宮崎駿のオリジナリティは、“不完全な再現”から生まれている

今回も、川上量生さんに新刊の『コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと』についてうかがっていきます。本書には、「天才は安物のシミュレーター」「オリジナリティとは偶然でしか生まれない」など、刺激的なフレーズがたくさん出てきます。それについて、川上さんに解説してもらいました。本には収録されていない、最近聞いた宮崎駿さんのエピソードも。

まだこの世にないものについて、良し悪しがわかるのが天才

— 『コンテンツの秘密』に書かれている天才の定義。これが、いままでに一度も聞いたことがないようなもので、びっくりしました。

川上量生(以下、川上) 天才は、脳内でどういうものが実際に出来上がるかシミュレーションできる人、という定義ですよね。PDCAサイクル(※)を、脳内で回せる人が天才なんです。

※ 「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の4つのステップを繰り返しおこなうこと

— 脳内で、というところがポイントなんですね。

川上 現物があったら、素人でもいい悪いは言えますからね。だって、観た映画がおもしろいか、おもしろくないかは、一般の消費者でも言えるでしょう。でも、アニメーション制作の現場で、映画1本つくって、いい悪いを判断して、またつくり直して、を繰り返すなんてことはできません。だから、まだ現実には存在しないものを脳内で想像して判断できる、宮崎駿のような天才が必要なんです。

— 「天才がいると安く上がる」って書かれてましたよね(笑)。

川上 そうです(笑)。アメリカの映画製作会社では、コンテンツをつくるときに、プロトタイプを全部つくってしまって、一流のクリエイターがそれについていい悪いを言い合って、修正し、どんどん改良していくということをしています。本当は、それが一番精度の高いものづくりができると思います。現物を見てPDCAサイクルを回すのは簡単だから。でもそんなこと、貧乏な日本じゃ不可能です。天才は脳内でシミュレーションするから、実際につくってみるより精度は落ちるけど安い。日本は天才に頼るしかない。

— だから、「天才は安物のシミュレーター」と……。

川上 いやあ、この説は宮崎吾朗さんが言い出したんですよね。こんな発想ができる吾朗さんもやっぱりただものじゃないですよ(笑)。たぶん、世間から天才だと呼ばれる父親を持っていて、天才とはなにかということをずっと小さい頃から考えていたんだと思います。

— 話し合ってつくる、ということで言うと、僕も最近、数人の編集者と組んでひとつの作品を編集するということをやっているんです。そうすると、だいたいみんな、いいと思うところと、直した方がいいと思うところが、一致しているんですよ。

川上 そう、判断は誰でもできます。現物があればね。

— で、意見を言い合うと、やっぱりより良いものができるんですよね。ぼくはこれまで、編集は1人でやったほうがいいと思ってたんですけど、意外と複数人で話し合ってコンテンツをつくっていくのはいいなと思いました。

川上 本当にPDCAサイクルを回せるんだったら、相談してつくったほうがいいと思います。でも、あんまりそういうことってないんですよね。お互いどういうものが完成するのかを頭の中の想像が違う人同士が議論しても不毛です。加藤さんだって、ちゃんと知識のある編集者同士でやってるわけでしょ?

— たしかにそうです。

川上 素人が集まって話し合っても、いいものはできないと思います。例えばウェブサービスでも、UIがいい悪いって、素人でも判断できるんです。でも、そのUIが悪い理由って、技術的な制約だったりしますよね。それをどうするかって、やっぱり知識がないと想像できない。Cの「評価」はできてもAの「改善」にたどり着かないんです。

宮崎駿が、ロケハンで写真を撮らない理由

— さらに、この本の「オリジナリティとはなにか」という結論もまた、すごいですよね。

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