琉球新報は5月19日付朝刊で、沖縄の米軍普天間飛行場に配備されている海兵隊のオスプレイMV22に関し、「オスプレイ墜落 危険機種は沖縄から去れ」と題する社説を掲載し、「海兵隊は事故の被害規模を示す『クラスA』の損害額を『100万ドル以上』から『200万ドル以上』に変えて格下に分類し、重大事故の発生率を低く見せるために露骨な操作を行っている」と指摘した。しかし、「クラスA」の損害基準の引き上げは国防総省が指令し、海兵隊だけでなく、米軍機全体に適用されたものだった。日本報道検証機構の調査で、琉球新報は2012年8月以降、「米海兵隊が損害基準を引き上げた」と事実と異なる報道を繰り返していたことがわかった。当機構の指摘に対し、琉球新報社は誤報には当たらず、訂正する予定はないと回答した(既報あり=【GoHooレポート】オスプレイの低事故率 「海兵隊が損害基準引上げ”工作”」は誤報)。
当機構の調査では「海兵隊が重大事故(クラスA)の損害基準を引き上げた」と報じた琉球新報の記事は、少なくとも2012年に4本、2013年に5本、2015年に1本あった(計10本のうち4本が社説、1本は社会部長の署名論説)。これまでにも、沖縄タイムスや全国紙にはオスプレイの事故率の低さに疑問を呈する記事は多数掲載されてきた。しかし、「海兵隊が」クラスAの損害基準を「引き上げた」と誤報したのは、琉球新報と中日・東京新聞の記事=既に指摘した今年5月19日付朝刊のほか、2013年9月15日付社説にも同様の誤報が判明。同社も訂正する予定はないと回答=以外に確認できていない(引き続き調査中)。
琉球新報2012年8月3日付朝刊1面
※その他の検証対象記事は後掲。
米国防総省は、米軍機の重大事故で死傷者が出なかった場合でも政府関係財産に一定の損害が出た場合には、最も重大な事故を意味する「クラスA」に分類。この財産損害の基準額は2009年10月の同省指令で「100万ドル以上」から「200万ドル以上」に引き上げた際、海兵隊の機種に限らず「国防総省の航空機の損壊」すべてに適用されるものとしていた。アシュトン・カーター国防次官(調達・技術・兵站担当)=現在は国防長官=の文書によれば、この損害基準の引上げはインフレ増大によるもので、1989年にクラスAの損害基準を50万ドルから100万ドルに引き上げて以来、20年ぶりだった(詳細は、既報のGoHooレポート参照)。
琉球新報が最初にMV22の事故率を低くみせかけるために、海兵隊がクラスAの損害基準を引き上げたと報じたのは、2012年8月3日付朝刊1面トップ「オスプレイA級事故で海兵隊 評価基準かさ上げ 100万ドルから200万ドルに 発生率低く調整か」と見出しをつけたワシントン発の記事。2日後にはオスプレイ配備に反対する県民大会が予定されていた(台風接近で延期され、9月9日に開催)。2011年10月の米誌WIREDに掲載されたオスプレイ事故率の低さに疑問を呈した記事を情報源にしたことを明記し、「次期主力輸送機と位置付ける海兵隊が安全記録を良好に見せ掛けるために事故の評価基準を臆せずに変更する実態が浮き彫りになった」と指摘していた。しかし、同紙が引用したWIREDの記事には、アシュトン・カーター国防次官の文書にも言及したうえで、「2009年10月、国防総省高官はインフレのため『200万ドルまたは死者』に基準を引き上げた」(Then, in October 2009, the Pentagon brass revised the threshold upwards to $2 million or a fatality, owing to inflation.)と書かれており、損害基準変更の事実関係を正確に報じていた。
このWIREDの記事については、沖縄タイムスが2011年10月15日付朝刊で先に取り上げていた。同紙はWIREDの記事を引用し、MV22で「クラスA」の財産損害基準を上回る事故のうち、飛行前点検中に意図しないエンジン推力の上昇で浮き上がり落下した事故=2006年3月発生=などが事故率にカウントされていない問題などを指摘したが、「海兵隊が損害基準を引き上げた」とは報じていなかった。
仮訳は、既報のGoHooレポート参照。原資料は、「国防総省環境・安全・労働衛生ネットワーク及び情報交換場」サイトより
琉球新報の2013年8月3日付初報が引用した米誌WIREDの記事
- Osprey Down: Marines Shift Story on Controversial Warplane’s Safety Record (WIRED, written by DAVID AXE 2011/10/13)
琉球新報は2012年8月25日付社説でも「海兵隊はクラスAの分類を当初は損害100万ドル以上としていたが、09年以降は200万ドル以上に変更し、事故率を低く見積もるよう工作していた。数合わせのようなことをして『安全だ』と言われても誰が信用するだろうか。県民を愚弄するにもほどがある」と批判。松永勝利・社会部長も2013年8月3日付朝刊の「特別評論」で、「事故率の低さには、からくりがある。海兵隊は2009年にクラスAの損害額をこれまでの『100万ドル』から『200万ドル以上』に引き上げていた。…事故率を低くする巧妙な数字の操作が行われていたのだ」と指摘していた。2013年10月28日付社説にも「米海兵隊は09年に被害が甚大なクラスAの損害額の評価基準をひそかに『100万ドル以上』から『200万ドル以上』に引き上げた。オスプレイの事故率は3・98から1・93に下がったが、意図的な事故率偽装である」と記していた。
当機構は琉球新報社に対し「オスプレイの事故率を低くみせかけるために、米海兵隊が損害基準を引き上げた」との一連の報道が事実誤認だったかどうか、訂正する予定があるかどうか質問。これに対し、同社編集局は、初報で引用したWIREDの記事を根拠に「米軍側の損害評価基準の引上げにより海兵隊がMV22の事故率を実態以上に下げた可能性があると報じたもの」であり、「ご指摘のような誤報には当たりません」との見解を示した。「損害評価基準の引上げ」をしたのは「海兵隊」ではなく「米軍」であることを事実上認めた恰好だが、この引上げにより「MV22の事故率を実態以上に下げることにつながった」と指摘し、現時点で訂正する予定はないと回答した(全文は後掲)。
なお、当機構の調査では、オスプレイ以外の機種でも、2009年の基準改定により事故率が低下したとみられる例が確認されている。2010~2011年には、海兵隊で損害額100万ドル以上200万ドル未満の「クラスB」事故は、MV22で2件、それ以外の機種で3件起きていた。これらの事故は基準改定前だと「クラスA」に分類されていたとみられ、基準改定によりオスプレイだけでなく海兵隊平均の事故率が低下した可能性がある。
四軍調整官「安全」宣言 海兵隊資料と矛盾 オスプレイ CH46より高事故率
…(略)…米雑誌ワイヤードによると、米海兵隊は当初、重大事故に分類するクラスAの事故を損害100万ドル以上としていたが、09年以降、200万ドル以上に変更するなど事故率を低くするよう調整していた。…(以下、略)2012年8月23日付朝刊2面
社説:オスプレイ情報戦 配備ありきで納得できない
…(略)…事故率が低いという主張はすでに破綻している。海兵隊が今月公表したMV22の2001年10月から12月7月にかけて起きた中・小規模のクラスB、Cクラスの飛行場での発生や飛行中の事故率をみると、海兵隊の航空機の平均を上回っている。
また、海兵隊はクラスAの分類を当初は損害100万ドル以上としていたが、09年以降は200万ドル以上に変更し、事故率を低く見積もるよう工作していた。数合わせのようなことをして「安全だ」と言われても誰が信用するだろうか。県民を愚弄するにもほどがある。…(以下、略)2012年8月25日付朝刊2面
オスプレイの重大事故「件数を過少申告」 米軍事評論家が指摘
…(略)…海兵隊はオスプレイの事故は、死者や200万ドル以上(2009年以降にそれまでの100万ドル以上から分類基準をかさ上げ)の損害が出た事故を「クラスA」、重い後遺症が残るか50万ドル以上の損害が出た事故を「クラスB」などと分類。…2012年10月12日付朝刊1面
特別評論 松永勝利・琉球新報社社会部長 「無関係のまなざし」が元凶
在沖縄米軍トップで海兵隊中将のケネス・ブラック四軍調整官(当時)が昨年8月、共同通信の単独インタビューに応じ、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイについてこう言い切った。
「最も安全な航空機を開発できた」
根拠として示したのが米軍の事故評価基準だ。200万ドル以上の損害が出たクラスAのオスプレイの事故率は米軍機の中で低いという。記事は「最も安全な航空機」などの見出しを付けて全国の加盟報道機関に配信された。この事故率の低さには、からくりがある。海兵隊は2009年にクラスAの損害額をこれまでの『100万ドル』から『200万ドル以上』に引き上げていた。このためオスプレイのクラスAの事故率は1・93となり、海兵隊全体の2・45より低くなる。しかし、従来の事故評価基準を適用すれば3・98に跳ね上がる。事故率を低くする巧妙な数字の操作が行われていたのだ。
琉球新報はインタビュー記事の約2週間前、評価基準を見直した事実を1面トップで報じている。このため四軍調整官の事故率発言の共同記事だけでは読者に誤解を与えると判断し、基準見直しなどを理由に「安全」には矛盾があることを指摘する独自の記事を後日あらためて掲載した。…(以下、略)2013年8月3日付朝刊3面
社説:オスプレイ追加配備 この国は民主国家か 人道に反する危険強要
…(略)…オスプレイは虚飾にまみれ、米軍の事故対応なども過小評価、情報隠しが際立ち信頼性が疑わしい。
米海兵隊は、2009年に被害が甚大なクラスAの損害額の評価基準を「100万ドル以上」から「200万ドル以上」に引き上げた。
この見直しで従来の評価基準なら3・98となるオスプレイの事故率が、1・93と低くなった。この作為を指摘すると、米側当局者は「事故が多いのは試作段階の話。今は安全だ」などと反論する。…(以下、略)2013年8月4日付朝刊2面
オスプレイ着陸失敗『最も重大』機体大破 海軍『クラスA』認定
…(略)…クラスAの事故をめぐって米海兵隊は2009年、対象を『100万ドル以上』から『200万ドル以上』に引き上げた。その結果、従来の算定方法なら10万飛行時間当たり3.98となるオスプレイの事故率が、海兵隊平均の2・45を下回るは1・93に下がった。…(以下、略)2013年8月31日付朝刊1面
単眼複眼 「オスプレイ事故」防衛相発言 「安全」自ら否定 問われる説明責任
…(略)…開発段階から事故が相次いだオスプレイの『安全性』に関して海兵隊は09年、クラスA事故の対象をそれまでの『100万ドル以上』から『200万ドル以上』に変更。…(以下、略)2013年9月5日付朝刊3面
社説:オスプレイ不備 飛ばすなら米本国だけで
…(略)…そもそも、試作段階以来、事故を繰り返し、30人以上が死亡しているオスプレイの飛行実態には虚飾と情報隠しが横行している。
米海兵隊は09年に被害が甚大なクラスAの損害額の評価基準をひそかに「100万ドル以上」から「200万ドル以上」に引き上げた。オスプレイの事故率は3・98から1・93に下がったが、意図的な事故率偽装である。…(以下、略)2013年10月28日付朝刊2面 ※ニュースサイト2015年6月3日午後11時閲覧
社説:オスプレイ墜落 危険機種は沖縄から去れ
いくら日米両政府が安全だと喧伝(けんでん)しても、数年に一度は必ず墜落事故を起こす代物だ。垂直離着陸輸送機オスプレイをめぐる統計学的な事実が証明された。…(略)…
海兵隊は事故の最大の被害規模を示す「クラスA」の損害額を「100万ドル以上」から「200万ドル以上」に変えて格下に分類し、重大事故の発生率を低く見せるために露骨な操作を行っている。
オスプレイの事故頻度を分析すれば、数年内に沖縄周辺で墜落してもおかしくない。米軍は沖縄の空からオスプレイを撤収すべきだ。われわれは恐怖におののく生活を強いられることを拒否する。…(以下、略)2015年5月19日付朝刊2面 ※ニュースサイト2015年6月3日午後11時閲覧
琉球新報編集局の回答(全文)
2012年8月3日朝刊1面『評価基準かさ上げ/オスプレイA級事故で海兵隊/100万ドルを200万ドルに 発生率低く調整か』ほか、弊社の評価基準かさ上げの記事について、『海兵隊オスプイMV22の事故率を他機種より低くみせかけるために海兵隊だけが損害基準を引き上げたかのように繰り返し報じた』とのご指摘ですが、当該記事は、雑誌ワイアードの2011年10月号で『ホールデン(海兵隊本部のオスプレイ計画担当官)は、海兵隊が新しくてより高い閾値を古い事故に適用し、事故を再分類していると話した。言い換えれば、海兵隊は明らかに比較的重大な過去の事故を人為的に矮小化している。海軍安全センターが禁止している行為だ』と報じたことなどを踏まえ、米軍側の損害評価基準の引き上げにより海兵隊がMV22の事故率を実態以上に下げた可能性があると報じたものです。ご指摘のような誤報には当たりません。
その記事のリード部分の冒頭で、「垂直離着輸送機MV22オスプレイをめぐり、米軍側が重大事故に当たる事故評価基準(損害額)を引き上げたり、実戦配備の際の危険任務を回避したりして、意図的に安全性を強調する安全記録が作られてきた疑惑が生じている。」と表記し、米軍全体に及ぶ措置であることを踏まえた上で海兵隊のMV22の事故率を実態以上に下げることにつながったと記事化しております。実際に海兵隊機の重大事故に当たるクラスAの事故率を低くする形となって作用しており、影響を及ぼしています。現時点で訂正する予定はありません。
国防次官が発出した文章については、もちろん弊社も確認しております。今後の取材、報道の中で、それを踏まえた形で報じる必要があれば、的確に報道していく所存です。
- (初稿:2015年6月4日 06:00)