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株高に沸く証券界、本当に死角はないのか

東洋経済オンライン 6月15日(月)6時0分配信

 5月下旬から6月初めにかけて、日経平均株価は12営業日連続で上昇した。株価が12連騰したのはバブル期真っ只中の1988年に13連騰を記録して以来のことである。

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 アベノミクスがスタートして2年半が経過した。当初8000円前後で推移していた日経平均株価はぐんぐん値を上げ今や2万円台が定着し、時価総額も初めて600兆円の大台を超えた。東京証券取引所によると、1日平均売買代金は今年に入り、2月から3カ月連続で3兆円を超えている。株式に関しては、株価の水準や売買高、売買代金とも活況を呈しているといっていいだろう。

■ 12連騰でも上昇率は4.2%と最低

 株価が12連騰したのは過去に5回しかないという大記録だ。しかし、「株価の上昇率は4.2%と過去最低。だからこそ、極端な過熱感がなく、上昇相場が長続きしている」(SBI証券)という冷静な分析もみられる。いわば、“静かなる熱狂”が今回の上昇相場の特徴と言えるのかもしれない。

 株高も一因となって証券各社の業績は好調だ。日本銀行による量的・質的緩和(2013年4月スタート)をはやし、月間の売買高が1000億株を超えたのが2013年5月のこと。その時期を含み、アベノミクス相場を存分に謳歌した2014年3月期ほどではないが、2015年3月期も証券各社は高水準の利益を計上している。

 大手・銀行系5社(野村、大和、SMBC日興、みずほ、三菱UFJ証券ホールディングス)のうち、野村、日興、みずほの3社が前期比で増収増益。残る大和と三菱UFJの2社は最終減益だが、たとえば大和はリーマンショック直前の2006年3月期を上回る純利益を計上し、業績はけっして悪くない。

 だが、目を凝らしてみると、証券界を取り巻くリスクの存在に気付く。

 一つは、マーケット急変動のリスクだ。野村ホールディングスのグローバル・マーケッツ・ヘッド、スティーブン・アシュレー氏は5月に開催された投資家向け説明会後の記者会見で「昨年10月に米国債市場が大きく荒れたような事象はより頻繁になってくる」と警戒感を示した。

 2010年5月に起きた、数分間で株価が急に暴落する「フラッシュ・クラッシュ」が一例だ。昨年1年間だけでも、エマージング市場の急落(1〜2月)や昨年10月の米国債急落など、市場がまったく想定していないマーケットの急な変化が起きている。

■ 中国やギリシャ、米利上げなどにリスク

 市場関係者が今年のリスクとして挙げる筆頭は、中国経済の変調である。ギリシャ債務問題は債務償還期限である6月末までほとんど時間が残されていないというのにいまだ交渉決着の出口が見えない。そして、今年後半とされる米国・連邦準備制度理事会による利上げをきっかけに、グローバルなマネーフローが急変しかねない。この先、投資家のセンチメントが急変する材料には事欠かない。

 一方、国内の足元でも不祥事の芽を抱えている。一例が2014年12月に新規上場したスマホゲーム会社「gumi」をめぐる騒動だ。同社は上場からわずか2カ月半で業績予想を赤字に下方修正。その後、逆に業績予想を上方修正した。業績予想の修正は珍しくないとはいえ、証券会社を見る目は格段に厳しくなっている。バブル末期に損失補てん問題が発覚したように、過去何度も不祥事の大波が証券界を襲っている。

 業界最大手の野村ホールディングスでは総会屋への損失補てん事件や増資インサイダー事件のほか、ニューヨークにおける巨額損失計上など、トップ辞任を含む経営の根幹を揺るがす大事件が周期的に起きている。

 最後に構造的な問題に触れるとすれば、官民一体となって旗を振る「貯蓄から投資へ」の流れが一向に起きていないことが問題だろう。1600兆円を超える個人金融資産の大半、865兆円もの資金が依然として預貯金という形で眠り続ける。投資信託協会によると、今年5月末の投資信託の純資産総額は102兆4574億円と初めて100兆円を超えた。

 証券各社トップは異口同音に「デフレ下では証券大衆化は起きないが、デフレを脱却すれば(証券界にとって)またとないチャンスだ」(大和証券グループ本社の日比野隆司社長)などと、デフレ脱却への強い期待を口にしている。

 たしかに、デフレ下では現預金が一番合理的な資産運用方法だが、インフレ経済ではそうはいかない。現預金に眠らせておけば、貨幣価値(購買力)が目減りするため、株式をはじめとした、よりリスクのある金融資産に運用対象を移す必要がある。証券各社が息の長い成長を確実なものにするには、「貯蓄から投資へ」の流れが本格的に起きることが必要条件となる。

 「山高ければ、谷深し」。これは、野村証券のホームページでも「株式相場の世界の格言」として紹介される格言である。市場の活況と好業績の陰に、次なる危機の芽はひそんでないのか。

山田 徹也

最終更新:6月15日(月)11時55分

東洋経済オンライン

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