成長度は変身シーンに現れる
セーラームーンが成長し、母性を獲得していく過程は、各シリーズの変身バンクを見比べてみても一目瞭然だ。「バンク」とはテレビアニメにおいて毎週同じものを使い回す一連のシーンのことで、主に“変身”や“合体”などで使われる。
1年目『無印』でのうさぎは、一度身体をすぼませてから花びらが開くようなイメージで変身する。女性性の萌芽を表しているようだ。
2年目『R』のうさぎは、まるで観客がいることが前提の舞台上のような「見せポージング」をする。『無印』に比べると自意識が明らかに高い。
3年目『S』では、『R』にも増して観客目線を意識していて、まるで「舞っている」ように見える。身体を反らして脚を垂直に上げるポーズは、新体操的な意味での“パフォーマンス”だ。自意識の獲得(および肥大)は、思春期特有の傾向であり、少女という存在におけるそれは、女性性の獲得プロセスにほかならない。
4年目『SuperS』では、うさぎとちびうさの2人(母と娘)が同時に変身しており、ダイレクトな母性感が前面に出る。変身が完了して決めポーズに至る直前、バストアップショットで目を閉じて向かいあう2人の構図(頬が接している)は、まるで紙おむつやベビーパウダーのCMのようにも見える。
5年目『セーラースターズ』では、再びセーラームーン単独変身に戻る。ちびうさの成長物語は『SuperS』で完了したので、これは「子を育て上げたのちの母の姿」だ。背中に生えた天使のごときゴージャスな羽毛に包まれたセーラームーンが帯びる神聖度・聖性は、過去4シリーズとは比較にならないほど高い。やんごとなき天上人、人間の枠や性別すら越えた、究極母性の象徴たるビジュアルである。
少女から淑女に至る『無印』『R』『S』、母娘である『SuperS』、神性を獲得した『セーラースターズ』。実際、『セーラースターズ』におけるセーラームーンは、銀河を賭けた神レベルの戦いに挑む。このように、セーラームーンの成長は変身描写に現れているのだ。
月野うさぎとナウシカの共通点
ところで、アニメ作品における国民的美少女としては、月野うさぎ以外に忘れてはならないキャラクターがいる。
セーラームーン世代より上、団塊ジュニアからポスト団塊ジュニアの文化系女子を中心に一定の人気を博し、一部からカリスマ的に信奉されている、ナウシカだ。『美少女戦士セーラームーン』放映開始の8年前、1984年に公開されたアニメーション映画『風の谷のナウシカ』のヒロインである。
cakesに登録すると、多彩なジャンルのコンテンツをお楽しみいただけます。 cakesには他にも以下のような記事があります。