新しい事業はできる限り小さく始めると上手に失敗できる


by 川鍋一朗 (経営者)


起業するときには、最初から大きく投資するより、小さく始めて、早めに事業の鍵を見つけておくことが大事です。

私は大学卒業後、ケロッグMBA、マッキンゼーを経て、2000年に家業である日本交通に入社しました。親から好きなようにやれと言われていたこともあり、今まで2社の社内ベンチャーを立ち上げました。1社目は最初から大きく投資してしまったため、大きく損失を出してしまったのですが、2社目は最小限の失敗に抑えることができました。

1社目の失敗


1社目は、2000年7月7日に「日交マイクル」というタクシー事業の子会社の立ち上げです。

コンサルタントをしていた経験から、「タクシー事業を始めるならある程度大きく始めないといけない、じゃあ車は50台ぐらいで50人雇おう」という発想で始めたのですが、結果は、毎月2000万円以上の赤字が出て、1年間で2億数千万円の累損になりました。

正確にいうと、1社目の事業は「タクシー事業」というよりも「ハイヤー事業」だったのです。ハイヤー事業がタクシー事業と違うところは、営業してもすぐにお客様がつくようなものではなく、営業後しばらく時間が経ってからご利用につながっていくものという点でした。それにもかかわらず、いきなり車を50台用意するところから始めてしまったことで、バーンレートを上げてしまいました。

ハイヤー事業は、営業しても利用までに時間がかかるのに、50台分の費用がかかり続ける状態を最初に作ってしまったのです。たとえば、その車を止めておく駐車場の代金も50台分が最初から費用としてかかり続けてしまった。それに気づいても、車を用意してしまっているので、簡単にはその費用を縮小できなくなってしまいました。結果としてこの事業は、単月黒字化になるのに3年ぐらいかかってしまったのです。

タクシーのような事業では、伸び方はインターネット事業のように急激に拡大するというものではありません。また、最初に面をとった人が勝つという世界でもないので、最初に投資をしすぎて費用をかけすぎてしまうのではなく、一台一台の採算性を合わせて、事業を拡大することが重要だったのです。

このように、1社目では最初から大きく投資をしてしまったため、4億5000万円の損失を出してしまいました。その後、3年かかってなんとか単月黒字化しましたが、4年目には労働組合の反対もあって本体に吸収しました。結局、最初の社内ベンチャーは4億5000万円を失ってあえなく終了です。

2社目の失敗


その後、2011年には、2つ目の社内ベンチャーとして、「フィットネスデイ 暖(だん)」という、デイサービスの介護事業を始めました。結果的に介護事業はちょうど1年で閉じたのですが、小さく始めたおかげで、損失は少なく失敗できました。

この介護事業は、1社目の反省を生かし、小さな枠組みで始めました。1社目の失敗が大きくトラウマになっており、次は絶対に小さくやるぞと、思っていたのです。まず最初は、常駐スタッフが3〜4人、お客様が10人ぐらいでいっぱいになる程度のキャパシティの小さな施設を用意するところから始めました。

この施設のコンセプトは、ご来所した方が各人の体力に応じた運動をして健康になろう、というものでした。つまり、「介護保険が使えるフィットネスジム」というイメージです。おばあちゃんと折り紙をおって歌を唄って、などではないところが、よくある介護施設のイメージと違う点でした。

この施設を始めてみて気づいたのは、介護事業が成功する鍵は、「介護における意思決定者が女性」という点です。要介護認定を受けて介護を受ける人が7:3の割合で女性が多いこともありますが、男性はプライドが邪魔をして「オレは介護認定なんて受けねぇ」みたいな人が結構多いのです。つまり、介護施設に通う人も女性のほうが多い。そして、男性が通う場合でも、「どの施設へ行こうか」と検討するときには、本人ではなくて、奥様や娘さんが施設を見に来られます。さらに、どの施設を見に行ったほうがいいかを教えてくれるケアマネージャーの方たちも、99%が女性なのです。

つまり介護事業の世界は、女性の意思決定で成り立っているのです。私たちは、そこにストイックに運動をやりましょうみたいな男性の目線を持ち込んでしまいました。一部の方には「こういう施設を待っていた!」と喜んでいただけましたが、すごくニッチだったのです。介護事業では男性目線ではなく、「施設が間接照明でオシャレ」とか、「緑がある」とか、「水が無料で飲める」とか、そのように女性の関心が高そうな視点が大事だったのです。

その視点が完全に抜けていて、男性目線でやってしまったのです。それを修正するときには当然、施設ごと変えなければならなくて、もし施設ごと変えるとしたらさらに5,000万円ぐらい投資しないといけないと分かり、そこで事業をやめました。

1社目と同じく事業は失敗したのですが、前回と比べて上手な失敗ではなかったかと自分では思っています。結果的には2,500万円程度と最小限の損失で済みました。

小さく始めないといけない理由


なぜ小さく始めないといけないのかというと、起業をする人は、見栄も体裁も関係なく生き延びる必要があるからです。会社が潰れたら元も子もありません。なので最初は、生き残ることだけにすべてを集中して、できるだけ早くその事業の勝ちパターンを見つけることが重要です。勝ちパターンを見つけてから、その勝ちパターンに従ってお金を使えばいいわけです。

VCからお金を集めたとか、お金があるからとかの理由だけで大きな投資をしないほうがいい。現実は、やる前に考えていたことと絶対に違います。

事業は、最低でも2回くらい軌道修正できる小さな規模から始めるというのは、自分が立ち上げてみて強く思ったことです。最初から大きくやってしまうと、軌道修正が大変になってしまいます。まだスタートしたばかりのころ、事業がどうなるかわからない状態で「こういう方向でいく」と大きめの資金調達をしたり、社内のリソースを大きく割いてしまうと、軌道修正できずに、失敗に終わることになりがちです。

また事業には、時間がすべてを解決するという面もあります。いきなり最初から大きくお金やリソースをかけたからといって、成功するわけではありません。

事業をやる社員が成長したり、お客様がファンになって、リピートしてくれて、口コミしてくれる、など、事業が大きくなるための要素は、1日ではとてもできません。1日より1週間、1週間より1カ月、1カ月より半年…少しでも長く耐えられたほうが成功の確率は高まることもあります。なので、圧倒的に小さく事業を始めてバーンレートを下げ、長く続けるというのも大事なのではないでしょうか。

ちなみに2社目の介護事業は、既成産業、労働集約産業でテクノロジーは必要ないとなれば、僕たちにもできるんじゃないの?と、ずっと思っていた事業でした。本業のタクシー事業をやりながら、介護事業の新聞記事を見るたびになんとなく心が揺らいでいたのです。

しかし、実際にやってみて失敗したことで、今ではそういう記事を見ても心の揺らぎはまったくなく、よりタクシー事業に集中できています。

経営者がこれをやりたい、と思ったときに、それをずっと迷っているよりも、上手に失敗をしたほうが、心の揺らぎがなくなっていいのではないでしょうか。そのために、最初から大きく勝負せずに、小さくはじめることが重要なのです。