして、少女は生き残ったの」
揺り椅子に腰かけた老婆。
その前には、少年と少女がいる。

「それでそれで?そのあとその女の子はどうなったの?」
少女が老婆に聞く。老婆は優しく微笑み
「その女の子が生き残ったから江戸しぐさは今も伝わってるのよ」
「そっか―、すごいんだね江戸しぐさは」


※「EDO SIGUSA ~江戸っ子狩り~(仮)」最終話より

江戸開城の時、「江戸講」のネットワークを恐れた新政府軍が江戸しぐさの伝承を失わせ、江戸しぐさの伝承者である江戸っ子たちを虐殺した。
その虐殺たるや凄まじいもので、ソンミ村虐殺、ウンデット・ニーの虐殺に匹敵するほどの血が流れたと越川禮子は述べている。
また、この時に江戸商人は江戸しぐさについて書かれた古文書も全て焼却し、江戸の空を焦がしたという。勝海舟は生き残った江戸っ子数万を両国から武蔵、上総などに逃がし、彼らは「隠れ江戸っ子」として潜伏した。池田整治は、江戸しぐさ伝承者は、老若男女にかかわらず、わかった時点で新政府軍の武士たちに斬り殺され、維新以降もこの殺戮は続いたと述べている。

江戸しぐさ - Wikipedia


江戸しぐさの胡散臭さもすごいが「江戸っ子狩り」の偽史感もハンパない。

togetter.com

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江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統 (星海社新書)