ETF市場、5割保有の日銀効果で活性化-運用会社に恩恵も
2015/05/12 13:22 JST
(ブルームバーグ):日本の指数連動型上場投資信託(ETF)市場が活況だ。上場本数の増加や株高効果で純資産総額はこの2年余りで約3倍となり、月間売買代金は3月に過去最高を記録した。異次元緩和策でETFを購入し、純資産総額に占める保有比率が今や5割を占める日本銀行の存在が好影響をもたらしている。
投資信託協会によると、2月末時点の国内ETFは128本、純資産総額は12兆709億円で、第2次安倍政権が誕生した直後の2012年末と比べると本数で23%増加、純資産で2.9倍になった。アベノミクス相場でTOPIX がこの間に77%上昇と株高が投資家の買い意欲を刺激した上、指数の2倍動くレバレッジ型、指数と逆方向に動くインバース型が登場するなど商品の多様化も背景にある。
ETF市場を活況に導くもう1つの要因が、デフレ脱却に向け大規模金融緩和を続ける日本銀行の存在だ。東京証券取引所の試算では、2月末時点の日銀のETF保有額は6兆17億円。国内ETF全体に対する比率は5割に達する。
シンプレクス・アセット・マネジメント の運用本部ディレクターを務める棟田響氏は、日本のETF市場の成長が「誰のおかげかというと、安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁」と言う。
特に株価下落時に日銀の購入が確認でき、相場の下支え役として市場参加者からの信頼感は厚い。ETFと指数連動証券(ETN)の合計売買代金は、3月に5兆4544億円(立会内)と過去最高となった。
日銀が景気刺激、金融市場の安定化を狙いリスク資産であるETFの購入を初めて表明したのは10年10月。買い入れ規模は当初4500億円だったが、黒田総裁による13年4月の異次元緩和で年間1兆円となり、昨年10月の追加緩和では3倍の3兆円に引き上げられた。ブルームバーグの試算では、日銀が購入可能なETF17本の純資産総額は、国内ETF全体の85%となっている。
日銀の黒田東彦総裁は3月の国会答弁で、ETF購入について「株価を押し上げることをもくろんでいるのではなく、市場におけるリスクプレミアムの圧縮を通じて市場全体が活性化していくことを期待している」と述べた。
増えるアセット・マネジメント収益ETF市場の拡大、活性化は運用会社の収益にとってプラス要因だ。3月末時点の契約型公募投信の純資産額総額が23兆円と投信会社の中でトップの野村アセットマネジメントは、日銀が購入可能なETF3本を運用・管理し、合計純資産総額は5.4兆円とこの2年間で2.2倍になった。米ブラックロックの2月時点のデータでは、野村アセットは世界7位のETF運用会社で、2年前は9位だった。
野村アセットを傘下に持つ野村ホールディングス の15年3月期決算を見ると、金融費用控除後の収益合計は前の期比3%増の1兆6042億円。投信ビジネスを含むアセット・マネジメント部門は15%増の924億円と、増収率はホールセール部門の3.2%を大きく上回り、株式委託手数料の減少などで6.9%減少した営業部門を補った。同社の14年3月期アセット・マネジメント部門の増収率も17%だった。
売買代金は海外勢5割超東証の試算では、2月までの2年間で日銀のETF保有額はおよそ4兆1000億円増えた。信託銀行を通じて購入する日銀の存在はETF自体の認知度を上げ、純資産や取引量の増加につながった。しかし、3月の投資部門別売買動向(委託売買代金ベース)によると、信託銀を含む金融機関の比率は1.52%にとどまり、54%を海外投資家、42%を個人投資家が占めている。
米ブラックロックのETF運用部ヘッドを務めるジェイソン・ミラー氏は、市場に対し日銀の動きは「明らかに影響がある」としながらも、「日銀の購入プログラムを考慮しなくても、驚異的な成長がベースにはある」と指摘する。
同社のETF「iシェアーズ日経225 」は01年に上場し、日銀が異次元緩和を行う前の13年3月時点の純資産総額は117億円だった。2年後には1532億円と13倍となり、保険会社や地方銀行も買ってきているとミラー氏。ブラックロックでは商品の多様化も進め、日銀がJPX日経インデックス400 連動型の資産購入を始めると発表した2カ月後の昨年12月、「iシェアーズJPX日経インデックス400 」も上場させた。
また、DIAMアセットマネジメント が1月、三井住友アセットマネジメント が日経平均連動の商品を新たに上場させるなど、ETF市場全体の成長を見込んだ動きが運用会社の間で出てきている。
根強い追加緩和観測日本株市場では、デフレ脱却の流れをより確実にするため、日銀がさらなる追加緩和に踏み切るとの観測が根強い。リスク資産の購入規模が大きくなれば、ETF市場も一段と拡大する可能性がある。
3月の全国消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品を除くコアベースで前年同月比2.2%上昇。消費税増税の影響を除くと0.2%上昇にとどまっており、日銀は4月30日に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、物価上昇目標の2%程度に達するのは16年度前半ごろと従来の15年度を中心とする期間から先延ばしした。
ブルームバーグが行った調査では、34人のエコノミストのうち、22人が10月末までに日銀は追加緩和を行うと読む。野村証券では、10月にETFの購入額が年間6兆円に増額されると予想。一方、16年10月以降に購入額を減らし始めるだろう、とみている。
日興アセットマネジメントの今井幸英ETFセンター長は、日銀がETFの購入額を減らす局面になれば、「需給面で影響が出てくる」としつつ、その頃には「日本経済も良くなって、資本市場も活発になっている」との認識を示した。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 竹生悠子 ytakeo2@bloomberg.net;東京 Yuji Nakamura ynakamura56@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先: Sarah McDonald smcdonald23@bloomberg.net 院去信太郎
更新日時: 2015/05/12 13:22 JST