「38年も苦労を重ねたおかげでうれしいことも多かったが、このように突然会うことができなくなり胸が張り裂けんばかりだ。お前の願い通り今後も子供や孫たちと共に生きていこうと思う。やっと余裕ができたと思った時に逝かねばならなくなったことは非常に心残りだ。この世での心配ごとは全て忘れて、天国で幸せに暮らし私たちを見守ってほしい」とまで読んだところで看護師が泣き出したため、次の看護師がこれを引き継ぎ「貧しい家に嫁に来て、家を支え、幼い子供たちを立派に育て、できの悪い夫を会社の重役にまで育て上げ、老後の準備もしっかりとやってきたのに」というところまで読んだ。
次は息子の手紙だ。「顔も見られないことがこれほどつらいとは思いませんでした。世の中が恨めしくなるときもありますが、全てを受け入れてお母さんが今この瞬間も安らかにいてくれることだけを願います」。次は娘だ。「お母さんの娘に生まれて幸せでした。子供たちもお母さんが私に注いでくれた愛情で育てていきます。次に生まれ変わるときも、お母さんの娘として生まれてきたいです」とまで読んだ時に看護士はついに泣き出した。それから5時間後、女性は安らかな表情で息を引き取ったという。その安らかな様子は、手紙を通じてではあるが夫に見送られ、また子供たちが寄り添ってくれたからだろう。全てを混乱に陥れたMERSだが、家族の愛情だけは破壊できなかった。悲しい現実だが、そこに見え隠れした家族の絆は非常に美しく高貴なものだった。