2015.06.10 22:03
ものづくりの「民主化」が進み、個人でロボットをつくることができる時代が到来した。そんな背景を前提にして、新しい発想でロボットやテクノロジーに向き合う若いクリエイタ-達が登場している。その代表格が「きゅんくん」と「近藤那央」。20歳/19歳の現役の学生である彼女たちのポップな感性に「SENSORS」は注目!個人的にも交流があるこの2ショットの対談を設定してみた。そして、その感性のあり方に深く突っ込んでみたところ、意外な違いも明らかになってきて...。
SENSORS.jpの新コーナー「SESORS CAFÉ」。テクノロジー×エンターテイメントの次世代を担う若者達とのカジュアルな対談を通じて、新しい感覚や価値観を紹介していく。第1弾のSENSORS CAFEはきゅんくんと近藤那央さん。まずは二人のプロフィールを簡単にご紹介。
きゅんくん:
ロボティクスファッションクリエイター。機械工学を学びながらファッションとして着用するロボットを制作。金属加工、電子工作、洋裁など全て自身で手がける。TOKYO DESIGNERS WEEK 2014企画展「スーパーロボット展」やSXSW2015などで作品を発表。1994年生まれ20歳。
近藤那央(こんどう なお):
本物そっくりのペンギンロボット「もるペン!」の開発を行うTRYBOTS代表。生物の動きを緻密に再現する事を目的に日々活動。個性的な女の子を発掘するアイドルオーディション「ミスiD2015」にて応募者約4000人の中からミスiD2015を受賞。高校では機械科を卒業し、現在は慶應義塾大学環境情報学部在学中。1995年生まれ19歳。
新しい「ロボット観」を持つ二人をSENSORSクリエイティブディレクター、ガンダム世代の海野大輔(41)が伺う。
DMM.make AKIBAにて。きゅんくん(左)と近藤那央さん(右)。
「ロボティクスファッション」というコンセプトでロボットとファッションを融合させる取り組みで注目を浴びるきゅんくんと、水中を泳ぐペンギン型ロボット「もるぺん!」の開発チーム「TRYBOTS」をリードする近藤那央さん。
齢が近い、高校生からロボット開発をしてきた、幼少のころから芸術に触れる機会が多かったなどなど、一見すると共通する部分が目立つ二人が出会うのは必然だったのかもしれない。今ではLINEでも定期的に連絡を取り合う仲だそうだ。番組「SENSORS」でもレポーターとして共演のお願いをしたこともあった。そんな二人だが...。
「私たちって考え方とかお互いに全然違うんですよ!」
彼女たちはこう口を揃える。お互いのことをどのように違うと捉えているのか伺っていくと、同じロボット開発者であるはず二人の対極とも言える"感性"が浮き彫りになった。
お互いの違いをはっきりと語る2人
世の中で広く使われる機能な「プロダクト」がつくりたい近藤さん。人工物ならではのメカメカしい「ファッション」がつくりたいきゅんくん。実用性と芸術性。2人のものづくりの嗜好の大きな違いだ。その一方で、自分のつくったもので世の中を驚かせたいという思いについては共通していた。
人生の大きな転機になったという高校受験を語る近藤さん
近藤さんがロボットに目覚めたのは、「面白そう」という理由で受験・入学した技術系高校での卒業制作がきっかけだった。仲の良かった同級生とつくりたいロボットのビジョンが似ていることがきっかけで、チームで「ペンギン」の泳ぎを再現するロボットを制作開始。近藤さんの呼びかけで集まったメンバーを中心に現在もチーム「TRYBOTS」として開発改良を進めているのだ。
彼女は「ペンギン」に着目した背景を次のように語っている。
ペンギンの性能に心惹かれて、それを自分自身でつくりたくなってしまったという。さらにルーツを伺っていくと「動物が人間の心動かす現象」への関心がとても強いようだ。
彼女は動物が人間の心を動かす要素をロボットに応用することで、人間の「パートナー」となるようなロボットをつくりたいとも意気込む。
この日も遅くまで活動しているきゅんくん
一方、きゅんくんにロボットに興味を持ったきっかけを尋ねると、家族の影響で鉄腕アトムをはじめと手塚治作品に幼少から親しんでいたという。小学校の卒業文集では「大学の機械工学科でロボット開発をすること」を将来の夢としていた。「この道を志すきっかけを意識したことはとくに無い」と言い切るほど小さい頃からロボット開発者としての道を初志貫徹している。中学では演劇部、高校では被服部に所属。その時からファッションとロボットを融合させる取り組みを開始していた。
さらにロボットに対する考え方を伺っていくと、きゅんくんにとってのロボットは突き放された存在。彼女がファッションとして身にまとうロボット(Metcalf)のメカメカしい外見からも、人間とは独立した存在であることを良しとする気概が伺える。
彼女たちのアプローチはある意味で確かに正反対だ。しかし「感情」というファクターを軸にしていることは共通している。ユーザーの感情を震わせるデザインを模索する近藤那央さん。一方、ロボットと人間の関係を突き放して捉えるきゅんくんには、それ以前に「片思い」と彼女自身が表現する大きな感情の熱量が存在している。ただひたすらに機能へ奉仕する機械というロボット観ではなく、「感情」を巡る人間とロボットの関係が彼女たちの関心の中心ということが、はっきりとわかった。
きゅんくんのロボティクスファッション「Metcalf」に挑む近藤さん
その端麗な容姿から、近藤さんは「ミスiD2015」を受賞。きゅんくんは美少女クリエイターとして各メディアから浴びている。しかし、当の本人達は自分たちを「アイドル」と呼ばれることに抵抗があるようだ。
近藤さんは創作活動のPRとして、きゅんくんは創作活動の必要から出発して、それぞれが独立した「アイコン」として世間に認知されるに至った。それが本人の望むところかどうかは別にして。しかし、結果的に「アイコン」としての役割を担い切ってしまうセンスも新世代特有の感性と言えるだろう。
「ロボット」という言葉から夢想するイメージ...力強く高機能なメカを人間が操作する...そんなSFアニメのような従来の「ロボット」観に、自分は縛られていたのではないか?近藤那央さん、きゅんくんのインタビューを通じて、聞き手としての自分が固定観念に縛られていたのではないか?そんなことを感じた。彼女たちは、そんな古いイメージを軽やかに回避して、最初から別の場所に立って「ロボット」を眺めている。
彼女たちがつくるロボットは実にポップであって、どこか身近な感覚を与えてくれる。動物が人間の心を動かす要素をロボットに応用する、ロボットそのものをファッションにして身にまとう。こうした自由な発想ができるのは、若い二人ならでは。従来の世代が夢想にとどまっていたのに対し、彼女たちは、テクノロジーの恩恵を前提に、自分たちの手で実際にロボットを作っている。ロボットと同居する生活/日常をその指先の感覚ですでに探り当てているのだ。これが彼女たちを自由にしていると感じた。そして、その自由が従来の「ロボット」像を打ち壊していく。実に痛快なことではないだろうか。
最後に彼女たちにこんな質問をした。「10年後に何をしていたいですか?」すると、二人は声をそろえてこのように答えてくれた。
「ロボットを作り続けていたいです!」
日本テレビインターネット事業部(SENSORS)クリエイティブディレクター。ガンダム世代の1973年生まれ41歳。下北沢在住でサブカルチャーと音楽をこよなく愛する。「ズームイン!!SUPER」や「心ゆさぶれ!先輩ROCK YOU」などの番組制作に携わる。
ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、EIR(=客員起業家)として複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。Webデベロッパー。@takerou_ishi