任天堂の虎の子シューター
5月28日に任天堂から発売された『Splatoon』は、基本に忠実なオンライン用のTPSタイトルである。
プレイヤーは各チームに4人ずつ。それぞれマシンガンやローラーといった「ブキ」を装備しており、これらは敵を倒すための兵器であると同時に、壁や床を自軍の陣地に染めるインク射出機でもある。
試合の勝敗は、最終的にマップ全域をどれだけ自軍のインクで塗りつぶされたかが問われる。故にプレイヤーは敵を倒すことだけでなく、新たに陣地を拡大するために探索する必要が生まれる。
また、このようにしてインクで染めたエリアでは、プレイヤーは潜伏して攻撃を回避したり、弾薬となるインクを補給したり、また高速で移動することも出来る。つまり、インクで塗りつぶすことはただ勝利ポイントに貢献するだけでなく、即座に自分が利益を得られる、ゲームの根幹的なルールにもなっているのだ。
また、次世代機WiiUならではのグラフィックは美しく、エフェクトやテクスチャのクオリティでは劣るが、跳ねまわり、はじける液体の表現や、独特のハイアートが調和するテクスチャなども素晴らしい。
ゲーム業界の中でも最王手の「任天堂」、それも主戦力である情報開発本部が開発したタイトルとだけあって、飽和状態にある程に数の多いTPS界隈ながら異形の作品となっている。*1
海外作品を安易に取り込まない姿勢
さて、現代では『CS:GO』のようなメジャータイトルから『CoD』のようなカジュアルな作品まで、「シューター」とされるジャンルはゲーム市場の一角を担っているが、日本の作品においてシューターは驚くほど少ない。
そこで発表された『Splatoon』は、正に「初の国産AAA級シューター」として注目を浴びた。それは同時に、まだFPSやTPSに慣れ親しんでいない日本人プレイヤーに、いかにシューターの面白さを伝えるか、ルールを理解してもらえるかが重要といえるだろう。
(クラスによって遊び方を変えられる/『Team Fortress 2』)
まず驚くべきは、アッサリしすぎる程に切り捨てられたシューターの伝統だ。
確かに、本作はルールやシンプルで無駄がなく、任天堂らしいユーザビリティに溢れた内容に仕上がっている。にも関わらず、海外の作品が「初心者顧客」に向けて発信されるフィーチャー、
例えば、戦闘を行わず回復等の支援でチームに貢献できる「クラス制」(例:『Battlefield』『Team Fortress』等)や、ルールを細分化させて学習させる「カスタマイズ要素」(例:『Call of Duty』『Gears of War』等)が、本作にはほとんどないのである。
従来、海外のタイトルでは、「シューター」と呼ばれるゲーム性、つまり「撃つ、避ける」の戦略を、「クラス分け」や「別ルール」と呼ばれる形で分散させ、「シューター」に馴染めない初心者層を取り込んでいた。
ところが、まだシューターのノウハウが浸透していない日本人プレイヤーに向けて、この『Splatoon』は小細工抜きに、純粋な「シューター」を楽しませようとする。
私はこれが本作の醍醐味の一つだと思う。リコイルや移動テクのような伝統的なコマンドを廃止する代わり、同時にクラス制やカスタム制のような現代的なシステムをも廃止し、純粋な「シューター」のみを、独自のアイディアで具体化させたのである。
これは想定外のルーキーでありながら、人材やリソースを潤沢に活用できる任天堂の新規IPだから実現できるのであって、プレイしていて大変楽しい。久々に、手垢のついていない新鮮な気持ちで、原始的なTPSの駆け引きを見出すことができた。
驚くほどストイックな仕上がり
さて、先ほど海外作品と比較した上で本作を論じたが、本作は正にピカピカの「新作」でありながら、決して既存の流れに身を任せず、むしろ堂々と切り捨てる潔さがある。その結果、本作は驚くほどピュアで、ストイックな仕上がりになっているのだ。
まず、本作はちゃんと「撃つ、避ける」というシューターの基本に忠実だ。
例えば「移動」であるが、これは脚で移動するだけでなく、自軍が塗りつぶしたインクの中を、泳いで移動することが出来る。(主人公はイカなので)
これで攻勢と退却のメリハリが突くこともさながら、ちゃんと自分が移動したい方向にスイスイと動いてくれるので、移動してて爽快感が高い。中でも、インクの塗られた壁を登れる点が白眉で、これにより高低差を利用した戦いも自然に楽しめる。
そして「射撃」だが、こちらは複数の「ブキ」がそれぞれ楽しいのもいい。適当にばら撒ける一方、距離によって偏差射撃を狙う必要のある「スプラシューター」や、チャージ具合で遠距離から一撃で倒せる「スプラチャージャー」など、
しっかりとブキに個性が与えられている一方で、パッドによる操作でもストレスが溜まらない程度に、狙って倒す面白さが考えられている。
本作はFPS中毒者でも満足するほどの駆け引きと、初心者でも安心できるプレイアビリティを、見事に両立させていると言えよう。
また、敵を倒すとインクをぶち撒ける爽快な演出や、ボコボコと心地良い音を立ててインクを飛ばすブキの音など、クラシックなFPSで定番だった原始的な快楽がしっかり存在するのも嬉しい。
特に、私は「どこに当てたかわかりづらい」シューターは嫌いだ。かつて『CS:S』がソースエンジンでリメイクされた時にもファンから指摘された点だが、最近のゲームはとにかく弾が当たったかどうか、弾がどこに飛んだのか分かりづらい。これではゲーム的にも演出的にも萎えてしまう。
ところが、『Splatoon』は「インク」という弾薬と、「塗りつぶす」というルールを導入することで、この銃撃戦の快楽性を見事に蘇らせた。かつては火星で自分の腸をぶちまけたり、敵の脳みそを破裂させたりしたものだが、あの快楽が任天堂作品である程度再現されているのは、老兵プレイヤーにも朗報だ。
ただし、私はこの「ピュアさ」がどこまで顧客に到達するのかについては懐疑的である。
本作は「クラス制」等の追加ルールによる役割分担がなく、また各チームにプレイヤーは4人ずつであり、他のゲームに比べて、一人のプレイヤーの担う仕事と責任は大きい。
現状初心者が多いからこそ大した問題ではないが、この作品を本格的にプレイする「ガチ勢」が増えた頃、『L4D』のように初心者と上級者の格差が生まれ、結果的に一方的な試合が増えるのではないか懸念される。救済策やランクマッチも必要になるかもしれない。
また、マップやルールが少ないという不満もある。私自身、面白くもないマップやルールを量産するより、ちゃんと遊ばれるマップのみ厳選する任天堂の姿勢は正しいと考えるが、それがカジュアルな客層に受け入れられるかは微妙だ。
例によって、マルチプレーゲームは人数が減ると試合にならないので、シングルゲーと違って少ないマニアだけが楽しめればいいというものではない。
あと、これは『Splatoon』とは別の話だが、やはり「WiiU」の備え付けコントローラーは扱いづらい。ある程度は覚悟していたが、PSコンや箱コンと比べても重い上に大きく、とてもじゃないがシューターを快適にプレイすることは無理だ。少なくともProコントローラーは必須だろう。(こっちはこっちで賛否両論のようだが)
いずれにせよ、本作は任天堂の新規IPとして、期待のシューターとして、十分な面白さがある。鮮度が命のマルチプレータイトルなだけに、早い内に是非遊んでおきたいところだ。
*1:主たるメンバーに、初代『どうぶつの森』の野上恒(ディレクター)など