久保憲司のリアルナンバーズ 第5回:ザ・クラッシュ – ハマースミス宮殿の白人

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ロックの生き証人とも呼ばれるフォトグラファー久保憲司さんに<あの名曲、実はこんな曲>と教えてもらう連載「久保憲司のリアルナンバーズ」。第5回目のテーマはザ・クラッシュの「ハマースミス宮殿の白人」です。(編集部)





パンクで最もすばらしい歌詞を持つ楽曲


パンクの歌詞で一番素晴らしいと言われているのがザ・クラッシュの「ハマースミス宮殿の白人」だそうだ。

今は忘れられた存在になってしまっているが、パンク時代ではとっても珍しいオープン・ゲイとして時の人だったトム・ロビンソン・バンドのトム・ロビンソンが「『ハマースミス宮殿の白人』を聴きたいがためにターンテーブルを買った」と言っていた。

当時僕はあのトム・ロビンソンがすごい曲だというので、聴きたくって仕方がなかった。

しかし、本当のことを言うと、ミュージシャンがターンテーブルを持っていないことにびっくりした。中学生だった僕でも、親にむちゃくちゃねだって中学の入学祝いにステレオ・セット買ってもらっていたのに、どういうことだと思っていた。「ターンテーブルなくっても。ミュージシャンなんかなれるのか」と思っていた。

その後、イギリスに住んで分かったんだけど、イギリス人って貧しい人は貧しいんです。特に80年代はそうでした。そしてその80年代から推測すると、70年代はもっと貧しかったんだろうなと感じた。

なぜ貧しかったかというとそこには階級制があったからだと思う。かつて大英帝国と呼ばれたイギリスが、日本より貧しい部分がたくさんあるなと感じたのは、今考えると衝撃だった。日本を裕福に感じたのは、アメリカが戦後、階級制度をぶち壊したからでしょうね。そして今の日本で格差を感じるのは、そういうぶち壊しを60年以上やっていないからだと思う。

…あっ、話が関係ない方向にそれました。『ハマースミス宮殿の白人』ですね。

この曲のWikiの解説を読むと、ジョー・ストラマーがデリンジャーなどのジャマイカからの最新のレゲエ・アーティストを見に行くと、そのショーはフォー・トップスみたいな昔ながらのエンターティメント・ショーで失望したという歌であると解説されてます。日本の音楽業界もだいぶ進歩しましたね。このレコードが日本でリリースされた時は、デリンジャーもケン・ブースも何のことか分からず訳されむちゃくちゃでしたから。ジョーが観に行った会場であるハマースミス・パレーを“ハマースミスの宮殿”と訳したくらいですからね。



僕がもっと進ませましょう。「レゲエのコンサートを観に行ったら、良くなくて失望した」みたいな歌でパンクの歴史的な歌詞になるはずがありませんよね。

しかもデリンジャーとかリーロイ・トーマスなど、当時の最先端のレゲエがフォー・トップスみたいなわけがない。そりゃたしかに僕もレゲエのコンサートに行って、一つのバックバンドにいろんなシンガーが歌うというシステムは演歌のようなエンターティメントシステムだとも思いました。ヒップホップのコンサートでも多々そういうことを感じます。

また話は変わってしまいますが、ロックフェスで「革命だ」と言えば世の中変わるんじゃないかという気もします。

でも、そんなの思い上がりなんですよ。

ハマースミス・パレーでジョーが何を見たのか。それは「現実」なんです。たぶん、ジョー・ストラマーはデリンジャーのライブを見にいったのですが、おそらく、日にちか、時間を間違えたんです。ジョーは「深夜12時から朝の6時まで」と歌っていますが、当時レゲエのコンサートをオールナイトでやるなんて危険すぎます。レゲエのコンサートは普通に夜の11時に終わらないと警察も許可しないんじゃないでしょうか。僕も80年代にレゲエのコンサートによく行きましたが、ブラック・ウフルやイエローマンなんかの大物が来る時は5,000人くらいの黒人が集まり、馬に乗った警官が会場の周りを取り囲み、暴動寸前の状態でコンサートが始まっていました。イエローマンなんかスケベな歌しか歌わないので「ただのフォー・トップスやん」とも言えるんですけど、あの異常な光景を見ていると「革命だ」としか思えなかったです。



たぶん、ジョー・ストラマーは当時ハマースミス・パレーで毎週やっていたディスコ・ナイトに行ったんだと思います。しかもトンでいたから、気づかなかったんですね。普通は日にちか時間を間違えたと気付くはずです。

お金も払って、会場に入って、「あれ」と思ったんですよ。そこで現実を見るんです。Burton suits(ディスコ・スーツ)着て、フォー・トップスに合わせて踊っている人たちを見て、「これが一般の人たちだ、これがマジョリティなんだ」と。「レゲエを聴いている黒人とか、俺たちみたいなパンクはマイノリティーなんだ」と気付くわけです。

そして、後半の歌につながっていくわけですよ。俺たちみたいなパンク(マイノリティー)が、意見が違うからと喧嘩ばっかりしていたら、ヒットラーみたいなやつらが出てきて、こういう普通の人たちを利用してなんかやっちゃうぞ、だから俺たちもっと違う戦いの方法を考えた方がいいんじゃないかと。今で言うと、ネットで盛り上がっているから、世の中変わるぞと思って選挙してみたら、実はたいしたことなかったみたいな。

こんな感覚を当時流行っていたフイリップ・K・ディックのSF小説のような感じで歌にした歌なんです。現実と思っていたものが幻想だったという歌だと思うのです。それで歌のオチにつながるんです。俺はトンでいるだけのオオカミだから、今はほっといてくれ、俺は楽しいことを探しているだけだからと。

まさに小説みたいな歌ですね。しかもそれが当時最先端と言われだしたサイバー・パンクぽい小説。これがパンク史に残ると評される歌の理由なんだと思います。クラッシュはこういうの上手いですね。ジョーの歌詞じゃないですけど、ミック・ジョーンズのあの名曲「スティ・フリー」も、3番で突然場面が3年後になっていたり、場面の切り替えが上手いです。

というわけで、次回はザ・クラッシュの「スティ・フリー」を解説したいです。

(久保憲司)



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久保憲司

カメラマン&ライター。「ダンス・ドラッグ・ロックンロール ~誰も知らなかった音楽史~」発売中。なんとNO2も出ました。「ザ・ストーン・ローゼズ ロックを変えた1枚のアルバム」 電子書籍「ロックの闘争」お仕事の依頼はkenji.kubo@m6.dion.ne.jpまで。

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