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職あれば食あり

突然アニメの聖地に!
廃業相次ぐ町の酒屋に起きた奇跡

まがぬまみえ [ライター]
【第64回】 2015年5月21日
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 彼が言うには、映画や大河ドラマのファンなどに比べると、アニメファンの方が比較的、興味関心が長続きする。マスで展開したものはあっという間に火がつく代わりに、忘れられるのも早い。じっくりと人気が広がるローカルアニメの方がコアな固定ファンが付きやすく、町おこしには貢献している。

 「大事なのは作品力ですよね。それが持続力につながる。それと、とにかく欲をかかないことです。アニメを使って盛り上げようと思ったけれど、そんなにお客さんが来ないじゃないか、と焦ったらダメです。どこにでもあるような商品にキャラクターのラベルを貼って売りつけようとするのも良くない。金儲けの姿がチラッとでも見えると、ファンは引いてっちゃいますから」

 これには、筆者も深くうなずいた。

「自分だけが儲かればいい」は禁物
ファンと一緒に町を作っていく

金子さんのランチ。店番をしながら、前日の残りものなどでチャチャッと済ませることが多い。このごろは豆腐に凝っていて、毎日、違う豆腐を日替わりで食べている。この日のランチも豆腐に素揚げしたネギとじゃこを載せたもの。「本当はガーリックも入れるとおいしいのですが、接客業なのでそこはガマンです(笑)」

 巡礼の目的は「消費」ではない。彼ら(彼女ら)はむしろ、経済原理に支配された考え方を徹底的に忌み嫌う。「自分だけが儲かればいい」という空気を感じたとたん、ファンの熱は冷めてしまう。

 巡礼者は物語の舞台に繰り返し足を運ぶことで、そこで出会った人々と交流しながら、店のご主人や女将さんのファンにもなっていく。巡礼の究極の目的は、こうした「人的交流」やそれに伴う「ささやかでも血の通った社会貢献」の方にある。どんなに仕掛けてみても、交流のないところに「聖地」は決して生まれないのだ。

 先に紹介した本の著者、岡本健氏の論文にはこんな指摘もある。

<通常の観光地であれば、観光資源に関してもともと地元住民が知識を持っていることが多いだろうが、アニメ聖地巡礼に関しては、逆に、旅行者のほうが、アニメ聖地としての観光資源に関して知識が豊富である。それゆえ、通常の観光地とは逆で情報が地域側に少なく、旅行者側に多いという事態が生じる>

 アニメの巡礼において、もてなすのは地域住民で、もてなされるのは観光客という従来の図式は通用しない。住民に求められるのは訪問客に学びながら、彼らとともに町を作っていく姿勢である。巡礼者が地域で開かれるイベントの企画や運営にボランティアとして参加しているケースもある。地域住民と巡礼者たちの双方向のインタラクションが、「聖地」を盛り上げて行く。

 かごや商店、三代目の金子さんも言う。

 「なので、うちもあんまり売り上げは重視していません。来店していただいて商品を買っていただければ嬉しいですが、その前に、町全体を盛り上げることが大事。まずは流山に行ってみようと思ってくれる人を増やすことが先で、結果、うちに来てくれるお客さんが増えればそれに越したことはない。うちだけが伸びればいいんじゃなくて、市全体を活性化していく。そのためにみんなでできることはやるというスタンスが、ちょうどいいんじゃないかと思っています」

世論調査

質問1 あなたはアニメの世界で言う“聖地巡礼”をしたことがありますか?



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まがぬまみえ[ライター]

1970年福島県生まれ。日本経済新聞社記者として7年半勤務。田舎暮らしに挫折し、なりゆきでフリーのライターに。「働くこと」「生きること」「人と組織の幸福な関係」を追いかけながら、 実は「働かなくても幸せに生きる」方法を探っている。労働経済学者、玄田有史氏との共著に『ニート フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎)がある。

 


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人は食べるために働くのか、それとも、働くから食べなければならなくなるのか。そんな素朴な疑問を解き明かすべく、さまざまな職業に従事する人々のランチと人生を追いかける。「職」と「食」の切っても切れない関係を解きほぐす、お仕事紹介ルポ。

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