メディカル玉手箱

 健康診断をきっかけに、ナオコさん(49歳・会社員)の夫・マサオさん(53歳)に糖尿病が見つかりました。
 ところが精密検査を受けた病院は、自宅からも会社からも遠くて通院することが難しそうです。
 会社の近くの内科クリニックを受診しようとする夫に「大きな病院で専門医から治療を受けたほうがいい」と強くすすめるナオコさん。
 糖尿病専門医はどのように探せばいいのでしょう。


 ある夜、ナオコさん(49歳・会社員)が残業を終えて帰宅すると、食卓に1枚の紙が置かれていました。よく見ると、それは夫・マサオさん(53歳)の健康診断の結果でした。

イラスト:ALTタグ糖尿病は、運動不足、ストレス、過食など生活習慣の乱れが原因といわれる。高脂肪食も糖尿病の大敵=渡辺千鶴さん提供

 「あれ? ヘモグロビンA1c(※1)が要精密検査になっているけど、糖尿病の疑いがあるの?」
ナオコさんは、風呂上がりのビールを飲みながらくつろいでいるマサオさんに聞きました。すると、マサオさんは「心配しなくてもいいよ。どこも具合は悪くないし、仕事が忙しくて検査になんか行けないよ。それにオレ、痩せているから糖尿病じゃないと思うんだ。太っている人がかかる病気だろう?」とまったく気にしていません。

 (※1)ヘモグロビンA1c……体内に酸素を運ぶ役目のヘモグロビンと血液中のブドウ糖が結合したもので、この値を調べると過去1~2カ月の血糖の状態を知ることができる。ヘモグロビンA1cの数値が6.5%以上になると糖尿病が疑われる。

 たしかにマサオさんが言うように、忙しい仕事をやりくりして精密検査を受けるのは面倒です。また、検査を受けても何でもないことのほうが多く、「病気が見つかったらどうしよう」と不安になった分、損をした気持ちになることも……。

 「でも、具合が悪くなくても検査でひっかかったわけだから、精密検査はきちんと受けておいたほうが安心じゃないの?」とナオコさんは思い直しました。

 そもそも健康診断の目的は、生活習慣を見直して病気を予防したり、早期に病気を発見して適切な治療を行ったりすることで死亡を減らすことです。したがって、健康診断の対象は症状がない人です。しかし、症状がないからといって健康とはかぎりません。ナオコさんが考えたように、精密検査は放置しないで受けたほうがよいといえます。

 また、「すでに何らかの症状があり、心配だから健康診断を受ける」という人をときどき見かけますが、これもおすすめできません。症状がある場合は、外来を受診し、その症状に合わせた検査を受け、医師にきちんと診断してもらう必要があります。

解決策①

健康診断や人間ドックを受けて「要精密検査」になったら、放置しないですみやかに医療機関を受診する。


 マサオさんは、ナオコさんだけでなく会社の健康保険組合の保健師にも精密検査を受けるように何度も促され、指定された総合病院でしぶしぶ精密検査を行いました。ナオコさんは知らなかったのですが、マサオさんはここ数年、ヘモグロビンA1cの異常が続いていたのでした。糖負荷試験(※2)の結果、マサオさんは糖尿病になっていることが判明しました。

(※2)糖負荷試験……75グラムのブドウ糖を水に溶かして飲み、時間をあけて複数回にわたり血糖値を測定する検査。空腹時血糖値が126㎎/dl以上、または食後2時間血糖値が200㎎/dl以上は糖尿病型と診断される。

 「糖尿病は太っている人がかかる病気じゃなかったのか……」とうなだれるマサオさんに医師は「最初に異常が指摘されたときに検査を受けていれば、境界型糖尿病(※3)だった可能性もあり、糖尿病になることを防げたかもしれません。まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方がないので、気持ちを切り替えて治療していきましょう」と励ましてくれました。

(※3)境界型糖尿病……糖尿病型と正常型の間にある層(空腹時血糖値が110~125㎎/dl、食後2時間血糖値が140~199㎎/dl)で糖尿病予備軍とも呼ばれる。境界型は数年以内に糖尿病を発症する確率が高いことが統計的にわかっている。

 精密検査を受けた総合病院の医師はとても感じのよい人でしたが、定期的に通院するのは会社からも自宅からも病院が遠いうえに外来はかなり混んでいます。毎回の診察にどのくらいの時間がかかるのか医師に尋ねたところ、「1日がかりになることを覚悟してほしい」と言われてしまいました。

 「もうすぐ新しいプロジェクトが始まるし、この病院に通うのは難しいな……。とはいえ、どこの病院にかかればいいのだろう」。マサオさんは大きなため息をつきました。

 帰宅後、ナオコさんに報告すると「やせているから糖尿病じゃないなんて、あなたの根拠ない自信にイヤーな予感がしたのよ。私、ネットで調べてみたけど、糖尿病を放っておくと網膜症や神経障害、腎症を合併することがあるし、脳こうそくや心筋こうそくを引き起こす危険性も高くなるみたい……。最近の研究では、がんや認知症とも関係があることがわかったらしいわよ」と脅かされて、マサオさんはますます気がめいってきました。

 「検査を受けた病院は会社から遠すぎて通院が難しいんだ。とりあえず会社の近くの内科クリニックにかかればいいかなあ。具合が悪いところがあるわけじゃないし」。

 「いいえ、意外に大変な病気だから、大きな病院で糖尿病の専門医にかかって、きちんと治したほうがいいわ」とナオコさんは強くすすめました。

 「専門医がいいといっても、いったいどこの病院にいるのか教えてくれよ!」

 マサオさんのように治療を受ける病院を新しく探さなければならず、なおかつ糖尿病を専門とする医師の診療を希望する場合、探し方として次の四つの方法が考えられます。

解決策②

1.検査を受けた病院の医師に事情を説明し、通いやすい場所で糖尿病専門医が診療している医療機関を紹介してもらう。

2.会社の産業医に相談し、通いやすい場所で糖尿病専門医が診療している医療機関を紹介してもらう。

3.自宅あるいは会社がある自治体の保健所や保健センターに電話をして、通いやすい場所で糖尿病専門医が診療している医療機関を教えてもらって受診する。

4.日本糖尿病学会のホームページに掲載されているリストから通いやすい場所で糖尿病専門医が診療している医療機関を見つけて受診する。

糖尿病専門医とは?

 日本糖尿病学会では「糖尿病専門医」を認定しており、2015年4月23日現在、全国に5138人の専門医がいます。内科医の場合、認定内科医の研修を1年以上受けた後、糖尿病の研修を3年以上受け、試験に合格すれば糖尿病専門医として認定されます。認定資格は5年ごとの更新制となっています。

●日本糖尿病学会HP 専門医検索
 http://www.jds.or.jp/modules/senmoni/


 ただし、糖尿病専門医の数は全国的に少なく、30人ほどしかいない県もあるため、近くの医療機関で見つからないことがあります。その場合は、日本糖尿病協会の「登録医」と「療養指導医」が糖尿病を専門とする医師の目安になります。これらの資格を有する医師は、日本糖尿病協会のホームページで検索することができます。

日本糖尿病協会 登録医・療養指導医とは?

日本糖尿病協会では、糖尿病診療に関心を持ち、月10人以上の糖尿病患者を診察している医師を対象に「登録医」制度を設け、証書を発行しています。また、登録医の中でチーム医療を実践し糖尿病教室などの啓発活動に取り組む医師を「療養指導医」として認定しています。いずれの資格も5年ごとの更新制です。現在、全国で登録医は1279人、療養指導医は2586人います。

●日本糖尿病協会 日糖協データベース
 http://www.nittokyo.or.jp/jadec_db/?search_type=1


 また、大学病院や総合病院など大きな病院にかかりたいのなら、1または2の方法を選択し医師に紹介状を書いてもらうことをおすすめします。というのも、現在は200床以上の病院を初めて受診する際に医師の紹介状がなければ、初診料に「初診時特定療養費」と呼ばれる自己負担金が上乗せされる仕組みだからです。初診時特定療養費は、病院が自由に設定することができるため、患者が支払う金額は異なります。

 厚生労働省の資料によると、2012年7月1日現在の時点で初診時特定療養費を設定している1191病院の平均金額は2130円、最高設定額は8400円、最低設定額は105円でした。

 現在、初診時特定療養費を徴収するかどうかは、各病院の判断にまかされています。しかし、2016年4月より大病院(特定機能病院および500床以上の病院)には、紹介状を持たずに外来を受診した患者(救急患者は除く)から初診時特定療養費を徴収することが義務づけられます。新制度では病院が自由に金額を設定するのではなく定額負担になる予定で、5000円~1万円といった案が提案されていますが、具体的な金額についてはこれから検討されることになっています。

 「うーん、大病院にかかりたいのなら一見客はそれなりにお金を払わなくちゃいけなくなるのね……」。ナオコさんとマサオさんは、糖尿病の専門医探しから思わぬ新制度を知ることになりました。

 さて、マサオさんは検査を受けた総合病院の医師から会社の近くにある大学病院の糖尿病専門医を紹介されて治療を始めることになりました。

 この大学病院でもマサオさんは、予想していなかったある提案を受けます。それはいったい、どういうものなのでしょうか。このお話は次週に続きます。


アピタル編集部より

 この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

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